第31話 空白
青年は、この夜に、自分の思いを告白するつもりだった。
しかし、思いがけず、自分の作った曲を柿谷に聴かせるという話の段になり、この告白は中絶を余儀なくされた。
青年は自らの思いを打ち明けるよりも、柿谷が自分の音楽に対してどのような感想を持つのかということに考えが奪われたのだ。
結局、その日は約束の後、別れた。
青年は次に柿谷と会うとき、自分の音楽を聴かせなければならなかった。
青年は自らの軽率さを悔いた。
自分を開示することで、相手を開示させようという試みが、自分だけが己を開示してしまうという間抜けな結果に帰結したのだ。
この自意識過剰な青年にとって、己の創作物を人に見せるということは、非常に勇気を伴うことだった。
この勇気の申し出が空振りに終わったことで、青年は柿谷に対して身勝手な失望を抱いた。
青年は眠りに就く支度をした後、布団に身を横たえ、悶々と寝苦しい時間を過ごした。
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