第13話 花ざかり
「ことに柿谷さん、今度僕とカラオケに行きませんか?」
ある昼休みだった。
昼食を食べ終えた柿谷に、青年が声をかけた。
「カラオケですか?しかし私は歌が下手なので・・・」
「そうですか、しかし、柿谷さんは声が良いので、良い歌が歌えそうなものですがね」
事実、柿谷の声は美声と言ってよかった。
深く太い、それでいて集団の中で話していてもはっきりと聴きとれるような、抜ける声をしていた。
「水無月さんこそ良い声をされていますよね。羨ましいです」
この体格の良い青年には奥ゆかしさがあった。
決して驕らず、自分より人を優先する傾向があった。
これはこの青年の処世術であり、水無月青年は彼のこうした性質にどことない物哀しさを感じていた。
「今週の土曜日は空いていますか?」
柿谷の目を見据え、青年が口を開いた。
「土曜日ですか?ええ、空いています」
「それでは、その日お食事でも行きましょう」
「分かりました。よろしくお願いします」
青年は駒を一手先へと進めた喜びに、笑顔を見せた。
内向的な青年の見せる笑顔とは、夕暮れ時を思わせる、ミステリアスな、哀愁を感じさせる笑顔である。
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