第10話 暗がり

「破滅って、何をするつもりなの」

「それはまだ分からない。でも、こういう時、文学はヒントを与えてくれる。僕はドリアン・グレイや、『金閣寺』の溝口や、『人間失格』の大庭葉蔵に己を重ねている」

「破滅は良くないよ・・・。多分、夕貴さんは疲れているんだよ。最近頑張りすぎてるんじゃない?」

「・・・かもしれないな。俊ちゃん、君はカウンセラーにでもなるといい。君はまだ若いが、人間に対する深い洞察力がある。それはきっと、人々の救いになるだろう」

「そうかな、でも、僕は人と話すのが苦手なんだ」

「僕もそうさ。思うに、人は皆少しずつ無理をして生きている。僕らからしたら成功者に見える者でも、彼らにはまた、成功者の中での争いというものがあるのさ。そう考えると、落伍者こそ幸せなのではないかとも思えてこないか。落伍者はもう争いの連続から除外されているんだからね」

「夕貴さんは?」

「僕はどちらでもないさ。争いから逃れられず、かといって、成功者にもなれない凡庸な存在だよ。凡庸だからこそ、破滅を求めているとも言えるね。破滅することで、自分の人生を劇的にしたいんだ。とにかく今は、愛し合おう。僕の家に来るといい」


青年の愛への希求は、破滅からの逃避だった。

破滅と愛は対比するものでなければならなかった。

青年を脅かす破滅の影から逃げるように、二つの哀しみは夜に溶けていった。

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