第8話 摩耗

破滅の未来が青年の脳内に現れ、それは消えることなく青年を脅かし続けた。

もう、限界だった。

職業訓練校が終わるとすぐ、青年は精神科に駆け込んだ。


「僕は、破滅したいんです。人生がどうにもならなくなって、無差別殺傷事件を起こす人間がいますよね。僕の未来は、あれなんです。僕は、罪を犯す前に死刑にならなければならない、あるいは、逮捕されなければならない。この後、警察に行きます、破滅するために」


青年は一気に語り終えた。

医者は、彼の気持ちが落ち着くのを待って、声をかけた。

「職業訓練校で、何かストレスがあるの?」

「ストレス・・・、そうですね、僕はまず、世の中の大抵の事は楽しめないんです。そして、僕には人と人間関係を築く能力がない。それにも関わらず、僕は人を求めてしまうんです。関わりたいと思ってしまう」

「それは難しい問題だね、とにかく辛そうだから、薬を出しておこう」


『この世界は確実に何かがおかしい。しかし、それを論理的に立証しようとすればするほど、世間は俺を狂人とみなすに違いない。結局、この世界では多数派であることが唯一絶対の正しさなのだ。真に正しいことを言う少数派の意見は聞く耳を持たれない。アリスタルコスはすべての人類が知るはるか前から、真実に到達していたが、愚かな多数派は彼に石を投げることしかしなかった。そこでは真に公明な事実などは、何の意味も持たないのだ・・・』


青年は強い孤独に苛まれた。

彼の理解者はどこにもいないと感じられた。

夜の闇が、彼の全身を覆い尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る