第6話 ソフィア
目が合い、しばしの沈黙があった後、天使は口を開いた。
「ここは寂しい場所だね。風景が泣いている」
穏やかな、優しい声だった。
少年の声だった。
「寂しい?こんなに綺麗な景色なのに?」
「綺麗だからだよ。美しいということは完全であるということで、完全であるということは寂しいということなんだ」
「君の名前は?」
「名前はない。ここには僕しかいないから、名前を持つ必要がないんだ」
「でも、人にはみんな名前があるもんだ。人は名前を付けることで、存在の意味や愛着を見出すんだよ」
「それなら、君が名前を付けるといい」
青年はこの無名の天使と会話することに、不思議な安堵感を覚えていた。
太陽の光を浴び、森に包まれているかのようだった。
ハープの美しい調べが、青年の中に鳴り響いた。
「ソフィアと呼びたい」
「うん。僕はソフィアだ」
「ソフィアはここに住んでいるのか?」
「住んでいる、というのは適切ではないね。ここは君の夢の世界で、紛れもなく君が描き出した世界だよ」
「僕の世界?では、なぜ君はここにいるんだ?」
「君が召喚したからさ。僕は君の世界の中でしか生きられない」
青年は自らの美の理想が、夢の中でしか見られないことに絶望を感じた。
現実の世界で、この天使に勝る美は存在しえないと悟ってしまったのだ。
『これは、おれの幻夢だ。おれが目覚めたときに、この美しい天使と世界は立ち消えてしまう。覚めない夢などない。数刻のうちに、おれはまた絶望の現実へと戻ってしまうのだ』
こうした事実を見ながら、あえて青年はこの世界が永遠に続くものだと認識した。
すると、青年に幸福がやってきた。
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