第5話 Dream

ある晩、青年は夢を見た。


この青年は夢を愛していた。

夢の中では、日常彼を悩ましている不眠や自殺願望に煩わされることがなかったからだ。

夢は、あらゆる現実の辛苦を彼から遮断した。

一方で、夢が彼に与える感覚は鮮明だった。

喜びも悲しみも、彼が現実で感じるのとまったく同じ鮮度で味わうことができた。


人には、夢で見る景色がカラーで見える人と、モノクロで見える人がいるという。

彼が見る夢はいつも鮮やかに色付いていた。

彼はこんな一事をもって、自分には芸術的な素養があると思うことができた。

夢の鮮明さが、彼を夢見がちな性格にさせていた。


青年が見た夢の内容に話を戻そう。

彼は緑で覆われた小高い丘にいた。

視界いっぱいに草原が広がり、風のざわめきがその緑を豊かに波打たせていた。

青年は丘を降りた。

すると、視界の先に湖が見えてきた。

湖は、太陽の鮮烈な光を受け、水面に金銀糸のようなきらめきを浮かばせていた。

湖の前に、人の姿があった。

湖を眺めるようにして、青年に背を向けた状態で、湖の前の緑に腰掛けている人物があった。

青年が近づくと、この人影は立ち上がり、青年に面を向けた。


それは、青年が見た事もないほどの美少年だった。

肩まで伸びた金髪が、風のいたずらによりゆらめいていた。

その聡明で愛嬌に満ちたエメラルドの瞳が青年に注がれた。

青年はとっさに、これは天使だと直感した。

『天使がおれの目の前に現れたのだ』

そう思って見てみると、美少年の両肩から白い翼が生えていることに気づいた。

この天使の顔はあどけなく、体躯も少女のように華奢だったが、青年は天使が男であることを確信していた。

この天使には美少年特有の繊細な幽玄があった。

青年は、そうした雰囲気を感じ取れる自分は、やはり美に愛された人間なのだと思った。

目が合い、しばしの沈黙があった後、天使は口を開いた。

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