第4話 理想に振り下ろされた刃

青年は思った。

『なぜ男と女の恋愛が正常であり、男同士の恋愛は異常とされているのか!男と女の愛など薄汚い売春ではないか!女は男の財力を目当てに己の性を売り、男は財力で女の体を買っている!<通常の>男どもは皆、女とやりたいだけじゃないか!女もそれを承知で男の足元を見て、より稼ぐ男の娼婦となるべく、己の美貌を磨いているのだ!そんなものは、美しくもなんともない!男と女の愛とはつまるところ、経済の取引にすぎんのだ!そんなものは、おれは愛とは認めん!愛とはもっと崇高で、神聖なものなのだ!』

この青年は、愛の理想に取り憑かれていた。

元来の理想主義気質に加え、薔薇の血族としての自己認識が、彼をより強固な同性愛者にさせていた。

結婚が嫌だった。家族が嫌だった。恋愛物語が嫌だった。男と女は二人でひとつの完全なのだという世間の認識が嫌だった。

それは、青年を重い鉄の輪で押しつぶし、異常者としての人生を彼に強いた。

もし、願いが叶うのならば、ただちに男と女の愛を終わらせてほしい・・・。

同性同士で愛し合う、真の愛で満ちた世界に生まれ変わってほしい・・・。

青年の望みは、決して叶うことのない、泡沫の夢だった。

彼は、男同士の愛が極めて幸福に満ちた慈しみの関係なのだと知っていた。

しかし、彼の確信を、世間は決して受け入れようとはしなかった。

かくして彼は、永遠に晴れない暗雲の下での人生から逃れることはできなかった。

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