第42話 要望聴取?

 とりあえず本日のお仕事は終わった。


 僕の作業はコンテナ、ユニットハウス入れ替えを終了、個室部分も外壁や床下基礎まで終わった。

 美愛も午前中に漬物作業を半樽×2個分終了。

 午後は刈ったヘイゴの枝払い、半割り、芯抜き等をやって貰った。


 ちひや結愛が帰ってくるのはオース時間で午後6時半過ぎ。

 ある程度潮が引かないと仕掛け網や簀立すだて漁が出来ないから、必然的にその時間になってしまう。


 ちひが置いていった時計によると、帰ってくるまで後20分くらい。 

 今は美愛とちひや結愛が帰ってくるのを待っている。

 外の作業場にテーブルを出してお茶しながら。


 天気がいい日はこうやって外にテーブルを出す事も多い。

 家の中は暗いし、草地に作った作業場なら下が焼土で固く、足が汚れる事もないから。


「今回の漬物で今まで貯めた分のヘイゴの芯や若芽をほとんど使ってしまいました。今回の作業である程度確保できましたけれど、次回に備えてもう少し確保しておきたいです」


 確かに漬物半樽分は結構多い。

 採るなり買うなり次回分を調達する必要がある。 


「此処が終わったら養殖場工事その2をやろうか。それともちひの土地で取ってくるなんてのもいいのかな」


「向こうにはあまりヘイゴはなかったと思います。蔓芋や木豆クァバシンはそこそこありましたけれど。だから次回分は購入することにして、ゆくゆくはこちらの森を整備して定期的に取れるようにした方がいいと思います。

 そう言えばちひさん、向こうの土地を和樹さんに見せたがっていました。一度行ってみた方がいいんじゃないでしょうか」


 そう言えば美愛も結愛も既に行っているのだった。


「やることが多くてなあ。とりあえず此処の増築が終わって、味噌や醤油も出荷分作り終わったら行ってみるつもりだけれど」


「面白いですよ。海の中に網とか枝とか仕掛けてあって。魚捕り用秘密基地って感じです」


 ちひのちひによる理想の野外拠点だな、それは。

 実際その通りなのだろうけれども。


「味噌や醤油、麹は一貫製造魔法を作ってあるんですよね。なら明日に何とか家を終わらせて、夜のうちに麹を作る魔法をかけておいて、朝、全部セットして魔法をかけたら向こうへ行きませんか。何なら自転車で後から追いかけても」


 確かに専用のオリジナル魔法を作ったから魔法をかけた後は放置でも問題ない。

 しかし残念ながら前提に問題がある。


「明日で家を終わらせるのはちょっと無理かな。屋根と壁が残っているから」


「大変なのは内壁だって言っていましたよね。でも明日か明後日、全員でやれば何とかなると思います。何ならちひさんにも話して協力して貰えば。明日はこっちで作業する予定だって言っていましたから」


 美愛の言う通りで内壁が一番面倒だ。

 屋根は以前と同様、載せて挟んで縛ってで作る予定。

 耐久性はあまりないだろうから2~3年で葺き替えが必要になる。

 でもその頃にはある程度お金も貯まるだろうから、その時に板材なり瓦なり考えればいい。


 問題は内壁だ。

 外壁と同様土を盛り上げて作ると壁が分厚すぎて場所をとる。

 また壁面が床に対してまっすぐにならない。

 しかし板で作ろうにもこの辺の樹木からは平面の板が作れないのだ。


 考えた結果、

  ① ヘイゴのひごと枝等で壁のベースを作り

  ② 製作済の基礎の部分にヘイゴの丸太の柱を数カ所立てて

  ③ 柱に①で作ったベースを、太めのひごや紐で固定し

  ④ 石灰石と土、植物繊維を混ぜ合わせた壁土で塗って仕上げる

という手順で作る事にした。


 なお④用の混ぜる繊維や消石灰は村で購入済。

 日本で調べた資料をもとにした計画では、

  ① 石灰石は貝殻を焼いて作る

  ② 繊維は現地植物をカットし腐食させて作る

つもりだった。

 しかし市販品の方が品質が保証されている分楽だから購入。


 つまり壁は壁塗り&乾燥工程が必要となる。

 今までのように出して並べてでは完成しない。

 その分時間と手間がかかる計算だった訳だ。


「ちひもやろうとしていた作業があるだろう」


「1日くらいなら大丈夫だと思います。和樹さんほど作る方もせかされていないと言っていましたから。それにちひさんの場所に行くためだといったら喜んで手伝ってくれると思います」


 そうだろうか。

 奴は奴なりに確固たるものがあるからな。

 その辺甘く見てはいけない。

 まあそれはとにかくとして。


「わかった。とりあえず明日は出来るだけ頑張って家の作業を進めて、明後日以降時間がとれるようにしよう」


 そう言って、そしてふと気になった事を思い出した。


「そう言えば美愛は何かやりたい事とか欲しいものはないか。いつも仕事ばかり頼んで申し訳ないからさ」


 美愛は真面目すぎて遊びが無い感じが時々する。

 もっと何というか自分を出してもいい気がするのだ。


「特にないです。此処は楽しいですし、結愛も私も良くして貰っていますから」


「家族みたいなもんなんだから遠慮はなしでさ。それに結愛だって今は皆の妹みたいなものだろ。もう美愛一人で抱え込む必要はないからさ」


 ちひが結愛を連れ出すのだってその辺の意図があるからだと僕は思っている。

 お互い相談はしていないけれども。


「ならひとつ、いいですか」


 何だろう。


「何?」


「勉強を教えて欲しいんです。高校入学してすぐこっちに来てしまったので、その辺がまだ足りていないかなと思うので。せめてこの世界の義務教育くらいは完全にしておきたいです」


 そのくらいならいいだろう。

 それに僕もこの世界独自の知識があまりない。

 知識魔法を使えるからいいというのは少し違う。

 知っているからこそ検索できるなんて事もあるのだ。

 美愛と一緒にその辺を勉強するのも悪くない。


「わかった。それじゃ今度イロン村に行った時に参考書を買ってこよう」


 それくらいの出費は大丈夫だろう。

 ヒラリアの本の値段は日本よりやや高い程度。

 数冊程度なら買っても財政に支障は無いから。

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