第22話 似ているけれども

 味噌の作業は1時間おき。

 しかし他にも仕事があるからそうきっちり1時間毎にはできない。


 例えば地面が乾いたお昼過ぎに行う、東側の尾根近くまで木豆を取りに行く仕事。

 木豆の実がなるのは秋。

 しかし翌年の夏の始めくらいまでは実がついたままになっている。

 これを出来る限り取っておこうというものだ。


 1日につき最低10株分がノルマ。

 比較的乾いているとはいえ森の中へ入るので僕専門の作業になる。 


 ついでにでっかいトカゲや小型恐竜、イルケウスだのミルロケナスだのがいたら獲ってくる。

 ミルロケナスはクァバシンの森に、イルケウスはトルデアの森にそこそこ生息しているから。


 水路と養殖池の見回りなんてのもある。

 少なくとも昼の満潮時付近と午後の導水停止時あたりには見に行った方がいい。

 ごくたまにだが水生爬虫類が水路に入り込んだりするのだ。

 放っておくと養殖池への柵を壊して入られて、中を荒らされかねない。


 それに水生爬虫類ダルサラスは結構美味しい。

 このサイズの爬虫類のなかでは、脂がのっていてダントツの味なのだ。

 だからいればラッキーなんてのもあったりする。

 まだ1回だけしか水路内で目撃していないけれども。


 養殖池は今のところ順調だ。

 偵察魔法や警戒魔法で見る限り、そこそこ生物多めの環境が維持出来ている模様。

 水質浄化のために移植したオーラムもしっかり根付いている。

 

 そんな訳で少し遅れて夕食前、味噌に6回目の成長魔法をかけた。

 これで明日の朝、味見をしてみればいい。

『よくできました』か『もう少しがんばりましょう』。

 どちらになるだろう。


 ◇◇◇


 翌朝朝食前に麹作業の部屋へ。

 勿論味噌の出来具合を確かめるためだ。

 昨日、別のカビが生えていないか確認しながら6回の成長魔法をかけた。

 つまり6ヶ月分熟成している筈だ。


 見た目は少し白っぽいが味噌のように見える。

 アローカ味噌とグネタム&木豆味噌も外見はほぼ同じ。

 箸で袋から少量取り出して皿に入れる。

 香りも味噌そのものだ。


 さてお味はどうだろう。

 まずはアローカ味噌から、箸を軽くなめてみる。


 甘い。

 味噌に似た味だがかなり甘い。

 西京味噌というか、それとも少し違うというか。

 名前を忘れたが中華で使う味噌でこんな味のものがあった気がする。

 少なくとも日本における普通の味噌ではない。


 ならグネタム&木豆味噌はどうだ。

 こちらはもっと甘い。

 野菜につけて食べると美味しい気もするが、これも日本の普通の味噌ではない。


 発酵が足りなかったのだろうか。

 あとこれらに似た中華の味噌、何という名前だっただろうか。


 僕は思い出せないといつまでも気にする性格だ。

 そして惑星オースに関係ないものは知識魔法で答えは出ない。

 ここは人に頼ろう。

 出来た味噌もどきを皿に入れて美愛の所へ。


 美愛は朝ご飯をテーブルに並べていた。


「美愛、頼みがある。自作味噌の試作品が出来たんだが、これって中華で似たような調味料が無かったっけか。名前が思い出せないんだ」


 自作味噌入りの皿を出す。


「味見をしていいですか」


「勿論」


 美愛は指につけて嘗めて味を確かめる。


「色は薄めですけれど甜麺醤でしょうか」


「そうだ、甜麺醤だ」


 やっと思い出した。


「少し風味が違いますがどちらも美味しいと思います。同じようなものが無ければ売ってみてもいいんじゃないですか」


「本当は日本の味噌を作るつもりだったんだけれどな」


 甜麺醤の作り方は知らない。

 だが甘くなった理由は想像がつく。

 デンプンが多く、タンパク質が少ないせいだ。


「これはこれで美味しいと思います。味噌っぽい香りもありますし、このまま肉を漬けたら西京味噌っぽくなると思います。ヘイゴの新芽を漬けてみても美味しいかもしれません」


 確かに美味しいかもしれない。

 ならこれはこれで量産しよう。

 

 ただ日本の味噌をやっぱり作りたい。

 ちひの目を引きつけるにはそっちの方がいいと思うから。


「とりあえずご飯にしませんか。食べたら水路にも行かなければなりませんし」

 

 確かにそうだな。

 まずは通常の日課を済ませてから考えよう。 


 ◇◇◇


 朝食後は水路を見回りつつエビや小魚を捕る。

 家に戻ったら読み書きと魔法の勉強。


 なお美愛は僕と違う発想でオリジナル魔法を作っている。

 たとえば急加速魔法、別名運動エネルギー操作魔法。

 これは魔素マナのエネルギー操作を利用し、運動エネルギーを直接操作するイメージで作ったそうだ。

 これを利用すると一気に急加速したり、逆に止まったり出来る。


 また同様の理屈で大ジャンプ魔法、別名位置エネルギー操作魔法なんてのもある。

 名前の通り位置エネルギ-を直接操作する魔法だ。


 それ以外に生活に便利な魔法なんてのも開発してくれた。

 クァバシンの種毒抜きとかヘイゴの芯からデンプンを取る魔法とか。

 作業手順を魔素マナの機能に置き換え、具体的にイメージするという方法で作られた一連の魔法だ。


 そんな中で水路から帰ってきた時に便利なのがエビ処理魔法。

 これは小指より大きいエビの頭と脚をとり、殻をむいてワタを取る作業を自動化した魔法だ。

 これを起動するとエビがあっという間に処理できる。


 処理したエビはアイテムボックスに入れておけばいつでも新鮮。

 生でもフライでもなかなか美味しい。

 いずれ養殖場から本格的に収穫する際は重宝するに違いない。


 さて、勉強時間が終わりおやつを食べたら、昼食まではお仕事時間。

 それでは今度こそ日本の味噌作りに挑戦だ。  


 解決方法はわかっている。

 デンプンを減らしてタンパク質を増やせばいい。

 ただし入手可能な植物でタンパク質が多そうなものが思いつかない。

 

 ならば禁断の手段をとるしかないだろう。

 動物性タンパク質の導入だ。


 ただ脂肪分等、余分な成分が混じっては雑味が出る。

 量産するなら調達も難しくないものにする必要がある。

 その2点を同時に満たすというと……イルケウスかミルロケナスだ。


 肉質的にはミルロケナスの方がいい。

 脂肪分が少なくさっぱりしている。

 特に脂肪分が少ない胸肉部分を使い、しっかり茹でて脂を落とした上でミンチにして乾燥すれば良さそうだ。


 ただミルロケナス、捕るのが結構難しい。

 二本足で割と敏捷だから。


 捕るのはイルケウスの方が遙かに楽だ。

 動きが遅めだしミルロケナスより太い分肉も多い。

 イルケウスのいるトルデアの森は虫が多くて好きになれないけれど。


 入手が面倒なら購入するという手段もある。

 アルケナスやデルパクスの肉なら市場で普通に売っている。

 飼育されているので流通も安定しているのだ。


 よし、今回はミルロケナスを使い、後は公設市場でデルパクス肉を購入して使おう。

 この2種類は味が似ているらしいから。

 決してあのトルデアの森に入りたくないからではない。 

  

 さて、それではタンパク質の生産からはじめよう。

 さしあたってミルロケナスの肉を美愛に分けてもらいに行こうか。

 今は食料品関係は基本的に美愛管理。

 在庫も美愛のアイテムボックスに入れているから。

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