第23話 信州みそ? 完成

 お昼ごはんの少し前、日本風味噌の試作品が完成した。

 色はほどよく茶色でいわゆる信州みそ風。

 味も甘みより塩辛さが強く、更にコクも感じる。


 ただ僕の何でも美味しく感じてしまうハッピーな舌は信用できない。

 もう少し違いがわかりそうな美愛&結愛に味見をして貰おう。


「辛い!」

 

 結愛の反応は予想通り。


「味噌ですね。少し待って下さい」


 美愛はそう言うとさっと鍋にヘイゴの芯や若芽、何か魚の切り身と水をいれ、沸騰させる。

 そして僕から預かった試作味噌を入れさっとかき混ぜ魔法で熱を通した。

 味噌の香りがふっと広がる。


 出来た味噌汁を深めの小皿にさっとわけて、それぞれ僕や結愛へ。


「この方がわかりやすいと思います。どうぞ」


 確かにそのままなめるよりはわかりやすいかな。

 そう思って味見。

 うん、間違いない、味噌汁だ。

 しかし僕のハッピーな舌ではそれ以上の感想は出てこない。


「どうかな。僕は味噌になっていると思うけれど、正直な意見を聞かせて欲しい。販売用にするからさ」


「大丈夫です。美味しい味噌だと思います。少しだけ甘めで、でも昨日の甜麺醤とは違ってしっかり味噌です。いわゆる売っている味噌より少し味が柔らかいですか、むしろこの方が私は好きです」


 おお、美愛のお墨付きが出た。

 これで安心して作れる。


「ありがとう。本当に助かる。今もさっと味噌汁作って確かめて貰えたしさ。僕1人ではこうやって判断するなんて事もとっさには思いつかないし」


 実際そのままをなめただけで判断しようとしていた。

 でも確かにこうやった方が味がわかる。

 そして僕だけならここまでさっと味噌汁を作るのも出来ない。


 食材をある程度下拵え等した上で収納し直しているのだろう。

 そうでなければ今のような事は出来ない筈だ。

 その辺も含めてありがたい。


「ならずっとここにいていいですか」


「僕としてはいてくれた方が助かるけれどさ。でも美愛は美愛でこの先があるだろ。現状じゃ出会うきっかけもないけれど、その辺はいずれ何とかしようと思うからさ。結愛もある程度は家庭学習だけで無く学校へ行った方がいいと思うし」


「……そうですか」


 がっかりしたような反応。

 間違っただろうか、今の会話の何処かで

 思い返してみたが僕にはわからなかった。

 女の子は難しい。


 ◇◇◇


 甜麺醤や味噌のベースはグネタム&木豆味噌にした。

 こちらの方が少しだけ風味がいい気がしたのが理由その1だ。

 ただハッピーすぎる僕の舌は信用出来ない。

 美愛、そして結愛にも味見をしてもらって判断した。


 それに木豆なら僕の土地でかなりの量を採取できる。

 今まで集めただけでも30kg以上。

 他から買わなくていい分安く作れる筈。

 これが理由その2だ。


 それでもアローカは麹用に必要だ。

 ただ今後は自家消費用と商品製造用は分けて購入しようと思う。

 商品用の材料は業販で安く購入できるし、税金の申告の為にも分離して購入した方が楽だから。

 勿論グネタムも同様。 

 今回は幸い自家消費の前に全量をこっちに投入しているから、会計問題は気にしなくていいけれども。


 製造方法もマニュアル化しておいた方がいい。

 品質が揃った商品を作るには必要だ。

 あとは僕に万が一の事があっても美愛が作る事ができるように。

 まあ万が一なんて無いようにはするけれども。


 さて、追加するタンパク質を作成しよう。

 ミルロケナスの胸肉を刻み圧力鍋に投入。

 しばらく高温高圧にした後、冷して浮いて固まった脂をまとめて取り、残りを乾燥させてタンパク質強化用素材を作成。


 あとは材料の量を調整しながら昨日と同じ味噌造り作業だ。

 他に醤油も試作してみよう。

 まずは醤油麹を仕込むところから。


 今日の午後は久しぶりの雨。

 だから野外作業は中止し、麹作業部屋に籠もって作業を続ける。

 具体的には、

  ○ 甜麺醤量産品

  ○ 味噌量産品

  ○ アローカ麹量産品

  ○ 醤油麹試作品

に成長魔法&その他の手入れをするなんて作業だ。


 甜麺醤と味噌は午前中仕込んだものに成長魔法(強)をかける作業。

 この魔法は1回につき1時間持続し、1ヶ月分の成長をさせる。


 作業も1時間に1回の割合。

  ① カビていないか確認して、

  ② カビがあったら取り除き、なかったらそのままで、

  ③ また成長魔法をかける。

 この繰り返し。

 だから割とのんびりした作業となる。


 一方でアローカ麹と醤油麹の方は手間がかかる。


 アローカ麹は今までは成長魔法を使わずに作っていた。

 しかし本格的に味噌や醤油を作り始めると足りなくなる。

 だからこれからは成長魔法を使って量産するつもりだ。

 ただし料理等と違ってアイテムボックスに入れられないので、大量といっても作りすぎない程度で。


 作り方は

  ① アローカを蒸して柔らかくし、更に30度程度まで冷やした後、

  ② 既に出来上がっているアローカ麹と混ぜ合わせて棚に広げて置き、

  ③ 手入れをしながら成長魔法を1日分×7回かけて、

  ④ 乾燥させる。

という方法。

 

 醤油麹作り作業もアローカ麹つくり作業とほとんど同じ。

 本来醤油麹は大豆の麹なのだが惑星オースに大豆は無い。

 だから大豆の代わりにアローカと脱脂乾燥ミルロケナス肉、更にグネタム粉を使う。

 あとはアローカ麹と同じだ。


 しかし麹・醤油麹作業は菌を繁殖させる作業だけに面倒だし手間もかかる。


 使う成長魔法(弱)は1日分ほど成長させる効果がある。

 成長にかかる時間は2分間。


 この2分間で菌が活発に働く。

 温度も激しく上下動しそうだ。

 そして温度が高すぎると麹菌が死んだり他の菌が増えたりする。


 だから成長魔法をかける前に温度低下魔法と温度上昇魔法を両方ガンガンに効いた状態にする。

 多少の事があっても温度が維持出来るように。

  

 そして成長が終わったら手入れ作業。

 麹の様子を確認。

 余分なカビが優勢になっている部分があったらその部分を熱で殺す。


 更に麹菌の成長がまだらにならないようかき混ぜ。

 最後にイーダの灰を上に薄くふりかける。

 これを2分ごとに繰り返すわけだ。


 つまり麹関係の作業は(成長魔法の2分+作業時間)×7回分、作業しっぱなし。

 更にその後、アローカ麹は乾燥作業まである訳で……


 麹作業は甜麺醤と味噌の成長魔法3回目までにひととおり終わった。

 しかし正直くたびれた。

 麹つくり、めんどい。


 しかし醤油麹を作った以上、醤油の製造も始めよう。

 醤油麹と塩水をまぜてもろみを作る。


 これを適宜攪拌しながら成長魔法(強)を8回以上かければ発酵完了。

 絞って火入れして垽を沈殿させたり濾過させたりして除けば醤油が完成する筈だ。

 あくまでWeb情報の印刷によると、だけれども。


 甜麺醤と味噌の4回目、醤油は1回目の成長魔法をかけたところで美愛がやってきた。


「外、雨が止みましたけれど、水路の方へ行ってみませんか?」


 確かにそうだなと思う。

 ここでじっと作業をするのも疲れた。

 気分を変えた方がいい。

 結愛も退屈しているだろうし。


「わかった。それじゃ行こうか」


「ありがとうございます。それじゃ結愛、行くよ」


「わかった」


 だだだだっと走って結愛登場。


 外へ出て戸締まりをする。

 作業場や麹作業部屋の中を爬虫類等に荒らされるのは避けたい。


 しかし扉は作れなかった。

 この辺に自生している樹木では板が作れないのだ。

 中が柔だったり中空だったり、そうでない樹木は曲がりくねっていたりで。


 そんな訳で門を閉ざすのは丸太を使う。

 焼土製の門のすぐ内側に太い杭というか丸太を2本程埋め込んだ。

 そしてその横に長さ3m、細めのヘイゴ丸太が10本。


 アイテムボックス魔法でこの丸太を収納し、杭と門の間に出してやる。

 丸太合計10本で僕の身長よりやや高い壁が出来上がった。

 これで頑丈に門が封鎖された訳だ。

 

 これでも小型爬虫類等は防げない。

 次回イロン村に行ったら木材もある程度購入しておこうと思う。

 しっかりした扉を作る為に。

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