第10話 ちひの痕跡

 野菜は木の葉や若芽が中心。

 お馴染みのでっかいゼンマイ、つまりヘイゴの若芽もある。

 また大根っぽいヘイゴの芯も売っている。


 どちらもかなり安い。

 若芽は大根3つ分くらいの大きさで正銅貨2枚200円

 芯は大根1本分程度が2つセットで正銅貨1枚100円


 木豆クァバシンもある。

 毒抜き加工後のものが100gで正銅貨1枚100円だ。

 知識魔法で確認。


『10日間、毎日水を換え漬けた後、30℃前後の温度で3日間安置し発酵させる。その後魔法で乾燥させたもの』


 そこそこ手間がかかっているようだ。

 その割に安い。


 なおクァバシンの幹の芯から作ったデンプンも売っていた。

 これは300gで正銅貨1枚100円

 やはり安い。


 蔓芋テジャネも此処では野菜ではなく穀物に分類される模様。

 掘って洗った状態のものが200gあたり正銅貨1枚100円

 既に持っているし売るには安いので無視。

 

 アローカも売っていた。

 見ると確かに米に似ている。

 大きさも形も。


 これは200gで正銅貨1枚100円

 取り敢えず主食用として30kgほど購入。

 粉や粒等の固形物は袋なんてものには入っていない。

 秤の上からアイテムボックス収納という形になる。


 小麦の代用となるグネタムは乾燥させた実と粉にしたもの両方を売っていた。

 なおパンにした状態も次のコーナーで売っているのを確認済。

 味見用と研究用に実と粉両方を10kgずつ買っておく。


 次のコーナーでパンを購入。

 ここでメジャーなのは太長いというか、枕のようなパン。

 これを50個購入。

 これで主食は大丈夫だろう。 


 野菜や穀物を見ての結論だ。

 この辺は大規模に専業でやらないと採算がとれない。

 大規模にやりさえすれば需要は確実だから生活設計はしやすそうだけれども。

 取り敢えず僕向きではないと判断。


 次は肉類だ。

 値段はそれほど高くない。

 それにこの辺も専業がいるようだ。

 牧場風にして飼っている連中も、野生を狩っている連中も。


 だから僕が手を出すべき分野ではないだろう。

 それに肉類は十分すぎる位在庫がある。

 だから基本は見るだけ。


 そう思っていたのだが興味をひかれる物を発見してしまった。

 卵だ。

 

『デルパクスという小型肉食爬虫類の卵。形、大きさ、味ともに地球の鶏の卵に似ている。

 デルパクスはアルパクスと種が近い小型の雑食爬虫類。体高40cm体長120cm程度。地球で言う所の原鳥類 に近い種』


 つまり鶏の卵と同じように使えるという事だ。

 なら何かに使えそうなので買っておこう。


 肉類の後にそれ以外のたんぱく源らしいコーナーがあった。

 幅2m程度のショーケースに全ておさまるコンパクトなスペースだ。


 しかし此処が僕が一番気になった場所。

 先程はちひを探す方が優先でじっくり見なかったけれども。


 並んでいるのは魚、虫、そしてその加工品。

 多いのは魚のフライで既に揚げてある状態で売っている。

 概ね100gあたり正銅貨1枚100円

 しかし注目はそれではない。


 干物、そしてさつまあげ。

 そうとしか思えないものが3種類ずつ、合計6品並んでいる。


 此処ヒラリアは肉食メイン。

 魚食文化はあまり見られない。

 肉に適した爬虫類が簡単に入手できるからだろう。 

 そんな中、あえてこんな物をつくるのは……


 値段を見て、そして僕は近くの係員に声をかける。


「すみません。この干物を1種類ずつと、こっちの揚げ物を2個ずつお願いします」


「わかりました」


 出してくれた係員さんにそれとなく聞く。


「これってあまり見ないですよね。新しい商品ですか」


「ええ。一昨日から置き始めたものです」


 疑惑はますます深まった!

 とりあえずそのまま購入。

 干物やさつま揚げは先程購入した穀物のようにそのままではない。

 幅があって細長い、ビアルネイパの葉で包まれている。


 お金を払った後、さつまあげを1個残して収納。

 残ったさつま揚げを口へと運ぶ。

 予想通り塩っ気が足りない。


 ちひは薄味好みだ。

 料理も人の半分くらいの濃さで味付けをする。

 奴が作った味噌汁は味が薄いし、他の人が作った味噌汁を奴はお湯を入れて薄めて飲む。


 間違いないとまでは言えない。

 でも疑惑は確信に近いところまで到達した。


「これは売れているんですか?」


「まだ販売開始2日目ですがそこそこ売れています。このブースの前で足をとめて確認した後、ある程度まとめて買っていく方が多いです。ひょっとしたら化けるかもしれません」


 そこそこ売れていて、かつ在庫もある程度豊富にある模様と。


「これって次は何時頃入るかわかりますか?」


「残念ながらそれはわからないんです。初めて来た人ですから」


 奴が次にいつ来るかは不明。


「どんな人でしたか? 連絡をとる事は出来ませんか」


「若い女性でしたよ、背の高い。ただ連絡は無理ですね。この村に住んでいる人ではないので」


 間違いない、ちひだ。

 これ以上聞くのは怪しまれるだろう。

 ただこのさつま揚げ、僕の好みより味は薄いが懐かしい味がする。

 ついでにもう少し買っておこう。


「それではあとこれとこれを5枚ずつ」


「わかりました」

 

 これだけ買っても小銀貨2枚2,000円程度。

 穀物の件も含め、ヒラリアは食品については比較的安価なようだ。


 あとは調味料だな。

 隣のショーケースからだ。

 塩、砂糖、魚醤、酢、ハーブ類。

 牛乳もどきはこのコーナーのようだ。

 マヨネーズやトマトペーストもどき、肉系ペーストやベジマイトもどきもある。


 砂糖は1kg正銅貨3枚300円

 茶色い奴だが予想より安い。 

 醤油や味噌は類似品を含めて無いようだ。

 中華系の調味料等も無い模様。


 ベジマイトもどきがあるという事は欧米系の移住者が多いのだろうか。 

 そして中華系、日本系が無いからアジア系移民は少なめ。

 最近は日本人も増えているのかもしれないけれど。

 干物やさつま揚げを買う人がいるらしいから。


 魚醤にハーブ各種、牛乳もどきとマヨネーズもどきとトマトペーストもどきを購入。


 液体系の商品は量を指定して購入し、頼めば入れ物に入れてくれるスタイル。

 入れ物は筒みたいな形の素焼きで容量は500㎖、1ℓ、2ℓ、5ℓ。

 この入れ物は統一規格品の模様。


 買い物はこれくらいで充分だろう。

 ちひの手掛かりが掴めたしとりあえずは満足だ。


 ちひがここに来ているらしいという事。

 漁業及び水産加工業をやっているだろうという事。


 結果としてこれだけわかれば悪くない。

 少なくとも安心はできる。

 奴が元気でやっているだろうと。

 元々疑ってはいなかったけれども。


 穀類も買った。

 市場の相場も取り扱い物も概ね理解した。

 それではこの集落を軽く見物した後、拠点へ戻るとしよう。

 そう思った時だった。


「すみません。日本の人ですか?」


 背後から日本語でそう声をかけられた。

 ちひではない女性の声で。

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