第3章 集落遠征
第9話 開発拠点の村
起きてすぐ気づく。
アイテムボックスに銀貨や銅貨等が袋入りで入っていた。
どうやら手続きが終わって無事入金されたらしい。
内訳と計算書も同封されている。
内訳は
あまり大きい額の硬貨は使いにくい。
そして大量に持っていてもアイテムボックスを使えば問題ない。
そういう意味でこういう金種と枚数になったのだろう。
入金があったので早速支度してイロン村を目指す。
東側、あの湿気た森の外側を通るルートをたどって。
このルートを使った理由は3つある。
① イロン村は東側だからこっちから行く方が近い
② またアルパクスに襲われるなんて事を避けたい
③ 前回湿気た森と生物に嫌気がさした結果、尾根までそこそこ広い道を造ってある
ただし③の道がついているのは虫等に耐えられなくなった途中から。
そこまでは木を倒し、草や枝を熱分解しつつ進む。
どうせ村へは今後も行くのだ。
それならしっかり道をつけておいた方がいい。
尾根に出てしまえばこっちのものだ。
人の少ない登山道風の場所をオリンピックのマラソン選手並の速度で飛ばす。
なお途中、2回休憩を入れた。
最初の指定境界標のところで1回、そこから体感で1時間歩いたところで1回。
休憩で水を魔法で出して飲み、行動食を食べる。
水を飲んでふと思った。
魔法で出した水よりこの前沢で汲んだ水の方が美味しいと。
昨日は料理や食事等に汲んだ水を使ったから気づかなかった。
今度から水は出来れば沢で汲んだ自然水を使おう。
鉱山等が無ければ多分問題はないだろう。
ただアルパクスが……そう思うとそうそう汲みに行く事が出来ないけれど。
一方で行動食は昨日作ったアルパクスの腕肉・サラダチキン風。
やっぱりこれ、なかなか美味しい。
これだけで主食とおかず両方を兼ねるので楽でもある。
最後の高い稜線を上り切ったところで塀と堀で囲まれた場所が見えた。
イロン村だ。
小さいながら港があり、舗装された街道がヘラス方面へ続いている。
開拓地側から見れば人間社会の入口。
此処まで拠点からの所要時間は体感で2時間程度。
乗り物を使わないのにこの時間で移動できるのは身体強化魔法あっての事だ。
偵察魔法で進路上及びその周辺を確認し、一気に下る。
完全に坂道が終わったところで森が開け草地になった。
草地の向こう500m位のところに村壁が見え、正面には警備兵2人が立つ門がある。
この草地は森を意図的に刈り払ったものだろう。
近づいてくる野生動物等をいち早く発見する為に。
近づいてくる不審者もだろうか。
特に誰何される事もなく門を無事通過。
念の為移民である旨証明するカードをいつでも出せるようしてはいた。
しかしその必要はなかったようだ。
知識魔法の類である程度の事はわかるからだろうと推測する。
警備兵用の確認用オリジナル魔法なんてのもあるのかもしれない。
さて、まずは役所に行くとしよう。
移住手続きのほとんどは事務局が代行してくれた筈だ。
必要なのは確かに本人が移住したという本人確認のサインだけ。
服装があまりに浮いているようなら先に服を購入しようかと思っていた。
しかしその心配はいらない模様。
思ったより皆さん多彩な服を着ている。
どうやらこの辺でもそれなりに衣服の種類はある模様。
デザイン的には上は半袖丸首Tシャツ、下は長ズボンが多い。
色はTシャツは原色ではなくやや薄目だが赤、青、緑と多彩。
ズボンはカーキ色か生成りの白、もしくはグレー。
ちなみに僕が現在着ているのはモスグリーンの長袖作業服シャツと、同じくモスグリーンの作業ズボン。
移住後の作業用に某作業服チェーン店で購入したものだ。
気温は暖かい。
僕の体感では23度前後。
だから僕も長袖をまくっておこう。
野山の中でなければ長袖にする理由も無い。
街の入口すぐの場所に案内図を発見。
見ると役所、公設市場、港を中心にコンパクトにまとまっている。
どれもこの先真っすぐ、海近くまで行った場所だ。
そんな訳で早速役所へ向かう。
◇◇◇
役所で説明を受けて、署名して、移民用カードを正規の国民カードに切り替える。
税金その他の手続き関係をまとめた手引書を含む書類一式を受け取って手続き終了だ。
なおダメもとで聞いてみたが、やはりちひが何処に移住したのかは教えてもらえなかった。
その辺の個人情報の管理はしっかりしているようだ。
さて、次に行くのは公設市場。
此処でちひの手がかりが掴めるのではないかと思っている。
奴なら1月もあれば商品の試作位しているだろう。
何事も計画的にやる方だから。
だからそんな商品が売りに出ているのではないか。
そう期待しているのだ。
運が良ければちひ本人がいる可能性もある。
この公設市場は開拓者や農家、漁師等の生産者から預かった商品を卸売業者や小売店、個人に委託販売している。
ヒラリア共和国開発局の下部組織である南西部開発公社の運営だ。
中へ入るとガラスのショーケースが延々と並んでいる。
中には開拓者や農家等から出された商品。
ケースにあるのはあくまでも見本。
現物はアイテムボックス魔法か同じ機能を持つ自在袋という魔法アイテムに入っている。
見本を見て注文し、店員がそっちから取り出すというスタイルだ。
また売りに来ているらしい連中、もしくは大量購入をしようとしているらしい連中が商談している場所もある。
ちらりと見てみたがちひ本人はいない。
此処へ来たのはちひの手がかりを探す為だけではない。
僕自身もいずれ売る事が可能な商品を作り出す必要がある。
その参考にするのも今回の重要な目的のひとつだ。
更に必需品等の値段を確認し、購入するのも。
しかしやはり一番気になるのはちひの情報。
まずは速足でショーケースが並ぶ中を歩いてみる。
ちひ本人がいないか捜索だ。
ついでに並んでいる品物の大雑把な把握も併せて。
品物のほとんどは食品関係で野菜類、穀物類、植物加工品系、肉系統。
その後に日用品の金属製品、木工品という順番で並んでいる。
最後、紙や筆記道具を売っているところまで回った。
しかし残念ながらちひの姿も気配も感じない。
現在はこの中にはいないようだ。
ちひが少しでも視界に入れば気付く自信はある。
これは僕がストーカーの才能を持っているとか、奴に恋しているとかいう理由ではない。
ちひはそれなりに目立つ。
身長が僕とほぼ同じで170cm超え。
本人は169cmと自称していたけれど、おそらく175cm近くある筈だ。
自称173cmの僕よりやや高いと感じたから。
更に男性と比べると明らかに細身でスタイルもいい。
胸は小さめだが女性らしい曲線は服の上から見てもわかる。
いわゆるモデル体型だ。
ここヒラリアでも女性でそこまで身長が高めなのは今のところ見ていない。
だから見れば後ろからでもすぐにわかる筈。
つまり少なくとも今現在はこの中にいないのだろう。
ならば仕方ない。
次の目的、商品の吟味に移るとしよう。
もう一度最初の場所に戻り、今度はじっくりショーケースを見ていく。
ショーケースそのものはガラス製のただの箱。
ただ何かしらの魔法、あまり一般的ではない魔法がかかっている。
誰かが魔法をかけている様子が無い。
きっとこのショーケースは魔道具なのだろう。
中に入った野菜も肉も新鮮な感じに見える。
ならば魔法の種類は時間停止か停滞といった系統だろうか。
いずれにせよ僕がまだ知らない魔法だ。
そんな事を思いつつ、今後の自分の商品開発と現在僕が必要としそうな物、そして値段の相場を考えつつ吟味していく。
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