第7話

 ほとばしるような感覚はあいにく持ち合わせていない。

 いつもいつも自分はひどく冷静に現実を見ている。

 だから、妹が妹がって、そんな感情的になっているラリアを不思議な目で見つめている。

 「私は、ラリアの妹。霧子。」

 鏡の前で、笑顔を作りながら呟いてみる。そしてそのひどく不自然な様子に心地悪さを感じるのだ。

 最近、私の姉、ラリアは少しおかしい。今までの知識を総動員すると、どうやら恋煩いというもののようだ。なんだか熱に浮かされたような、うわずった感じを漂わせているから。それにあの人の視線の先をたどると、いつも同じ男がいる。これが確信した理由なんだけれど。

 そいつはいつもこの店に出入りしていて、何だか頼りなさそうな奴だと思っている。でもあいつの視線の先にもいつもいるのだ、ラリアが。

 ここで姉のラリアの話を少ししようと思うんだけど、ラリアははっきり言って人を引き付ける魅力がある。これはあの人が過去に経験してきた苦労に基づいているのか、生来持っていた気質なのかは分からないけれど、私にも分かるほどだ。

 だから店の主人はラリアで客引きをしているのだけれど。だがその分同性からはよくひがまれている。その無意識のせいなのか、漂うものがよびつけるのか、とにかくそういう感じなのだ。

 それで私はラリアの妹なんだけど、私の話になるんだけど、私はラリアの妹ではない。私には本当の姉もいるし、家族もいる。だが、私はこの店に連れてこられた。何分、人より少しばかり器量が良いからかな、この貧しい時代の中で家族に売られてしまったんだ。

 そして今に至る。


 私、昔から感情というものを実感したことがあまりない。どこか遠くから他人を見つめているような感覚、分かる?

 そもそもラリアも今の一応家族達もみんな、他人なのだからと思っていたけれど、違った。どんな人にでもなんだか違う世界に住んでいる人みたいに感じてしまうのだ。だから私は、名実ともに孤独を抱える。

 だが悪い気はしない。だって感情に振り回されて疲弊している人たちを見ていると、私は恵まれているのかもしれないなんて考えるから。

 やっぱり、おかしいなかな?


 そう思うのはまだ20にも満たない若い娘なのだけれど、みんな、周りにいるみんな、誰ももう私の存在には気づかないみたい。

 はあ、でもいいわ、それは無駄な苦労をしないってことにもなるのだから。


 と思っていたんだ。ついこの間まで。だけど、そう。ラリアの様子がおかしいって話したじゃない。その時から、いやその頃から、なぜか私に当たりがまわってきたのだ。

 当たりって?当たりは当たり。

 今までラリアにだけ向いていた悪意や敵意、憎悪、どれもこれも理不尽なものだった。そしてそれを私は今身をもって痛感してしまった。

 もう、耐えられない。今まで余裕をかましていたつもりだったのに、最近はなぜか他人を他人とも思えないし、自分を自分とも思えない。もうなんだか、境界線があいまいで、強めてはっきり言うなら、私は今、辛いのだ。辛いという感情を刷り込まれているように。

 だから、何だかこの店の人と異なってぼんやりと世界を見ている、あの男に救いを求めたのかもしれない。

 私があの男のすそを引っ張ったのだ。

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