第6話

 僕はラリアの境遇を知ってしまった。だから何としても助けなくては、なんて思っている。

 正義のヒーローなんて、鼻白む思いで見つめていた。いや、本当は目をそらしていた。だって僕は、倒される側の悪い奴だから。

 ああ、どうしてこんな因果に巻き込まれてしまったのだろうか、と自分に降りかかる全てを少し呪ってみる。

 僕はでも、今はすべてを忘れてみようか、なんて決めたのだ。苦しい現実を忘れるためには、新しいことを始めるのが優れていると知っているから。

 さて、あの老婆の部屋に僕はまだいる。そして尋ねる。

 「どうされました?もう、語りは終わったのですか。」

 すると、「終わったよ。もうどこかへ行けばいいじゃないか。」

 僕はそれをさし示してほしいのだ、と思いながら、でもなんだか体調の悪そうな老婆に意地を張ることもできず、すごすごと退散してやった。

 行く当てもない。こういうことが実はこの世で一番つらいんじゃないかと思っている。いまいち釈然としない心地で息をひそめながら体力を削っていくのだ。

 こんなことに何の意味があるかと、疲れた末に思っていると、何だかぼんやりとした緑色の光がともっているようだ。あれは何の光だろう。普通緑の光なんてあまりないはずなのに、でもこういう店だと通常となるのだろうか。

 話すとか話しかけないとかいろいろ考えながら、とりあえず光の灯る部屋の様子を眺めに行くことにした。

 ちらっ。

 僕はその部屋の様子を伺っている。今のところ薄暗くてよく見えない。でも人の気配はないようだからこのまま様子見をしようと思う。

 そして腰にぶら下げてきたライトをともしてみようと思い至り、実行する。

 だが、だがね。

 今はそんなことしなきゃよかったと思っている。

 そこに広がっていたのは、僕を捕獲しようと息を殺して気配を消した奴らがうごめいている様子だった。

 一人と目が合ったんだけど、何だこいつら。目に一切の光も入らないような冷たい目をしている。一目見て、怖い、と思うほど。

 

 ここはどこだろう。右も左も前も分からない暗がりに僕はいる。なんだか急に持ち上げられて、抵抗もむなしく目隠しされ、ほどかれた末にここに行きついたみたいだ。

 暗闇というのは人間の気持ちを慌ただしくさせる。目が見えない分、いや暗闇しか見えない分、思考が明確になってごまかしがきかない。

 そんな時、僕はどうすることもできないから、ふと考えてしまった。

 僕が求めているものは何だったんだろうかって。休みながら退屈をごまかす。そうだ、違った。今はラリアを救ってあげなきゃいけないし、僕のすそを引っ張っていたあの子を探さなくてはいけない。

 人間というのはつくづく理路整然としていなくて、本来の目的を奥に奥に押し込みがちなのだと気付く。

 最短でたどり着くのはどのような場所なのだろうか。ふっと考えてみたかった。この暗がりの中で僕は何をしようかって。

 そして決意する。やっぱりラリアだ。僕はラリアを救わなくてはいけない。だって、ラリアのことが好きだから。

 すその君というか、僕のすそを引っ張っていたあの子には申し訳ないけれど、これが僕の本懐だ。

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