第2話
狂おしいほどの愛嬌を振りまくのはこの店の主人の娘、ラリア。
ラリアは常に華やかだった。着飾る衣装も微笑む笑顔も話す言葉と音色が全部。僕の胸を貫く。
僕はかつてからこの店に足しげく通い詰めている。店の名はパステルシーという。何のお店かっていうと、華やかな、華やかな色を売る店。
「ラリア。出番だよ。」強い口調で𠮟りつけるように話すのはこの店の主人であり、ラリアの母に当たる女だ。だが、ラリアには全く似ていない。ラリアのように美しくもなく、儚くもなく、ただけがれているように感じる。
ラリアはこの店で楽器を演奏するのだ。
彼女はずっと音色を奏でる。この、女を売り買いする、汚れた店で。
僕はラリアとは面識がない。
ラリアはいつもおびえているようで、でも真面目にしっかりと仕事をこなしているのだ。
ある日だった。すそを引っ張られたのは。
いつものように僕はこの店に食材を下ろしに来た。僕は食品を売り歩く商人なのだ。
振り向くと、すそを掴んでいたのは見知らぬ女だった。
でもよくよく見ると、よくラリアと一緒に楽器を演奏している女ではないかと思い至る。
そうだ。確かにそうだ。いつもラリアの隣にいて、華やかなラリアとは対照的にほとんど存在感がない。
なぜ、僕のすそを掴むのか。分からない。
だが彼女の目は、その細くてでもキラキラといやぎらぎらと光るそれは僕に訴える。何とかしろ、と。
どうしていいのか分からなかったが、僕はどうにかするという選択肢しか与えられていないのだ。
そしてそのままその女はどこかへ行ってしまった。
もともとこの店は多くの女が潜んでいる。潜んでいるというか、働かされているのだが。物として扱われていると言っても過言ではないだろう。だって、彼女らはまるで、人間ではない様に表情がないから。
そして僕はそのままなぜか店の主人に追い出されてしまった。
いつもしかめた面をしているが、今日は一段と強く、むしろ何かに脅されているというような顔である。なぜこの主人はこんな顔をしているのか、なぜ僕を早々に追い出そうとするのか、全く分からなかったけど、思い当たるのは。
そうだ、彼女。僕のすそを引っ張って何かを訴えていた女。あの女のせいだろうか、なんてぼんやりと思いながら重い扉は閉じられ、僕はただぶらぶらと歩きだす。
ただ、気になって仕方ないのだ。
なぜか今の状況はとても不自然だし、腑に落ちない。僕はそう思いながら、いやそう思ったから踵を返し、あの重い扉の先に忍び込むことにしたのだ。
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