パステルシーにて

@rabbit090

第1話 タラントウ(番外編、アナザーストーリー)

 知りたくてしょうがない。

 なぜ私はこんなに汚れているのか。

 

 ボロ雑巾のような匂いだった。牛乳臭くて、湿っている感じ。私が拒絶したいのはこういうことなのに、私が生きているのはこういう場所だから。

 「タラントウ。」

 そう呼ばれて私は飛び起きる。飛び起きなくては、とただ焦る。

 いつもまともに眠ったことはない。体が疲れていても、眠れないのだ。これは大人になってから、まあ大人といっても10歳なのだけど。

 このバラックではそれが慣例となっている。だけどね、何故だかは分からない。何故なのかは分からない。

 物心がついたころには、私はここにいた。この湿っぽい空気の中でただ控えめに息をしていた。

 

 だけどある日、呼吸の仕方が分からなくなった。

 どうやって、息を吸うんだっけ。どうやって、呼吸するんだっけ、と、私は苦しくなる。

 でもだからって死ぬことはなくて、気が付いたらまた一日中働いている。

 だから私はここは、いや、ここを装置だと思っている。

 何かを生み出すための装置、そして私はそれを回すために動き続ける、エンジン。

 エンジンって燃料だよ、私は自分をそういうものだと認識している。無機質で、消費される物質だと。


 突然だった。

 革命が起きたのは。歴史に名を刻む革命、それが私の身近に起きたのだ。

 「ガラゴロガラゴロ」

 と音を立てながら気が付けば私はただ一人、突っ立ていた。何が起きたのかはいまいち分かっていないが、ただ極限のような状態でひどく混乱していることだけは分かるのだ。


 そうして数年が経ったけど、相変わらず私はふざけていた。

 また、新しいバラックのような教会で下働きをさせられている。させられているのだ、ここは昔と変わった点で、年齢を重ねるごとに思慮が深くなるごとに、自分が誰かに操られているということを認識する。

 こんな年になって自我というものを身につけてしまったらしい。でもそれを知ってしまったら、急に耐えられなくなった。状況に、この状況に。

 踏ん張ってもこするように逃げ切る。私は逃げ切る。どこかへ逃げ切る。

 いつにもまして明るい日だった。

 雨という予報を覆して、空は晴れ渡る。

 いまいちピントの合わないメガネを外して濁った世界を見つめながら笑顔を作る。その状況はまるで、悪夢のようだったという。


 クーデターが起きたのはからっとした日だったらしい。

 そしていつの間にか荒れ狂っていて、信じられないほど荒んでいた。もうおかしい程笑ったけど、それはただ虚しいだけだった。らしい。

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