第5話 第1章 ピアノ姫は森で惑う③
「で?どこ行くの?」
「この時間は音楽室にまだいるかな。とりあえずそこに行ってみようか。」
「え?幼なじみもこの学校にいるの?」
「ああ。お隣さん家の子でさ、幼稚園から高校までずっと一緒なんだよ。」
ちょっと待て。私は今からそんな人のところに行くのか?考えようによっちゃおかしなことになるぞ。こいつなにか戦略でもあるのか?
「ねえ。どんな理由つけて会いに行くつもり?」
「え?ああ特に考えてなかったなあ。まあ大丈夫っしょ。」
「いやあんたホント・・・なんでもないわ。あんたのことよくわかってきた気がするわなんか。」
そんなこんなで、音楽室に到着。きれいなピアノの音が聞こえてくる。特に音楽が詳しくないし、得意でもなく、好きでもない私が聞いても良いというのがわかる。聞いているとなぜかだんだん楽しくなってくるような音だ。
「よかった。まだ学校にいたか。もう少しでレッスンの時間のはずだから間に合ったぜ。」
いきなり扉を開けようとするキョースケを静止する。
「今、演奏中でしょうが!ちょっとだけゆっくり開けなさいよ!」
「ええーいつもこんな感じなんだけど・・・わかったから睨まないで!」
「よし、わかったなら静かに扉を少し開けなさい。」
扉がゆっくりと少しだけ開き、そこから2人で覗き見る。黒髪ロングの華奢で色白、長いスカート。うむ、深窓の令嬢って感じの正統派かつ清純派美少女がいた。
『さてさて、そんな美しいお嬢様の才能はなーにかなっと』
私はその子の才能を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん~?」
この才能は・・・かなり良いものだと思う。方向性もあっている。なのになぜなのだろうか。彼女は本当につまらそうにピアノを弾いていた。
「どう?あの子の才能はどんな感じだった?」
「聞き忘れてたっていうか本人と話してから考えようと思っていたんだけど、彼女はピアノのことで悩んでいるってことでいいのよね?」
「あーまあ大きく言えばそうなんだけど、なんて言ったらいいのか。うまく言葉にできないや。」
キョースケが言いよどむ。他人の悩みというのはたしかに複雑だからしょうがない。
「とりあえずキョースケには言っておくわ。多分まだ本人には伝えないほうがいいわよ。」
私は、キョースケにだけ聞こえるよう彼女の才能を伝えた。
「・・・・・・・・・・なるほど。これだけ方向性があっていればなんとかなりそうではあるね。」
「そうなの?とりあえず本人と話してみたいわね。」
そのとき、不意に音がやんだ。
「・・・ふふっ。そんなところで隠れてみてないで、いつもみたいに入ってきていいのよキョースケくん」
お嬢様はこちらを向いて微笑んでいた。ったくルナといいこの学校はきれいな人が多いな。
「悪い。隠れて見るつもりはなかったんだけど、演奏中に入るのもなんかね」
「あら?いっつも演奏中に入ってくるじゃない。おかしな人」
ほーらみろ。いい雰囲気じゃないか。しかもなんか絵になる感じの2人だな。夕日も相まってすごいな。え?私今からこの中に入っていくの?帰っていい?
「それで?今日はどんな御用かしら?キョースケくんのことだから、なにも用事がないのに来ないわよね。」
「ああ。会わせたい人がいるんだ。おーいセーラ!入って来なよ。」
呼ぶな!名前を呼ぶな!
「どっどどうも。こんにちは。」
ああ、くそ。他人と話すのはいつだって緊張する。しかもお嬢様なんか驚いた顔してるし。
「・・・キョースケくんの彼女さん?」
「違います。」
よく分からない勘違いされてるよほら。騒ぎになるのでやめてほしいなあ。
「私は、渡名聖良と言います。8組です。」
「あ、私ったら初対面の人になんて失礼なことを。ごめんなさい。私は、
「名前までめっちゃかわいい!」
「!・・・ふふふっ。ありがとうございます。セーラさんもかわいいですよ。」
やべっ。心の声が漏れてしまった。しかもナチュラルに名前で呼ばれた恥ずかしい。
「それでキョースケくん。どうしてセーラさんと私を会わせたかったの?」
「いやーそれなんだけど・・・」
おい。考えなしで動くからこうなるんだよ。どうするんだ?まさか困っているのを助けに来たとか言うのか?
「実は!この人、ヒナコのファンで!話してみたいから取り持ってくれってことで来たんだ!」
「お前ホント行き当たりばったりだな!」
ローキックをお見舞いした。
「ふふふふふふ、あははははは!行きぴったりね2人とも」
掴みはよかったみたい。とりあえず心を開かないことには困っていることがわからないもんね。
「まあでもあながち嘘でもないかもね。今、聞いててファンになっちゃたもん。少ししか聞いてないのになんか楽しくなっちゃた。」
しかし、この発言がなにかに触れてしまったのかヒナコは少し悲しそうな顔をした。
「ありがとうございます。でも私のピアノはそんなすごくないのよ。この間のコンクールだってあんまりいい結果が得られなかったし。」
なるほど。このあたりに彼女の地雷があるっぽいな。
「佐咲さんは昔からピアノやっているの?」
「あら?ヒナコでいいですよ。私もセーラさんって呼ばせてもらうから」
笑顔で言うヒナコ。かわいい。
「あ…じゃあヒナコって呼ばせてもらうね。ヒナコは昔からピアノ弾いてるの?」
「ええ、幼稚園くらいの頃から弾いているの。昔は、キョースケくんも一緒に習っていたのよ」
「そうなの?キョースケあんたなんでもできるのね」
「いや、実は弾けないんだよね・・・」
「ふふっ。いっつも逃げ出してたもんね。おば様が毎日怒ってましたわ。」
「ヒナコの弾く曲だけはすごい好きで、それ聞くために毎日行ってただけだからなあ。自分が弾くのは別にそんなでもなかったみたい。」
ヒナコが顔を少し赤くする。くそ、こんな甘々空間に長居なんてできるか!
セーラは少し踏み込んで話を始めた。
「ヒナコは昔からコンクールとか出て弾いてるの?」
ヒナコの顔が少し曇る。このお嬢様は表情に出やすいからわかりやすいな。
「・・・ええ。コンクールは昔から出ています。」
「昔はよく聞きに行ってたなあ。あの頃からホントすごくて神童みたいな扱いされてたよね。有名な音楽教室からスカウトとか来てたりさ。」
「一回体験に行ったけど、厳しすぎてお断りしたわ。やっぱり私たちの先生が一番ね」
「
「先生もキョースケくんに会いたがっていたわよ。今度こそ一曲弾かせてみせるんだってね。」
「うーむ。弾けるだろうか・・・。そういえばまた来月あたりにコンクールあるんでしょ?たまには聞きに行こうかな。」
「・・・来ないでね。今の私の演奏じゃキョースケくんの期待には応えられないと思うから。」
「そんなことないぞ。今日もすごい良かったよ。」
キョースケは褒めるが、どうもヒナコの顔色が悪い。怒っているような悲しんでいるような。
「・・・・・・キョースケくんじゃ演奏の良し悪しなんてわからないでしょ。」
ヒナコは消えそうな声で呟いた。ここいらが潮時かな。
「もうこんな時間ね。ねえヒナコまた来てもいい?ヒナコと話すの楽しいし、もっと色々話したいわ。」
ヒナコが我に返ったような表情をした。
「えっええ是非いらしてください!セーラさん今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
「今からレッスンに行くの?」
「ええ。毎日弾かないと上手くなりませんからね。」
「そっか。もし今度時間あったら一緒に帰ろうね。おいしいスイーツでも食べに行こうよ。いいお店知ってるから。」
「ええ。わかりました。ありがとうございます、セーラさん」
「うん!約束ね。じゃ、またね。キョースケも女の子1人で帰さないようにしなよ。」
キョースケにも声をかける。その際、耳打ちする。
『三門先生から話を聞いてきて。』
私は音楽室を後にした。
「じゃあ送ってくよ。せっかくだし、三門先生にも会っていこうかな。」
「本当!?先生も喜ぶわ!キョースケくん最後に会ったのいつだったかしらね。」
「いつだろうなあ・・・小5?くらいかな」
などとたわいもない会話をしながら、帰路につく2人を遠くから見送る。
「さて・・・まあなんとかなく分かってきたわね。だがそれより・・・」
「おいしいスイーツの店を調べておかねば!」
陰キャにそんなしゃれたお店の知識はなかったのであった。
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