第4話 第1章 ピアノ姫は森で惑う②
「ある女の子の才能を見てもらいたいんだ。」
そう俺は切り出した。昨日一晩考えた結果がこれだ。
「いいよ。」
即答である。
「・・・いいの?昨日言っていたじゃないか。見るだけで指導とかはできないから才能は使っても意味がないって」
「いいよ。あなたが考えた結果でしょ?あなたの能力でぜひ私の才能を生かしきってみてよ。というか考えてまた来るって言ってたけど1日で来るのね。」
なるほど、試されているってわけか。いいね。新しいことに挑戦するときのこういう気持ちは本当にいいものだ。
「とりあえず昨日一晩考えた結果、君の才能を生かす上で2つの問題点があるという結論に至ったんだ。」
「1日で来るっていうのは無視かい。まあいいわ、聞かせてよ。その2つの問題点とやらを。」
「1つ目は、おそらく根本的なところだと思うんだけど・・・」
「どうしたの?ずいぶん言いにくそうじゃない。」
「まあそのあれ、その才能を聞いた人が信じてくれないってのが問題なんだと思うんだ。」
「・・・・・・そうだね。たしかに、あのルナですら信じてくれないものね。このやり場のない悲しみだけどうすればいいのか教えてもらってもいいかしら?」
「いやそれは俺にはちょっとどうにも。」
すごい悲しそうな顔をしている。2つ目もまあまあ言いにくいことなんだけど、耐えられるだろうか。
「それで?2つ目はなにかしら。もう私の心は耐えられないわよ。」
「しょうがないよ、現実に向き合ってくださいな。それで2つ目なんだけど、その才能を伸ばす術がないことが問題だと思うんだ。」
「ん?」
セーラが不思議そうな顔をする。そんなにおかしなことを言ったのだろうか。それとも心のキャパシティを超えてしまったのか。
「そんなに不思議だった?」
「いえ、まあいいわ。なんでもない気にしないで。」
なんだろう。気になるけどまあいいか。ほかになにか問題があったとしてもこの2つが大きな問題であることは間違いない。
『信じてもらえない』 『才能を伸ばせない』
この2つをクリアをする必要がある。そのために俺が考えた方法は簡単なことだった。
「この問題は、俺が何とかすればいい。」
「はーん、なるほど。私は才能を見るだけで、その見た才能を相手に信用させて、その才能の方に誘導するのをあなたがやるということね。まあ確かに私よりあなたの方がそういうのは向いているのかしらね。」
「そう。まあ俺も信用が勝ち取れるかどうか不安はあるけど、できる限りのことはやってみるさ。じゃあ具体的な方法について、説明していきたいんだけどその前に。不測の事態に備えるために君の才能について、より詳細に教えてもらってもいいかな?」
しかし、彼女はちょっと不機嫌そうな顔をしていた。そして言った。
「んーーーーー。その『君』っていうのやだな。」
「え?」
「これからさ、どうなるか分からないけど、その見られる相手の運命というか将来を少しは変えてしまうかもしれないじゃん?そのために何かする仲間みたいなものになるわけよ。」
面を食らった。なるほど、【ギフト】を生かすことばかり考えていてその配慮は足りなかった。
「つまり、パーティー結成ってことじゃない?だから名前で呼び合おうよ。どう?キョースケくん?」
彼女は少しだけ、照れたように頬を赤らめ、しかし真っ直ぐこちらを向き言った。
「ああ!そうだね。パーティー結成だね、よろしくお願いします。セーラ」
せっかくなので、手を差しだしてみた。
「ああ、あの音楽が頭の中で響いているわ・・・」
セーラは嬉しそうに、手を握り返してきた。なんなんだろう、あの音楽って。
「さて、これで晴れてパーティーを結成したわけだけど、どう?」
「どう?って聞かれても、少し気が引き締まったよ。さっきセーラが言っていた相手の運命を変えてしまう可能性があるってことがすっかり抜けていたよ。」
「さっそく何事もなく名前で呼べてしまうのホントむかつくわね。でも、リスクがあってもその子のために何かしてあげたいんでしょ?」
「・・・そうだね。そのリスクを負ってでもなんとかしたいんだ。」
「彼女?」
にやにやしながらセーラが聞いてきた。割とシリアスな場面だと思ったのにな。
「そんなんじゃないよ。ただの幼なじみってやつ。」
「ふ~ん?ふぅ~~~ん?ふぅ~~~~~ん?」
「うざっ!パーティー組んだとたんうざいよ!それよりはやく【ギフト】の詳細を教えてよ。」
セーラがうっとうしいので、話題を切り替えることにした。
「私もまだ全容を把握できているかどうかは定かではないんだけど、とりあえずわかっていることを教えるわね。」
そういうと、セーラはポケットからメモ帳を取り出した。かわいらしいピンクの手帳だ。あんまりピンクとか持っているイメージはないな。
「ではいきます。
1つ、人の才能を見るのにその人に5秒間焦点を合わせる必要がある。
2つ、人間のものしか見えない。
3つ、見える才能は全て日本語で書かれている。
4つ、才能は唯一無二ではない。被ったり、似たようなものはある。
5つ、・・・は別にいっか。聞きたい?」
「ああ。とりあえずなにか思いつくかもしれないから全て言ってくれ。」
「そうね。わかったわ。
5つ、才能には良い才能もあれば、悪い才能もある。以上です。どう?解説必要?」
なるほど。なかなかよく調べてある。しかし、確かに生かしづらいかもしれない。
「解説というか、どうやってその事実に気づいたのかその経緯を教えてもらいたいな。」
「いいわよ。1つ目はわかるわよね。5秒間必要なのよ。だから、ぼーっと見ていたりすれば見えないわ。実はこれのおかげで助かっているのよ。」
「ああ、5秒間って制約がないと、人込みとかで文字が大量に見える状態になってしまうからか。」
「そうなのよ。街中が文字だらけになったらさすがに厳しかったわ。2つ目もわかるわよね。犬とか猫とかの才能は見えないのよ・・・は!?」
驚愕の顔でこちらを見るセーラ。
「俺は動物だけど人間です。俺の才能だけ見えない件も、おいおい調査しないとな。」
「なんかキョースケ冷たいわね。」
「そう?セーラの雰囲気になんとなく慣れてきたのかもね。」
「悔しい・・・いいわ!そのうち目にものを見せてあげるんだからね!」
なんかテンション高いな。
「それで?3つ目はどうやって検証したんだい?」
「凄まじいくらい無視してくるわね・・・3つ目は、割と大変だったのよね。まず外国人をターゲットに見てたんだけど日本に来ている外国人って割と日本語が話せる人が多いのよね。これだと、所在地依存なのか、話せる言語依存なのか、どれが要因か分かりづらかったの。てことで、外国に行ってみたのよ。」
「おお!なるほど、これで日本語以外が見えれば面白いな。どこに行ってみたの?」
「ラスベガスよ!」
「おおう。なんかそういうの試しに行くところではない感じもするけどいいか。」
「ラスベガスでも日本語だったわ。世界一のカジノにはすごい才能があるのかと思ってわくわくしてたんだけど、年齢制限で入れなかったわ・・・」
「それは残念。調べてから行った方がよかったかもね。」
「つまり、日本語に見えるのは私依存ってことね。そのうち英語でもマスターしたらその変化でも見てみるわね。4つ目も特に面白いエピソードはないわ。街中で見下ろせるカフェから才能を見てたら、まったく同じ才能を見かけたのよ。」
「ほうほう。もしかして双子とか?」
「いえ赤の他人だと思うわ。顔も似てなかったし。」
「ちなみにどんな才能だったの?」
「『石で水切りが20回以上できる』って才能だったわ。こんな訳の分からない才能が偶然にも同時刻場所にいるなんて奇跡じゃないかしら。」
「20回はなかなかできないな。すごい才能だ。」
「関心するのはそこなのかしら?才能が被ることがあるってわかったからほかにも才能が被りそうなところがないか探してみたの。」
「あったの?」
「あったのよ。しかも結構あったの。それはね・・・」
「それは?」
「それはプロが集まるところよ!それもただのプロじゃない、世界のトッププロつまり世界大会的なやつよ!」
「世界のトッププロはやっぱりその手の才能がないとなれないのか。」
「そうみたい。ほとんどの人がその競技に関わる才能を持っていたわ。やっぱりプロってすごいのね。」
「なにかスポーツ好きなの?わざわざ世界大会を見に行くなんて」
「いえ、行ってないわ。」
「ん?じゃあどうやって?」
「そんなもんテレビに決まっているでしょ!テレビ越しでも5秒間見ればいけるのよねふっしぎー。」
「それは、【ギフト】の詳細に入れといてよ。生身でなくてもセーラが人間と認識すればいけるってことなのかな。」
「そうね。つまりキョースケは人間じゃないのよ!」
「そりゃ最初出会ったとき、あんなに驚くわけだ。」
テレビ越しの人間でも見えるのに、なんで俺の才能は見えないんだ・・・?
「ちなみに写真だとダメだったわ。あと動画でも加工されていたりするものは無理みたい。見える動画と見えない動画があったわ。」
「それけっこうすごくない?修正してるかどうかわかるわけでしょ?」
「たしかにそう言われればそうね。人に話すと新しい気づきがあるものねえ」
「それで5つ目は、まあこれに関してはそうじゃないかなと思っていたよ。」
才能が良いものであるとは思っていなかった。というより良い悪いは結局のところ人間のさじ加減である。価値観の違いと言ってもいいのか。
「今まで見た悪い才能ってのは何があるんだい?」
「んーーーあんまり言いたくないなあ。まあこれは追々ってことで。」
「わかった。とりあえずこれでセーラの【ギフト】についてだいぶ理解が深まったよ。さて、じゃあ早速だけど、会いに行こうか。」
「え?もういきなり?」
「見てもらわないとなにも進まないでしょ!さあ行こう」
「陽キャは行動力がおかしすぎるんだよなあ。休みの日ってなにしてるの?」
「休みの日は、ランニングしたり、筋トレしたり、図書館行ったりしてリフレッシュしてるよ。ああ、あと冬はスノボとか好きでよく行くよ。」
「ほらね。休みの日の話聞いてるのに休んでないんだもの。」
「? よくわからないけど行こうか。」
「はいはい。いっきますよー。」
セーラの【ギフト】を俺がうまく利用できれば、彼女の苦しみを少しでも和らげるはずなんだ。本当に楽しく音を奏でていたあの頃のように。
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