第2話 序章 ノンギフテッド

「あの人毎日毎日、あんなところにいるけどなにしているのか」

 俺は気になっていた。毎日屋上にいる変な人。調べたところどうやら同じ学年の別のクラスの人らしい。真面目そうな人、遠目から見ればそこそこ綺麗めに見える髪の長い人。

 何度かその人を見にそのクラスに行ってみた。本を読んでいるときもあれば、友人と話しているときもあるいたって普通の人だった。なんで放課後屋上で黄昏ているのか…気になる。


「うっし、行ってみっか!こーちゃん今日部活休むって顧問に言っておいて」

 こーちゃんの返事を聞く前に走り出した。

 どうも考えるより行動するほうが得意な俺は、うだうだ見に行くのも飽きてきてしまっていたので会いにいくことにした。


 屋上の扉の前にきた。ちょっと緊張するがまあ好奇心には勝てない。第一声はなににしようかな…

 扉を開けると、振り返ってこちらを見る髪の長い真面目そうな人が立っていた。そして少し大きなつり目が驚きのあまりさらに大きくなっていくのが分かった。

「・・・・・・・・・・・・・は?あなた何者?」

 随分な挨拶だ。まあいきなり黄昏ているところにやってきた邪魔者には相応な扱いだろう。

「初めまして!いつも屋上にいるけどなにしてんのか気になって来ちゃいました。6組の神室恭介かむろきょうすけです以後よろしく」

 まあとりあえず自己紹介から始めればなんとかなると思ったわけですがどうもそうはいかないようであった。

「そんなことは聞いてない!なんで?おかしいそんなこと有り得ない」

「なんかそんな変かな…さすがに傷つくぜ…」

 ひどい言われようだ。心が折れそうだ。…ん?というかこの人どこを見ているのか。遠くというか上?まさかなにこの人、そっち系の人なのか?見えてはいけないものがみえてしまうような。そのとき、なにか納得したような顔に変化した。

「ああなるほど。わかった。・・・あなた人間じゃないのね。まあ屋上だしそういったこともあるかもね。20歳まで見なければ一生見ないっていうのに残念だわ」

「いやいやいやいやなに言ってんすか、というかどこを見て言ってるんすか。毎日屋上にいるから変な人だなと思ってたらあれですか、見える子ちゃんだったんですね。どうです?俺の守護霊は中世ヨーロッパの騎士とかだったらいいんですけど。」

「は?どうみたって普通のウチの高校生じゃないですか。というか守護霊って何の話です?」

「いやさっきから俺の上の方ばっかり見てるし、人のこと人間じゃないとかひどいこと言うからてっきりおれの上になんか守護霊的なものでもいるのかと思ってるんだけど」

「そ、そんなの見えるわけないっていうか、その普通の高校生の恰好して私と話しているあなたが霊なら納得できます。」

「なにも納得できないよ!?」

「とにかくあなたは何者なんです?正直に言ってください。それによって私のこの後の行動が変わります。塩を買いに行ったのち、この屋上を封印しなければなりません。」

 やっぱりこの人最初の自己紹介を一切聞いていなかったのか…まあいいやもう一度言うまでよ!

「初めまして!いつも屋上にいるけどなにしてんのか気になって来ちゃいました。6組の神室恭介かむろきょうすけです以後よろしく」

 一言一句同じ自己紹介をする。これで覚えてもらえたかな?

「そうですか。では、一つ聞きます。あなたはどんな未練があってここに留まっているのですか?お姉さんが話を聞いてあげます。」

「だから俺は霊的なものじゃねーーーー!」

 なにもわかってくれていなかったよこの人。予想したよりもだいぶおかしいぞ。

「・・・・・・・・・・・・・ホントに人間?」

「そんなに疑うなら好きなところ触ってみてください。大丈夫です。人間なんで触っても呪われたりしません。」

「・・・先手を打たれた気分だわ。なるほどどうやら本当に人間のようね。その人間が何しにこんな場所に来たのかしら?」

「要件はさっき自己紹介のときに言ったんですがまあいいです。そんなことより、なぜあなたは俺のことを人間じゃないって言ったんですか?なにかさすがに理由があるでしょ?」

 なにか困ったような、言いたくないような顔に変わるがさすがにあそこまで騒いでおいて理由を聞かないなんてことはあり得ないわけだ。

「それ聞く?まあ気にしないでください。ちょっと頭のイカれた女に絡まれた不運だったなぐらいに思っていてください」

「いやさすがに人を幽霊呼ばわりしといて、それはないのではないのでしょうか?」

「・・・それを言われると弱いです。なかなかひどい人ですね。私の大切な時間に土足で踏み込んできたくせに。まあ、いいでしょう。隠すことでもありませんし。ただ、信じるか信じないかはあなた次第ですけどね!」

 ちょっとドヤ顔なのは正直意味が分からないがどうやら理由を教えてくれるようだ。


「私には人の才能が見えます」


 彼女は少し小さな、しかしはっきりと澄んだ声で話した。


「・・・才能が見える?」

「そうです。才能が見えます。人が持っているその人の能力が最大限発揮できることがわかります。まあ信じられないというか、なにを言っているのかわからないですよね。忘れてください。」

「それは・・・もしかしてこのあたりに見えるってこと?」

俺は自分の頭上あたりを手で示す。先ほど守護霊がいたと思われるあたりだ。

「そうです。そこに文字が見えます。昔、色々検証した結果それがその人が持つ才能だということがわかりました。どうです?随分頭のおかしい女でしょ?」

 彼女は自虐的に笑いながらそういった。しかし、そんな嘘をつくメリットはない。

「いや、信じるよ。君に嘘をつくメリットはまったくない。からかって遊んでいるのであれば別だけどね。」

「まあ遊んであげてもいいですけど、そこまで暇ではないので。こんな話を聞いて普通に受け入れなれるなんて、男子ってホントそういうファンタジー好きね。精神年齢が小6から止まったままなのよね。」

「急な皮肉!なんなんすかホント。信じてもらえた照れ隠しですかね。じゃあせっかくなんで俺の才能教えてもらっていですか?」



 彼女は真っ直ぐこちらも向き、はっきりと答えた。


「はいはい。照れ隠しはいいですからちゃんと教えてくださいよ。」

 しかし、彼女は一切表情を変えず、真っ直ぐこちらを向いたまま動かない。それはその発言が照れ隠しでもなく、からかっているわけでもないことを示している。

「どうゆうことです?才能がないって。まあそういう人がいてもいいのかな・・・でもちょっと凹むな。あんまり言われないし、面と向かって言われるとショック。」

「いません。そんな人はいません。」

「慰めてくれなくていいですよ。特に問題があるわけじゃないですし」

「慰めていません。事実を言っているのです。どんな人でも必ず1つ才能を持ちます。」

 彼女は嘘は言っていない。しかし、理解ができない。彼女はそんな俺のことには構わず話し続ける。

「人なら才能を持つのです。しかし、あなたにはない。もしかしたら私に見えないだけかもしれない。でも今までそんなことは一度もなかった。つまり・・・」

「・・・つまり?」

彼女は真面目な顔で言う。ここまでで一番深刻そうな顔だ。

「あなたは幽霊です。」

「違うわ!!!」


 その後、少し時間をもらって色々話した。屋上にいたのは人の才能をたくさん見ることができるからだったこと。才能と努力が合致している奴はいないこと。そして、なぜ才能を持たない人がいるのかはわからないこと。そして、この【ギフト】を生かしてなにかをしてみたいこと。その一助になるかもしれない俺の存在は検討材料が増えたようで喜ばれたみたいだ。


「人の才能を見る才能なんて簡単に生かせそうだけどね。物凄い才能じゃない?」

「どうやってできると思います?」

「んーーー例えばなんかのコーチとか?私が世界に導きますてきな。」

「あなたはゴミ拾いの才能があるわ!今すぐ辞めてゴミを拾いなさい。世界一のゴミ拾い人になれるわ!ってことしか言えない無能コーチが誕生するわね。」

「いやさすがにそこは、なんかその分野で活躍できそうな才能を持っているやつに声をかけなよ」

「無理よ。だって言えることが『あなたには才能があるわ!!!』だけだもの」

 指をビシッと空に向けていた。見ていて面白いなこの人。

「占い師とかは?」

「それは考えたことがあるわ。まあやることなくなって暇だったらやってみてもいいかもしれないわね・・・くしゅん」

 いつの間にか空が暗い。だいぶ時間が経ってしまっていたようだ。

「悪い。だいぶ時間を取らせた。今度なにかお礼をさせていただきます。」

「別にいいわ。私も自分の才能のこと誰かに話せてよかったし、検討材料も見つかったし。」

「また来てもいいですかね?」

「ここは私だけの場所じゃないわ。好きにしたらいいじゃない。」

「ありがとう。また来るよ渡名さん。次来るときは、その才能を生かす良い案を持ってくるよ」

「それは楽しみね。ところで、どうして名前を知っているのかしらね。意図的に自己紹介していなかったのに」

 不敵な笑みを浮かべながら、渡名さんは言った。

「いやまあ、屋上にいる変な人を調べてから来てるからまあ名前くらいはね。」

「ふふふっ。まあいいわ。じゃそろそろ帰るわねカムロくん」

 そういうと渡名さんは屋上を後にした。名前覚えてくれてよかったよかった。にしても・・・

「想像の斜め上いく面白い人だったな。情報量多すぎ。」

 少し、屋上の空気で頭を冷やしてから帰ることとしようではないか。

 


 一方そのころ

『ふふふふふふっ。やっぱり私ってモテるのかもしれないわね。あーはっはっは!』

 セーラは機嫌がよかった







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