loser

できっこない、できっこないさ。正直にいうとだ。ボロボロになった自分のちゃちな自尊心を、どうにごまかしたい、どうにか上塗りしたいと、ツーリングしていただけ。彼女は優しいからか、知ってか知らずか、僕に優しい言葉をかけてくれたわけです。優しい言葉をかけてくれたからセックスできるわけなんてなくて、それがイコール愛情と勘違いしてしまう程度に思い上がって生きているんです。それでも僕らはてくてく歩く。言葉は見つからなかった。言葉はいらないなんていえる関係だったらばよかったけど。この子と僕の間はそこまでの関係性じゃない。主観で生きている。そうさ、主観で生きている。それで何が悪い。俺は俺で、君は君だ。

「また何か変なこと考えてる。何考えてるの?」

「大したことじゃないよ。こういう休日もたまにはいいなって」

嘘をついた。

「その割には全然楽しそうじゃないね。」

でもそうだ。一人じゃないという事実が。僕を少しだけ浮つかせる。それなりに魅力的なこの子と歩ているだけで、自分が少しは上等な人間になれたのではないかと勘違いをする。勘違いで塗り固めている。小学生のときの絵具の色作りを思い出した。なかなかうまくいかなくて、どんどんどんどん色をたす。足せば足すほど変な色になっていて、最後は黒くなる。ああ、こんなことをしたいわけじゃないのにと後悔する。

また無駄にしてしまった。

「楽しくないかもね。少しだけ浮ついているんだよ多分。君はどう?」

「私は楽しいも楽しくないもないよ。君の介護者として付き添っているんだよ」

介護者ですか。福祉ですか。そうですか、僕は男じゃなくて、弱い存在ですか。でもどう考えてもそれは仕方がない。僕は弱いし、弱いままこの子と接してる。男ってのは強がるもんさ。でもそれになんの意味があるのさ。想像上のことだけれどきっと女の子はそういうのが嬉しいんだろう。嬉しくなくても、そういう男は魅力的なんだろう。

「まあ、そう悩みなさんな少年。今日は1ついいことあったし、明日も明後日もよいことがあるよ。もうお家だよ。ばいばい、またね。」

少しずつ離れていく。それはそうだ。彼女は家に送ってくれるといって、僕はそうされた。家についたのだから、彼女のミッションは完了している。だんだん遠くなって、曲がり角に消えるまでずっと立ってた。悲しいことは悲しいままで、楽しいことは楽しいままで受け取れたらどんなに良いだろう。あーだこーだ考えて結局何もできずに、あるいは間違ってしまって、極端に生きてしまう。死ぬよりはそれでもましで、失敗と失敗を繰り返しながら、たまに成功したりもして歳を重ねていく。失敗したくないなって思うかい?僕はそうは思わない。弱いまま、失敗しまくって、ださくても、泥臭くても、這いながら生きていくんだ。そう生きなきゃならんのだ。明日もきっと失敗します。それでもいいんです。

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死んでもいい日 @akmacl

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