第5話 彼が見つけた僕のこと

 あの喧嘩以来、彼はよりいっそう計算や勉強をするようになった。誰がどう見ても異常なほどに彼は没頭していた。たまに僕が声をかけると、ピクっと反応することがあったが、基本的には無視を貫かれた。


 僕は今までに感じたことがない孤独を感じていた。もともとまともに友達ができたこともない僕だから、「孤独」なんて感じることはほとんどないはずなのに。やっとできた友達からも嫌われ、両親からも相手にされなくなり、いよいよ居場所がなくなっていた。


僕はここにいるよ。



 そして、初秋のある日のこと。二時間目の国語の時間。ずっとノートに何かを書いていた彼が突然立ち上がった。先生を含めたその場にいた全員が、口をポカンと開いて彼を見つめていた。


「できた! 証明できた!」

「な、なにを証明したの・・・? 今は国語の時間で算数では・・・」


狼狽えている先生が恐る恐るそう言うと、彼は食い気味に返した。


「僕の友達はここにいる!!」


意味不明だった。勉強のし過ぎでおかしくなってしまったのかもしれない。


「彼は今でもここにいるんだ! 目には見えないけど、たまに声が聞こえていたんだ!」


そう言うと、彼は突然黒板の前に立ち、何を思ったのか板書を乱暴に全て消し去ってしまった。


「こら! 勝手になにを・・・」


先生が怒っていることも全く気にせずに、スイッチが入ってしまった彼は黒板の端から端まで見たこともないような記号の数式を並べていった。


「ほら見て! これが、僕の友達がここにいる証明だ! 君は一人じゃない! 僕はちゃんと見つけたぞ!!」


彼のその言葉に反応するように僕の中に眠っていた記憶があの日の波のように押し寄せてきた。


そっか、僕はあの日、死んじゃったんだ。

彼を助けようと必死になって、自分自身を守れなかった。地元のおじさんに助けられている彼の姿を見ながら、僕は流されていったんだ。


お母さんも、お父さんも、彼も、みんな僕を無視していたんじゃなかったんだ。


僕が


嬉しさと悲しさとでぐちゃぐちゃになった僕は、涙を流していた。

すると、彼は僕の方を向いて、ハッとしていた。


「あぁ、そんなところにいたのか。やっと見えるようになった。でも、なんだか消えゃいそうな感じだね」

「だね。きっと、僕はこのまま成仏するんだよ」

「・・・そっか。じゃあ、完全にいなくなっちゃう前に見つけられて良かった。まだ言いたいことが残っているんだ」

「奇遇だね、僕もだ」


見つけてくれて

助けてくれて


ありがとう

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【短編】友達の証明 Fa1(ふぁいち) @Fa1

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