第3話 あの日のこと

 夏休みが始まってからも、僕と彼はずっと一緒に遊んでいた。遊ぶと言っても、外で走り回ったりテレビゲームをしたりせずに、ただただ彼の勉強に付き合ってやっていた。彼が読む本は難しいものばかりであったが、僕でもわかるように(実際に僕が理解できたかどうかは置いておいて)と丁寧に説明をしてくれた。


「それで、さっきの式をこうやって持ってくると・・・ほら、証明できた。これがわかると次はこっちがわかるんだ」


彼は楽しそうに説明をしてくれた。彼のお母さんから聞いたところ、友達と楽しそうにしている彼を見るのは初めてなんだとか。正直言って、僕は難しい算数の話はどうでも良かった。ただ、なんとなく彼が楽しそうにしているのを見ているのが好きだった。


そして訪れる、



 夏休みになってから二度目の月曜日。僕と彼は親に内緒で外れにある川を訪れていた。電車とバスを乗り継いで片道一時間もするところだ。親がいると色々うるさく言われるから、二人だけで黙ってやってきた。

 その前日、彼が突然「魚釣りをしてみたい」なんて言うもんだから、仕方なくお父さんの釣り道具をこっそり借りてここまでやってきた。僕はたまにお父さんと釣りをしているから、そこで教えてもらったことを彼にも教えてあげた。


「ほら、ここに餌をくっつけて・・・そうそう、そんな感じ」

「竿って意外と重いんだな」

「君の力が無さすぎんだよ」


そんな会話をしながら、僕達は釣りを始めていた。風が強く、天気もあまり良くはなかったが、彼は興奮を抑えられなかったみたいで夢中になって釣りを楽しんでいた。


「ねぇ、波も出てきたしそろそろ終わろうよ」

「なんだって? まだ一匹も釣っていないんだぞ」


彼はそう言ってなかなか引かなかった。人が飲み込まれるほどの強さではなさそうだが、そこそこの波が押し寄せてきていた。安全に考慮して、これ以上強くなる前に帰りたいと思っていたその刹那、足元がグラグラと揺れているのを感じた。


「「地震だ!!」」


ゴゴゴと大きな音を出しながら地震は僕達を川へと放り込んだ。

その瞬間もなぜか冷静でいられた僕は、彼が天才であると同時にカナヅチであることも思い出した。


彼を、僕の唯一の友達を助けなきゃ。

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