第2話 彼のこと
こんな僕にも一人だけ「友達」と呼べる人がいる。彼は僕と同じく内気なやつだった。僕と違うところは、彼はものすごく頭が良かった。中でも算数が得意みたいで、なんでも計算できちゃう彼は、テレビにだって出ていた。
『天才少年、数学の歴史を覆えす』
そう書かれた新聞の記事が、学校の掲示板に張り出されていた。よくわからないが、やっぱり彼はすごいやつみたいだ。その記事を見たときに、僕は「面白いやつを見つけた」と思った。
でも、彼はみんなに嫌われていた。勉強が誰よりもできるということに加えて、周りの人とあまり会話をしなかったからだ。クラスで一番喧嘩が強い奴からは「気に食わねぇ」と言われ、机に落書きをされたりランドセルを取られたりしていた。そんなときでも彼は嫌な顔ひとつせず・・・というか、無表情だった。彼が笑ったり、怒ったり泣いたりしているところは見たことがなかった。その時までは。
彼がテレビや新聞、雑誌なんかに出ることが多くなって数ヶ月が経ったある日。突然彼の筆記用具が消えた。そして、いつもなら表情ひとつ変えないはずの彼が一瞬焦ったような顔をした。その表情の変化を捉えていたのはクラスの中で僕だけだった。筆記用具を隠したであろう張本人達はいつものようにニヤニヤと彼のことを遠くから見ていた。見ていられなくなった僕は、彼と一緒に筆記用具を探してあげた。
「・・・僕に構うと、君までいじめられちゃうよ」
「それは嫌だけど、大切な筆記用具なんだろ?」
「・・・うん」
彼は相変わらずの無表情でそう答えた。この光景が面白くなかったのか、さっきまでニヤニヤと笑っていた奴らは、僕達に向かって筆記用具を投げつけてきた。
「根暗どうしが友情ごっこしてんじゃねぇよ。見てて気分悪いぜ」
投げつけられた筆記用具を奇跡的にキャッチできた僕は、中身が無事であることを確認して彼に返してあげた。
「とりあえず中身は大丈夫そうだ。何も盗られていなければいいけど」
「・・・ありがとう」
そう言って彼は少しだけ笑っていた。筆記用具がちゃんと返ってきたのがそんなに嬉しかったのかな。
こうして僕達は、友達になった。
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