僕は何に「なりたい」んだ?
何かの本で、性別をXとすることができた人の話を読んだ。僕はそれがひどく羨ましくて、でも、実家の人間に性別を変更することを知られるのが嫌で、他の理由もあって、僕はそっと実家の戸籍から自分の戸籍を抜いた。分籍である。
法的には気休めに等しいのだけれど、とりあえず性別を変更しても、実家の人間から見えないようにしたかったのだ。
ところが、僕が読んだ話は海外の話で、日本では性別Xは認められないことを知った。分籍するときの壮大な決意はどこへ。まあ、それ以外の理由もあっての分籍だから、それはそれでいい。
僕は男性になりたいわけではないので、結局、現行の法制度だと、暫定的に女性でいるしかない。
そのときにあれこれ調べたり人に聞いたりして、僕は何に「なりたい」のかを考えるようになった。今まで仕方なく女性の身体を動かして生きてきたけれど、女性特有の器官を取ってしまうこともできるのだと知った。
例えば胸オペ。既にある胸を取ってしまう手術だ。その他にもいろいろあって、ある程度の変化は望めることがわかった。
とはいえ、それらにはお金がかかる。一部の治療は保険適用になったものの、経済的負担はゼロではないし、もちろん身体に負担もかかる。
残念ながら、僕にとってそういった手術費用は大金だ。
それに、僕は女性としての生殖機能をもっている自分の身体は嫌いだが、少し贅沢をして高価で肌触りのいい、綺麗な下着を買うことを好んでいる。
そして、僕は、相当に痛みに弱い。新型コロナウイルスワクチンもインフルエンザワクチンも震えながら受けた。果たして手術後の痛みに耐えられるのだろうか。考えるまでもなく無理だ。
でも、現在の身体は嫌いだ。
それもはっきりしている。
僕の「なりたい」姿を考えてみた。
生理がなくて生殖機能がない。
そして、男とも女とも判別がつかない、整ったもの。
この条件を治療で痛みなく満たすのは、現状難しいのも、よくわかっている。
今の自分の身体は嫌いだけれど、一刻も早く脱ぎ捨てたいほどではない。手術の痛みを味わってでも、他の何を置いてでもお金を貯めて、というほどのことではない。僕にとって、今それはそのくらいの位置付けだ。
『螺旋をめぐる』でも書いたように、僕は大学で書くことを学びたいし、やってみたいことはまだまだある。自分の身体の優先順位は、僕のなかではそんなに高くない。
飲み続けたら無性でいられる薬とか、そういうものが出てきて、手頃な値段で手に入る日が来たら、そのときに僕が身体的にも無性になって、性別Xになるのかもしれない。
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