(136〜140)

(136)彼女の最新作を受け取って、大切に鞄に蔵い、バスに乗って二時間の道のりを戻るのだが、ギラギラ照りつけていた太陽がふと気がつくと真っ暗に翳っている。ガラス越しに見る村の様子はさっきまでとすっかり変わって薄気味悪いよそよそしさに満たされ、生暖かい風がどこからか吹き込んでくる。


(137)眠る人の番をしながら幾季節か過ごした。朝、夜明け後の清浄な空気を横切って、小さな雨が降っている。きらきら日差しが反射して森全体が輝き、光が音のように響き渡る。夢見るような風景に番人は息をのみ、すでに眠る人はこの世になく、自分が次の眠る人になったのだと知る。


(138)娼館の広間はちょっとしたギャラリーになっていて、マダムが端倪すべからざる趣味の持ち主だと知れるコレクションが並んでいる。その素気ない、しかし鋭い機知が隠された配列は、毎回少しずつ異なっており、訪れる度に心地よい驚きに導く。そうして愛撫はすでに始まっているのだ。


(139)水槽いっぱいに詰まった大量の鰻たちから、微量の電波が発信されていて、今朝、ようやく巨大電算機での解読が終了し、おそらくはさして遠くない未来に海洋が破滅すると彼らは述べているらしいと判明したのだが、それがどれほどの信憑性があるのかまったくわからないのだった。


(140)都は王が帰還するという噂でもちきりだ。重臣たちは頭を抱え、後宮は新たな妃を求めて使節を各地方に出したという。しかし疑いを持つものも多く、呪師や情報通の商人の家にはひっきりなしに客が押し寄せている。王を暗殺した者、それを命じたものは何を馬鹿なと震えている。

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