(126〜130)
(126)文化区域には美術館と博物館、音楽堂に図書館と科学館がある。それぞれに専門家が常在しているが、その姿を見たものは今のところ誰もいない。学生たちは日がな一日文化区域をさまよい、専門家たちを探索して虚しい時間を過ごし、勉学は一向に進まず、ただいたずらに歳だけを重ねていく。
(127)港港に巨大化した女たちが待っているので、男たちはめいめい自前で建造した船に乗って順繰りに彼女らとの逢瀬に巡らねばならない。凪の日も嵐の夜も、愛しい女たちの声が波の間から聴こえ、男たちは炎を飲み込んだように無言で櫂を動かすのだ。吐く息からさえ饐えたにおいが立つようだ。
(128)僕は夢の中で見慣れた路地を歩いている。そこがどこかは知らないが、角を曲がって、信号を渡るとビルがあるのは知っている。エントランスを抜けて、エレベーターのボタンを押す。振り返ると、静かに流れていく雑踏が輪郭のあやふやな灰色の一団に見える。もうすぐ雨が降り出す。
(129)ホテルの最上階に、ワンフロア全て貸し切って住んでいるマダムはいつも退屈している。僕たちは彼女に無理やり黄泉の国から連れ戻された死体だ。食事も水も摂らず、睡眠さえも必要としない僕らはマダムにとって最高の労働者で、退屈しのぎに無茶な要求を突きつけてくるのだ。
(130)真夜中の十二時をすぎた駅のホームに文字盤が動かなくなる時間帯があり、満員電車が静かに入ってくる。乗っているのは全員死者だ。身体のところどころが捥げていたり腐っていたりする死者たちが、押し合い圧し合いしながら乗っている。扉が開く。言うまでもないが乗ってはいけない。
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