(121〜125)

(121)町はずれの放置された天文台に、随分以前から一匹の巨大な蛸が住み着いている。赤黒い身体をしならせて、八本の足を器用に操り、どこからか電源まで調達してきた蛸は、夜毎天体観測を繰り返しているのだが、実は彼は蛸型宇宙人であり、故郷との連絡をどうにかして探っているのだ。


(122)沈黙が世界を支配する。群がる死者たちの見る夢には、物音一つ存在しない。誰も一言も荒い息一つ吐かず、黙々と違いを踏みつけて山を作っていきその山の上を踏みつけて登っていく。空は一面の赤。黄昏なのか暁闇なのか判然とせず、そもそも時間が流れているのかも誰もわからない。


(123)水没した街の片隅に、ボロボロになった水族館がある。時折酔狂な魚たちが自ら水槽の中に入って、不在の見物客のために銀鱗を翻すのだが、建物の中にさす日はほとんどなく、ただ暗闇の中でくるくる同じところを泳ぎ回っているだけである。音もなく、時間もなく、速度だけが世界を支配する。


(124)ついに外壁を破り市内に侵入した兵士たちは、突然現れたジャングルに唖然とせずにいられない。まるで熱帯のような植物群が、いくらか腐臭さえ漂わせ、なかば朽ちかけて行く手を阻んでいるのである。大量の虫を除いて生物の気配はない。迷路に落ちたように、荒廃した植物園の中を兵士たちが行軍する。


(125)男たちが車座になって博打を続けている。どこで拾ってきたのかこ汚い茶碗を中央に置き、賽子を転がして丁半を賭けるのだ。威勢のいい声が一瞬の気合を込めて投げられぶつかり合う。軽い音を立てて目が出ると、嘆きと歓喜と二色の声が荒野に高く低く響き渡る。誰も眠らず、立ち去りもしない。

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