(111〜115)
(111)真夜中になると奉公人は台所に集まって夫々身体を脱ぎ捨て各々思い思いの別の身体を被り直しまた持ち場へと帰っていく。毎日あまりに同じ仕事も飽きるので、こうやって目先を変えてどうにか格好をつけるのだ。ずっと昔からこうやってお勤めを果たしてきたのだが、主人一家はまったく気づいていない。
(112)心中しようと崖まできたら、海から龍が現れ恋人たちに目を留める。願いがあれば叶えてやろう。現世の望みは儚いと思い定めた恋人たちも、とにかくゼニであればインフレなどもあることでここは巨大な金塊を!と叫び、空から落ちてきた巨大な金塊が崖を砕いてすべては海に没するのだった。
(113)哄笑が響き渡る。王国はもはや瓦解の危機に瀕し、家々は固く扉を閉ざし、誰一人として外で出ようとしない。戦いに敗れた兵士たちは、将軍の骸を引きずって国境まで戻ることもなく、散り散りになって果てた。城では疑心暗鬼にかられた王のために一族郎党臣下後宮まで皆殺しだ。
(114)街の中心部、高層ビルが建ち並ぶ一角にどうしたわけか神社がある。ご神体は扉の奥に隠れていて、そっと忍び込んで見ると、暗い室の奥に腹を出した木彫りの像が佇んでいる。近づいてしげしげと仔細に観察するに、ぷっくりした腹が裂けて、そこから何枚もの舌が折り重なって垂れている。
(115)夜の砂丘のてっぺんに座って、静かに凪いでいる海を見ている。いつの頃からか緑色に染まった海は、近づくものをすべて飲み込む獣の爪を潜ませるようになった。かつて海が透明な青だった時代、親子連れや恋人たちが戯れていた砂浜にはいまや立ち上る幽霊たちが彷徨っているだけだ。
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