(101〜105)

(101)村外れに岩石から彫りだした仏像がある。誰が建てたものかは誰も知らない。宮廷に陰謀渦巻き戦果を招来し、人心が荒廃してさらに疫病まで蔓延した昨今、月初めになるとこの仏像が涙を流すと風聞が立った。涕泣は石像を青灰色に染め、周囲に群がって生き絶えた者らを慰める。


(102)先生が入院したというので、花を持ってお見舞いに行った。長い坂道を登っていくと、鬱蒼とした森を背後に従えて瀟洒な病院の建物が見える。病人はベッドに座って私を迎え入れ、やあ、さっき道を上ってくるのが見えたよ、と言う。声は明るいが、もういけないとわかる顔色だ。


(103)父が夕食の調理を失敗したので急遽レストランに行くことになった。ビロードのような空がひろがっている夜だった。隣家から借りた車で、父は何度も私たちに座席やら何やらを汚すな触るなと言い続けた。信号待ちしているときに、大きな火球が落ちていき、空が茜色に明るく染まった。


(104)昏倒したあなたを寝台まで運び、シーツの上に横たえて、それで、どうしたのだったか。転寝していたようだ。すっかり日が暮れて、冷蔵庫のモーター音のほか、部屋には何も聞こえない。私は台所で、椅子に座って、テーブルに突っ伏して眠っていたのだ。あなたはまだベッドにいるのだろうか。


(105)結婚式に呼ばれたので街に出なければならない。時刻表でバスの時間を調べ、準備万端整えて坂を下りてきたのだが、バスはいっこうにやって来ず、一人で、ぎらぎら照りつける太陽の下でひたすらバスを待っている。腕時計の針は驚くほどはやく進み、私はあきらめて家に帰る。

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