(096〜100)
096)船倉には海老茶色の軍服を着た兵隊たちが大挙して押し合いへし合いしながら待機しており、いまや港は開戦の火蓋が切って落とされるのを固唾を飲んで見守っているところだ。雲が茜色に染まり、みるみるうちに青く染め変わっていくのを将軍は見つめ、その将軍の背中を将校たちが見つめる。
(097)失踪した父を探しているのだという彼女は、それにしては全く切迫したところがなく、私の家に上がり込んで毎度の食事を要求する。あの人はね、探したって意味ないの、こうやって捜索を宣言して、あとはさまよっていたらある日突然目に前に現れるの、そういうものよ。
(098)学校からの帰り道、公園を横切って近道したら空から天使が墜落してきたのだった。ぐしゃっと嫌な音がして、恐る恐る覗いてみたらあの白い羽が折れている。ツルツルの皮膚の真っ白な身体。ずいぶんひどい落ち方をしたらしいのに血は一滴も流れていない。目はしっかり閉じている。
(099)焦慮に駆られて飛び出してはきたものの、果たしてどう対策をとったらいいのかさっぱりわからない。いまや空は鉄骨のような異星人の船でいっぱいだ。メッセージは何もなく、こちらからの通信にも一切反応がないらしい。とぼとぼ歩き続け、駅前の屋台でラーメンを食べた。
(100)発狂した薔薇が占拠した職員室に、一号と二号が呼び出されて出て行ってしまったので、残された私たちは自らの手でいますぐどうにかしなければならない。奴らはどこにでも潜んでいて、伸ばした触手ですべてを読みとっていくのだ。大切なのは何も考えないこと。
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