(071〜075)

(071)職員室の担任の雑然とした机の上にはいつも牛の首が置いてあって、いましがた斬り落とされたかのように生々しい血が垂れているので、こうして授業中ふざけすぎた廉で説教されていても気になって仕方がないのだが、その虚無のような黒目がちの瞳から涙が落ちる。


(072)拾った石はどうやら中が空洞になっているらしく、暗闇に放っておくと時折ぼうっと光るのだがその光が少しだけ距離を感じ取らせる遠くにあるのが確かにそう思われた。この石、むしろ石の殻を破れば中には何があるかといえば、伝承によれば精霊が眠っているのである。


(073)丘の上にある古い町の老舗旅館「人魚亭」の調理場で、シェフは毎日灰色の骨を木槌で打ち砕く。打ち砕く。打ち砕く。その骨はきっと獣の骨、魚の骨だが、もしかすると人の骨も混じっているの?と訊くとシェフはなんともいやあな顔でにんまり笑う。にんまり笑う。にんまり笑う。


(074)鉄の骨組みだけが残っている倉庫の、まだ燻っている瓦礫の下には、きっとあの犬が、犬たちが眠っている。尻尾を振って、宙を飛ぶように跳ね、私の周りをぴょんぴょん駆けたあの犬たち。どうしてお前らは黒い炎から逃げなかったのか。このまま一人で私はどうして歩けばいいのか。


(075)砂漠をずっと歩いてようやくたどり着いたテントの中には、半裸の少女が横たわっている。傍に控える黒い覆いを被った者に幾らかの銭を渡し、少女の足元にうずくまって、その蹠を広げると、小さくて白いその表面に走る相から、これから先十年ほどの未来が読めるのだ。

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