(061〜065)
(061)空を覆う巨大な蜘蛛から、巨木のような糸が放たれて、街はまるごと飲み込まれてしまった。ざっくり抉り取られた大地に残された窪みに緑色の液が垂れ、もうもうと湯気をあげる湖ができた。そこに、カラカラカラカラと軽い音を立てて骨が降り注いだ。町の住民たちはそうしてみんな死んだ。
(062)確かに私は温室で彼女の首を絞めて殺したはずだった。熱帯の植物たちがそれを見ていたはずだ。ギラギラした日差しはビニール越しにねっとりと衣服を濡らせ、彼女の股からは小便が流れていた。疲れ切って部屋に戻ると、彼女は何食わぬ顔で台所の椅子に座っている。今度は包丁で刺すか!
(063)森を抜け、丈高い草をかき分けて待ち合わせの湖畔に来た。暗い太陽が重くのしかかり、不吉な予感に苛まれながら待っているのだが、彼女はいっこうに現れない。しだいに湖を渡ってくる風が冷たくなり、ふと見ると水の面に長い髪がひろがって揺れていて、何だもうとっくに来ていたのかと気づく。
(064)外宇宙の旅から戻ってきてみると、すでに人類は滅亡し、大陸は一面の砂に覆われ、海はどこもかしこも真っ赤に染まっていた。動物も植物の姿も見えない。風も光も強く、計器類の教えるところに従えば、宇宙服を脱ぐこともできない大気の状態である。私たちはあてどなくただただ歩き続けた。
(065)広場の真中に三角のテントが立っていて、中に入っていくと占い師が待っていた。言われた通り表通りに戻って商業ビルの屋上に上り、フェンスにもたれて空を仰ぐと、鰯雲がベルトコンベアーのようにこちらに向かって勢いよく流れてくる。えいや!と飛び込むと、雲の絨毯が私を優しく受け止めた。
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