(051〜055)

(051)階段を降りていくとすでに人だかりで、これは待たされるかなと思ったが、こっちだ、と背の低い野球帽の人に肘を引かれてダンボールが積んである狭い通路を歩いていく。壁の大きなモニターに独裁者が映っていて激しい調子で演説しているようだが音声がカットされている。


(052)同窓会だというので映画館に入る。すでに上映は始まっており、スクリーンの中では懐かしい顔が顔が顔がいっせいにこちらに向かって語りかけてくる。客席にはまったく知らない連中ばかりが座っていて、そういうものなのかと思うが不意に恩師が私の名前を大声で呼ぶ。


(053)窓枠を外して部屋に忍び込むと、クローゼットの扉を開けた。すると中からガラガラ音を立てて色とりどりのハイヒールが転がり落ちて山を作り、泥棒は驚いて飛び上がったが、天井のシャンデリアには電球の代わりに眼球が嵌め込まれていていっせいにジロジロ見てくるのだ。


(054)すりガラスの向こうで、ゆらゆらと木々が揺れている。ここで待っていてくださいねと彼女が言って部屋を出て、どれくらいの時間が経過したのだろうか。コーヒーは冷めてしまった。壁を伝って、見たことのない虫が天井から消えた。思わず立ち上がって観察したがどこにも抜け穴などはない。


(055)部屋の中央に大きな箱があり、蓋を開けると中に階段がある。降りていくと広い空間に出てさらに階段は長く長く続き、階段の下は霞んで見えないほど遠い。掛け軸のようなひらひらのものが横に流れて浮かんでいる。これは何かもっと準備して出直すべきなんじゃなかろうか。

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