(046〜050)
046)ビロードのカーテンで閉ざされた暗い部屋で三人の男が薔薇を取り囲んで座っている。男たちの背後にはそれぞれ鏡、その面にむき出しの心臓。薔薇の上、宙に浮いて男たちの頭よりも高く一枚の銅版画があり、いま、ありありとその画布に裸女の像が浮かび上がる。
(047)夜の闇を縫って路面電車が現れ私の前に停まる。乗り込むと運転手の他に乗客は一人もいない。ゆっくり滑り出す。一番後ろの席に座って、窓外を光が糸を引いて流れていくのを眺めるうち微睡みから醒めたのは車輌を軋ませ海に入ってくところだった。線路は?
(048)天井からポロリポロリと蛆が落ちてくる。床には黒い液体が滲み出し、奥の方から冷たい風が吹いて燭台の炎を揺らす。壁にかかった額縁の中に絵は存在せず、それは、穴、穴が空いているのだ。覗いてみると小さな鏡が置いてある。誰かの横顔が映っていてゆっくりこちらを向く。
(049)アトリエは画家の屋敷の離れにあり、燦燦と陽光が降り注いで黄色くなっていた。ベッドには裸婦が休んでいるが、イーゼルに画布をかけたまま画家はどこかに姿を隠していた。そっとモデルに近づいて、腰のあたりに蟠ったシーツを払うと、女の股の間から子供が私を見ていた。
(050)暗い道を歩いていると何か柔らかいものを踏んだと思って転びかけた。振り返ってみれば裸の女がうつ伏せになって寝ている。驚いて手をかざすとどうやら息はあるようだ。手の平で頰をピチピチ叩くと女は瞬きして目覚め、あら、あなたですかとあくびしながら器用に言った。
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