(041〜045)

(041)支配者の遺体が運ばれてきたので、沐浴して装束を改め、正面から社に入り直した。棺は高床の穀倉の上に安置されている。抜き身の剣を捧げ持って階を上がり、足で蓋を外すと間合いを詰めて、骸の肉を開き、取り出した心臓を懐に入れる。これから夜をかけて町中にぶちまけるのだ。血を。


(042)水の奥に祠があるというので、私は船を出してみた。鏡のような水面に櫂を差し入れてもいっこうに手応えがなく、生温い風に流されて、はて迷ったかなと思うや、ちょうど正面にその祠があって、扉を開け放つと、一瞬見えた裸の女があっという間に骨になり粉になって消えた。


(043)押入れからオットセイの死体がゴロゴロと九頭分も転げ落ちてくる。吃驚して頭が真っ白になりつつも、とにかくすごい臭いでそれが死臭なのか獣臭なのかはわからない。一刻も猶予がないと直感したが、時や遅しオットセイは次々爆発し部屋と私を血と内蔵で赤く染めた。


(044)夢の中で夢を見ている男の家の外で犬が鳴き月がそれを冷たく見ている男は夢を見ている夢の中で犬の頭を撫でる男のてのひらが女の手をとってゆびさきを口に咥え爪が月のように白く光り息も白くとても寒い寒い夜で夢を見ている男の夢の中で女の顔が犬になる。


(045)深更、開いたページに顔を垂れてうたた寝しかけ、夢半ばに目の端を黒い糸が流れ思わず指で押さえると紙魚だった。「お助けを」とでも言うだろうかと思って見ると指の腹からふっと消えていて、おや、捕まえたのも夢だったかと思うが開いたページの余白が増えている。

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