(036〜040)

(036)夏至の夜に緑色の夢を見る。緑色の空に、緑色の星、緑色の風に、緑色の海。緑色の肌のあなたと、緑色の私の息。切り落とした手首からは、ワインのように緑色の血がどくどくとこぼれ落ち、緑色のベッドのシーツと、緑色の床に落ちる。カーテンが揺れて、開け放たれた窓の外に緑色の月。


(037)眠っている奥様の口から、カブトムシが這い出してきてぶるっと身を震わせ、羽を広げて飛び立っていった。気になってじっと見ていると、奥様は何食わぬ顔でパッとお目を開け、唇に垂れた涎を手首でぬぐって私を見ると、内緒よ、と声に出さずに口の形を作って見せた。


(038)海岸線を歩いていると、波打ち際に人魚が倒れていた。首に手を置いてどうやら死んではいないと確かめて、さてどうしたものかと思案する。通りすがった屑屋のリアカーを有金はたいて譲ってもらい、彼女を載せて家まで帰った。通販で購った水槽で人魚は今も泳いでる。


(039)雲の階段を駆け上ってゆく人を何度か目撃したことがあり、自分もそんな機会があればと願ってやまないのだが、どうやら上ってしまえば二度と地上には戻ってこられないらしく、用があるものの前には階段は現れないんだとか。やれやれ、さっさと重力の鎖がほどける日が来ぬものか。


(040)オレンジがテーブルの上で燃えている。黄昏。妻が台所から消えて、取り残された夕飯の食材が腐ってしまうので、大勢の人を呼んで宴会にしようと思ったのだが、考えてみるまでもなく誰も呼ぶ当てがなかった。冷蔵庫の中に何が入っているのかも知らない。

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