(031〜035)
(031)地下室には高さ20センチメートルの床一面の水槽にピンク色のフラミンゴが群棲する一角があり、入っていくと鳥たちが一斉にふり返った。濃密な羽毛のにおいを吸い込み、視界いっぱいにピンクが折り重なってゆらゆら揺れるので、まるで錯視ゲームの部屋に迷い込んだみたいだ。
(032)悪友の一人が回転扉の中に住んでいた。仲間たちが毎日食事を持っていくと、くるくる歩きながらそれを受け取って食べ、携帯用トイレを器用に使いながら回転扉の動きに合わせてくるくる歩く。眠らないのか? と訪ねると歩きながら寝るのだと言う。ちょっとしたコツがあるんだ。
(033)ずいぶん酔っ払ったのでそろそろ帰ろうかと思い、席を立って店のドアを開け路地に出るとはてここはどこだったかわからない。まあ適当に表通りのほうへ歩いてったらよかろうと何度も何度も角を曲がり明るそうなあたりを選んであっちへふらふらこっちへふらふら月がその後を律儀に従いてくる。
(034)船で港に入ってくると、桟橋に女たちが並んでいるのが見えた。色とりどりのワンピースが風になびいて、さんざめく花のように艶やかな女たちは、一人一人順番に海に倒れて落ちた。慌てて覗き込むと、大人が一人二人軽く入れるほどの大きさの白い玉が大量に金属色の海に浮かんでいる。
(035)階段を息せき切って駆け下り鉄製の重いドアを開けると、暗い照明の下、解剖台の上に天使が開腹されて横たわっている。腹の中はがらんどうで、壊れた楽器の内側のようだ。きっととても清涼な声を聴かせたことだろう。そう思うと腹を裂く瞬間に立ち会い損ねたことが残念でならない。
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