第46狐 「修学旅行は恋の予感」 その2

 簡単な説明が終わると、いよいよ自由行動の時間じゃ。

 じゃが、美しい街並みを航太殿と楽しみながら過ごせると思っておったら、夕方までに隣町までトレッキングで辿り着かねばならないと言われてしまった。

 なんで修学旅行で鍛錬遠足の様な事をせねばならぬのか分からぬが、宿泊するホテルがそこに有るそうじゃから仕方が無い。

 とはいえ、時間はたっぷりある。先ずは美しい海が見えるレストランで食事じゃ!


「航太殿、一緒に行くのじゃ!」


 紅や静さんに奪われる前に、急いで航太殿の手を握りしめて歩き始めた。

 航太殿は文句も言わず素直に付いて来て下さる。

 サングラスが凛々しいのう。


 青や赤の色を上手に配した白い建物と、辻々に植えられている花々。

 特にブーゲンビレアとかいう華やかなピンクの花が、こぼれそうになるほど咲いておるのが綺麗じゃのう。

 真っ青の空と一緒に眺めておると、余りの美しさに呆けてしまいそうじゃ。


 白壁に囲まれた、すれ違うのが大変なくらい細い路地を抜けると、ぱっと空が開けて透き通る海が視界に飛び込んで来たのじゃ。

 岩肌に所狭しと並んでいる建物が白く輝き、海と空の青さを一層引き立てておる。

 この世の物とは思えぬほどの美しさじゃ。


「おおっ! そこの眺めが良いレストランで食事をするのじゃ! 航太殿こっちじゃ」


 航太殿の手を引き、海にせり出したレストランの端の席に座ったのじゃ。

 ガラス越しの海が足元に見えて、まるで海の上に浮いている様じゃのう。

 

「おー! ここ凄く綺麗じゃん! 美狐ちゃんナイスチョイス」


「まあ、本当に美しいですわね」


「美狐さ……ちゃん。あまり勝手に歩いて行かないでよ。困るじゃない」


「お腹が空いたニャア! シーフードニャ!」


「綺麗っキュ♡ PVの撮影はここが良いっキュー♡」


「ふふふ。やっぱり海は良いわね。アバンチュールが私を待っているわ」


 航太殿と二人きりでと思っておったのじゃが、結局、皆が付いて来ておった。

 まあ、分かっておったがのう。いつも通りじゃな。


「みんな歩くのが早いなぁ。鳥雄と必死で付いて来たよ」


 真っ白のハーフパンツに胸元が開いたブルーのシャツを着た白馬が遅れてやって来た。

 サングラスを外すと、周りの女子から黄色い声が上がる。

 わらわには分からぬが、格好良いのじゃろうなぁ。

 じゃが、白馬が来たという事は……。


「白馬くーん。私達も一緒で良いよね! トレッキングも頑張ろうね!」


 猫なで声の蛇蛇美と蛇子じゃ。

 そして予想通り、紅よりも胸を露出させた、白いワンピースの金髪が、航太殿の横に割り込んで来おった。


「Oh! コータ! やっと見つけマシター! 今日はこれからエターナルに一緒デース!」


 言うや否や航太殿に抱き付きおった。


「蛇蛇美! 白馬は連れて行って良いから、こやつを連れてどっかに行かぬか!」

 

「えー。私達はそれで良いけど、蛇澄美がどうするかは知らないわよ。それに、蛇澄美は頼りになるから離れたく無いのよ」


「蛇澄美が頼りになるじゃと? 何でじゃ」


「じゃあ、料理を注文してみてよ」


「ん? 何じゃそれは。簡単な事じゃ」


 蛇蛇美が訳が分からぬ事を言っておるが、取り敢えず料理を注文すればよいのじゃな。

 ここはひとつ美味しいシーフードパエリアなどでも注文しようかのう。

 メニューはこれじゃな。さてと……。


「うっ」


「どうした美狐? 早く注文しようぜ!」


「お、おお。そうじゃな。それはそうと、静さんは何を頼むのじゃ? 先に選んでよいぞ」


「まあ、美狐ちゃんありがとう。えっと、私わぁ……あっ……べ、紅ちゃん、お先にどうぞ」


「ああ分かった。じゃあ先に選ばせて貰うぜ! えっとぉ……。何じゃこれは? 全く読めないじゃん!」


「ほらね。あんた達もここの文字全然読めないでしょう」


 蛇蛇美が勝ち誇った様な顔をしておる。

 悔しいが、誰もメニューすら読めなかったのじゃ。


「Oh! ワタシダイジョブでーす! ゲレイシアにはスリーイヤー住んでマシター」


 何じゃと……蛇澄美はここの文字が読めるとな。

 蛇澄美がメニューを受け取り、航太殿に密着しながらメニューを広げおった。


「コウタはナニ食べたいデースカ? これがパスタで、これがパエリーア、シュリンプやムール貝もオイシイヨ」


 仲睦ましそうに料理を選ぶ姿を見せつけられて悔しいのう。

 じゃが、これは反撃が出来ぬ。


「ミンナも食べたいモノを言ってクダサーイ! ワタシが注文してあげマースよ」


 わらわ達は誰もメニューを読むことが出来ず、蛇澄美にお世話になる事になってしまったのじゃ。

 こうなると、蛇澄美無しで行動する事が出来なくなってしもうた。

 航太殿に密着する姿は口惜しいが、致し方が無いのう。




「あー、本当に美味しかったぁ。景色は最高。料理も最高。本当に夢みたいな島だな!」


「景色を見ながら外で食べるから余計に美味しく感じるのかしら。本当に美味しかったわ」


 皆満足そうにしておる。注文こそ出来なんだが、わらわが頼んだシーフードドリアはとても美味しかったのじゃ。

 それに、途中で航太殿が頼まれたパスタと交換したのじゃ。

 笑顔で交換して下さった。やはりわらわの航太殿じゃ。

 ん? 航太殿どこを向いておる。


「蛇澄美ちゃんありがとう。薦めてくれたパスタ、とても美味しかったよ」


「Oh! 喜んでくれたならウレシーイデース!」


 蛇澄美がいきなり航太殿に抱き付きおった! ハグとか言っておるが、抱き付いておることに変わりは無いではないか!

 それに、なんじゃ。航太殿の嬉しそうなお顔は。

 しかも、蛇澄美の胸元が開き過ぎじゃ。航太殿の視線が釘付けではないか。

 本当に口惜しいのう……。早くこの店から出るのじゃ!




 今宵の話しも、ここまでなのじゃ。

 今日も誰よりも見目麗しいのは、わらわであろう?

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