第47狐 「修学旅行は恋の予感」 その3

 食後はレストランの目の前にあるジェラート屋さんでデザートタイムじゃ。

 皆とジェラートを楽しみ、隣町までのトレッキングのスタートじゃ。


 平らな岩が埋め込まれた白く美しい路面を歩いて、お洒落で楽し気なお店が建ち並ぶ路地を抜けると、一気に建物が途絶えて、赤土にゴツゴツとした岩が露出している場所に出たのじゃ。

 美しい街並みとは打って変わって、何とも荒野感溢れる山道じゃが、地図を見るとこの道が一番近いそうなのじゃ。

 なかなか険しい道を歩くのじゃが、狭い山道で沢山の人とすれ違うので、道は間違えていないようじゃな。


 ところがじゃ。しばらく歩くと、すれ違う人の殆どが艶やかなドレスを纏った綺麗な女ばかりに……。

 蛇澄美ジャスミや紅よりも露出している女子おなごばかりじゃ。何じゃこの国は。

 しかも、すれ違う度に笑顔で挨拶しながらウィンクなぞして、航太殿と白馬に色目を使っておる。中には鳥雄にすら愛嬌を振りまく者すらおるぞ。

 何だか嫌な感じじゃ。女子おなご共に変化族の雰囲気が漂っておるのう。


 すれ違う女子おなご共に気を張っておると、陽子と蛇蛇美が立ち止まってわらわを待っておった。彼女たちも何か感じたのじゃろうか?


「美狐ちゃん気が付いてる? すれ違っている連中の事」


「うむ。何やら怪しい雰囲気が漂っておるのう」


「へぇ、鈍感なあんた達でも感じてたんだ。あれ、変化族だよ」


「蛇蛇美も分かるのか」


「だって、どちらかというと私達サイドの変化族だもの」


 蛇蛇美たち遠呂智族サイドの変化族じゃと? 性格たちが悪そうじゃのう。


「まあ、やはりそうなのですわね」


 わらわの後ろを歩いていた静さんが、会話を聞いて顔を覗かせて来た。


「あの方たち、ちょっとずつ瞳から妖術を使っておりますわよね。強くは無いので対抗するほどでは無さそうだけれど」


「蛇蛇美。そうなのか?」


「そうだよ。すれ違う度に、私の白馬君とついでに航太たちに妖術を掛けているわよ。ちょっとずつ積み重ねで」


「なんじゃと。何の目的でじゃ」


「あいつらコウモリ族の変化で、サキュバスと呼ばれている種族だよ」


「何ですって!」


 陽子が目を丸くしておる。どうしたのじゃろう。


「何じゃそれは?」


「何ですの、そのサキュバなんとかって」


「二人とも……知らないの?」


 皆が、わらわと静さんを不思議そうに見ておる。

 何じゃ。知らぬものは知らぬのじゃ。


「サキュバスだって! それはヤバイいな! 仲良くなろうかなぁ」


 話を聞いていた紅が飛び付いて来おった。目を爛々と輝かせておる。


「なんじゃ紅。何がそんなにヤバイいのじゃ」


「はぁ。お子ちゃま美狐はこれだから困る」


「なんじゃ、皆は何の事だか分かっておるのか?」


「あのなぁ美狐……」


 紅が耳元に顔を寄せてモニョモニョと話し始めた。何じゃ。


「……こうで……あーで……こんなふうに……こんな事を……」


「な、な、何じゃとー! 紅と蛇澄美を合わせて、さらにふしだらにした者より悪いではないか! わらわが直ぐに打ち払って見せようぞ!」


 航太殿を誘惑しておるのは、とんでもない変化族じゃった。このままでは、大変な事になってしまうではないか!

 横で聴いておった静さんも、口に手を当てながら目が怒りで燃えておるぞ。


「ダメよ。あなた達ここで暴れない方が良いわよ。ここは異国の変化族のテリトリー。戦争でも始めるつもり?」


 振り向くと蛇奈が立っておった。いつの間に合流したのじゃ?


「美狐様。蛇奈さんがおっしゃる通りです。ここで妖術合戦でも始めてしまったら、大変な事になるかも知れません」


 咲がもっともな事を言っておる。確かにそうじゃが……。


「ならばどうしろと言うのじゃ」


「まあ、私の白馬くんが居なければ知ったこっちゃないけれど、同じサイドの私達が話を付けて上げても良いわよ」


「白馬はどうでも良いが、航太殿は困るのう」


「ふんっ。これで貸しが二つね。ちゃんと返しなさいよ、天狐の皇女様!」


「ぐぬぬ……」


 蛇蛇美が勝ち誇った様な顔をしながら、先頭の方へと行きおった。

 一日に二度も遠呂智族の世話になるなど屈辱じゃが、致し方あるまい。


「蛇蛇美じゃ不安だから、私も行っておくわね。咲ちゃん、街に着いたらCAFEに行きましょうね! ワッフルが美味しい店があるそうなのよ」


「うん!」


 優等生の蛇奈が、咲に手を振りながら蛇蛇美を追いかけて行きおった。

 文化祭以来、咲と蛇奈は仲良しになったようじゃ。

 じゃが、相手は遠呂智族。いつ裏切られるか分かったものじゃ無いがのう。


 蛇澄美が通訳でもしたのか、すれ違う女子と話を付けてくれたおかげで、航太殿への艶っぽい挨拶は無くなったのじゃ。

 じゃが、わらわとすれ違う度に、サキュバス共がもの凄い剣幕で睨んで来おる。

 何なのじゃ……。


 しばらくして、サキュバスどもからやたらと睨まれるのが気になって理由を聞いたら、蛇蛇美がとんでもない説明をしておったわ。

 わらわは国で一番凶悪な妖狐の親玉で、ここにおる男共は彼女が喰らう生贄いけにえだから、手を出したら何をしでかすか分からぬから止めて置けと忠告したらしい。

 誰が凶悪な妖狐で生贄を喰ろうたりするのじゃ! 蛇蛇美の奴め。



 赤土と岩だらけの道を更に一時間ほど歩いたところで、目的地の街が見えて来たのじゃ。こちらも白い建物が建ち並んだ綺麗な街じゃ。

 街に入ったところで、サキュバスの件で蛇蛇美に文句のひとつでも言ってやろうと思うたら、航太殿が笑顔で立っておられた。

 航太殿の笑顔を見たら、そんな事はもうどうでも良くなってしまったのじゃ。

 サキュバス共にかされておったら、今頃どうなっておったのやら……。

 それこそ、わらわが国で一番凶悪な妖狐になっておったかも知れぬのう。それに静さんも紅も黙ってはおるまい。

 味方とは言えぬが蛇澄美なども、航太殿を狙われたとあっては、天候を操って何をしでかしておったか分からぬ。サキュバス共は雷に撃たれておったかも知れぬのう。


「ミコちゃん。やっと着いたね!」


「そうじゃな」


「ねえ、ミコちゃん。お土産屋さん見に行かない?」


「わ、わらわとか?」


「もちろんだよ」


 何と航太殿から街歩きに誘われてしまったではないか。

 こんなに嬉しい事は無いのじゃ。

 このままこの美しい街で二人で過ごすのじゃ!


「行こう! ミコちゃん」




 今宵の話しは、ここまでなのじゃ。

 今日も誰よりも見目麗しい……わらわと航太殿の話の続き知りたいであろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る