第15狐 「気になっている子は……」

「こむぎ、おいで~!」


 今日も、真っ白でモフモフのこむぎが飛びついて来てくれる。

 こむぎとじゃれ合うのが、一日で一番大好きな時間だ。

 肩にあごを乗せながら頬にスリスリされると堪らない。

 こむぎは、何でこんなに可愛いのだろう。


「ねえねえ、こむぎー」


「ケン!」


「こむぎは俺の事好き?」


「ケンケンケン!」


 こむぎが飛びついて来る。

 可愛いから、前足を持ち上げてブラブラすると、何だかモジモジしている。


「俺もこむぎが大好きだよ!」


 ジタバタするから降ろしてやると、飛びついてきて顔をペロペロ舐められる。

 本当に人の言葉が分かっているみたいだ。


「こむぎは賢いなぁ」


「ケンケンケン!」


「そうそう、今日ねクラスの陽子ちゃんから『彼女はいるの?』って聞かれたんだよ」


「ケッ……! ケハッ! ケハッ!」


 こむぎが急に咳き込んだ、大丈夫かな?


「『いないよ』って答えたら、今度海に遊びに行こうって誘われちゃった! どうしよう?」


「……」


 こむぎが急に大人しくなって、寝転がってしまった。どうしたんだろう。


「嬉しいけど。俺、気になる子がいるしなぁ」


 こむぎが急に起き上がった。今日は何だか変だな。


「学校のクラスに可愛い子がいっぱい居るんだけどね。俺が気になっている子は……『プルルルル♪』……あ、電話だ。こむぎちょっと待っててね!」


 ――――


 電話を掛けている最中は、こむぎは大人しく座って待っている。

 本当に行儀ぎょうぎの良いワンコだ。

 電話は、明日提出の宿題の事だった。

 電話で宿題が有ったのを思い出して、慌てて片づけた。


 明日の学校の準備が未だだったから、こむぎの頭をひと撫でして、準備に取り掛かる。

 準備が終わると、何だか眠たくなって来たから布団に横になった。


「こむぎー、寝よっか! おいでー」


 いつもなら、直ぐに布団にもぐり込んで来るのに、今日は真横で顔を覗き込むようにして、じっと見つめている。

 どうしたんだろう?


「こむぎ? どうしたの?」


 こむぎは首をかしげながら、時々前足で俺を触る。

 何かを要求している様だけれど、さっぱり分からなかった。


「こむぎ、今日は変だね。構ってあげたいけど、眠いや……」


 目をつぶると、前足で何度も押してくるから、その度に目を開けるけれど、眠過ぎてそのまま寝てしまった……。


 ――――


 白狐びゃっこのお姿をされている美狐様が、航太殿の家から帰って来られました。

 私とべに様が、巫女の姿をしていると、美狐様も巫女の姿に変化へんげされます。

 美狐様は何だか、微妙な顔をされていました。


「美狐様、どうかされましたか?」


「うーむ。航太殿にじらされてしもうた」


「じらされた?」


「そうなのじゃ。気になっている娘を教えると言うので、ずっと待っておったのじゃが……」


「ええ」


「言わぬまま、寝てしもうた」


 話を聞いていた紅様が高笑いをされました。


「はっはっは! 美狐様。航太殿が好きなのは、私の胸じゃ!」


やかましい! お前も陽子も、ふしだらな事で航太殿を惑わせよって!」


「陽子?」


「あやつめ、航太殿を海になど誘いおって! 許せぬ」


「海かぁ、良いわねぇ。みんなで行っちゃおうよ!」


「ほう。皆でのう……」


「うんうん。決まり!」


 紅様の提案で、どうやら皆で海に行く事になりそうです。

 美狐様が『水着』の事に気が付く前に、私はその場を離れる事に致しました……。




 今宵のお話しはここまでに致しとうございます。

 今日も見目麗しき、おひい様でございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る