第14話

Chap.14


 竹山君に廊下で待っていてもらって、保健室へは玲だけ入った。

 斉藤さんのお母さんはまだ来ておらず、疲れた顔をした加藤先生が、真っ白なカーテンで囲まれたベッドの脇の椅子に座っていた。斉藤さんは眠っているようだった。カーテンの向こうから、ゆっくりした規則正しい寝息が微かに聞こえてくる。

 玲は、斉藤さんのバッグを、近くにあったもう一つの椅子の上にそっと置いた。

「ありがとう」

 加藤先生が囁く。

「何を入れたらいいかわからなかったので、机の中のものを全部入れちゃいましたけど…」

 先生は頷いて、 

「大丈夫?」

 心配そうな顔をして玲をじっと見た。

「はい。あの…、さっき、廊下で…」

 ちょっと迷ったけれど、やはり担任の先生なのだし、直接言うほうがいいだろうと思って、二谷先生との廊下での一件について話した。

「ええー…」

 加藤先生が青くなって涙ぐんだので、玲のほうが慌てて、

「あの、全然大丈夫ですから。先生、元気出してください」

 と、なんだかトンチンカンなことを言ってしまった。

 先生は涙ぐんだまま小さく笑って、

「本当に…情けない担任でごめんね。何も…助けてあげられなくて…」

 ポケットからラベンダー色のハンカチを出して涙を拭いた。

 玲はふと思い出した。

 斉藤さんは、確か昨年も加藤先生のクラスだったはずだ。一年C組。D組だった玲とは体育が一緒だった。加藤先生にしてみれば、昨年からずっと、何も気づいてあげられなかったことを思うと辛いだろう。

「そんなことありません。先生が悪いんじゃないです」

 悪いのは二谷先生だ。

 先生は弱々しく笑った。

「…ありがとう。今夜またお母さんにお電話するから…」

「伝えておきます」

「これから帰るの?」

「はい」

「竹山君と一緒?」

「はい」

「そう、それならよかった。気をつけて帰ってね」

「はい。あの、斉藤さんに…お大事にって」

 先生は赤い目で小さく微笑んで頷いた。

「伝えるわ」


 「加藤先生…相当まいってるみたい…」

 昇降口に向かって歩きながら、玲は低い声で言った。

「そう…」

 竹山君も沈痛な面持ちだ。

「…斉藤さんって、確か金曜日にあいつの伝言を伝えにきた人だよね」

「うん。今日もまた掃除の時間に、金曜日の時と同じように声をかけられたから、また二谷先生からの伝言かと思って、身構えちゃったんだけど…」

 

 清掃時間特有の明るい騒々しさの中、斉藤さんと二人で職員室に行った。黒板消しクリーナーの音。机や椅子を動かす音。にぎやかなお喋りの声。

 職員室に二谷先生はいなかった。加藤先生の姿も見えなかったけれど、玲は躊躇することなく、三年生の先生たちの机のある方へ向かった。三年の先輩と話をしている前川先生から少し離れたところで待つ。

 そういえば、木曜日の昼休みにもここでこんなふうに待っていて、上条君に声をかけられちゃったんだっけ…。あれからいろんなことがあった。ものすごく嫌なことも、ものすごく嬉しいことも。あれがたった数日前だなんて、なんだか信じられない。

 ふと振り返ると、斉藤さんは玲の後ろに身を潜めるようにして立っていた。玲より少しだけ低いところにある顔が、緊張で強張っている。

「大丈夫?」

 小声で訊くと、斉藤さんは黙って小さく頷いた。

 前川先生と話していた三年生が立ち去り、前川先生が二人の方を見た。

「行こう」

 斉藤さんを促して、足早に先生のところへ近づく。

「先生、斉藤さんが、今日のアンケートに書けなかったことをお話ししたいそうです」

 小声で言うと、先生は、玲の後ろに隠れるように立っている斉藤さんをちらりと見て頷いた。

「わかりました。進路指導室へ行きましょう」

 前川先生は、立ち上がりながら二年生の先生たちの机の方を一瞥したけれど、そのまま玲たちの先に立って職員室を後にした。

 進路指導室に入りドアを閉めると、校内の騒音が遠ざかり、急に静かになった。眠たげで平和な空気。窓のそばの鉢植えのゴムの木の葉が、つやつやと光っている。

 先生は二人を椅子に座らせると、

「ちょっと待っていてください」

 と言って足早に出て行った。

 隣に座った斉藤さんをそっと窺うと、斉藤さんは思い詰めたような目をして、目の前の会議テーブルを見つめていた。膝の上に置いた両手は、ハンカチをきつく握りしめたままだ。思いついて訊いてみた。

「私がいないほうが話しやすい?」

 斉藤さんははっと夢から覚めたように玲の方を振り向き、怯えたような目をして首を振った。

「…一緒に…いてくれたほうが…」

 そこへ校内放送が鳴った。前川先生の声だ。

「加藤先生。加藤奈美枝先生。至急進路指導室までお願いします」

 しばらくして前川先生が加藤先生と一緒に戻ってきた。二人だけだ。男の先生がいないほうがいいという玲の思いは、前川先生にも通じたようだった。


 斉藤さんは、ずっと目を伏せたまま、震えがちな細い声で、時折喉につかえた塊を飲み込もうとするかのように間を置きながら、昨年からのことを話した。途中で泣きそうになって声がうわずっても、ぐっと歯を食いしばるようにしてしばらく黙り込み、小さく息をついて、また話を続けた。

 玲は、斉藤さんが膝の上で握りしめている白い水玉の散った淡い水色のハンカチと、それを時折強く握りしめるほっそりした小さな手をずっと見つめていた。斉藤さんの顔を見ることができなかった。心がぎりぎりと絞り上げられるようだった。胸が苦しい。胸が痛い。

 これが物語なら本を閉じてしまえるのに。現実は容赦ない。

 小学六年生の時、朝礼で貧血を起こして倒れたことがある。座っているにもかかわらず、あの時のように心臓が気味悪くどきどきして、目眩がして、手が冷たくなった。

 かわいそう、なんていう言葉ではとてもとても足りなかった。

 できるなら、今すぐに、時間を巻き戻して、斎藤さんをそんなことが起こる前に連れ戻してあげたかった。絶対にそんなことが起こらないようにしてあげたかった。

 斎藤さんの手を掴んで、一緒にどこかへ逃げて隠れたいような気持ちに駆られた。

 斉藤さんは、最後に先週の金曜日のことを話した。

 二谷先生に言われて、玲に部活前に美術準備室に行くように伝えたこと。その日の夜、二谷先生にLINEで言われた言葉。

「今朝のアンケートで…書きたいと思いました。でも……何から書いたらいいか、わからなくて。書くことが、あんまりたくさん、あって…」

 堰を切ったように斉藤さんは泣き出した。その喉から、絞り出す悲鳴のような声が出て、玲は思わずびくっとした。反射的に斉藤さんの背中に手を回す。斉藤さんは玲にすがりつくようにして身体全体で声を上げるようにして泣いた。

 

 「…斉藤さんはね、去年からずっと…一年生の二学期からずっと…」

 それ以上は言えなかった。

 誰にも言えない。

 絶対に言わない。

 一歩一歩廊下を進んでいく自分の上履きを見つめる。

「進路指導室で…全部話し終わって、斉藤さん大泣きしちゃって…。前川先生も、加藤先生も、私も泣いちゃった。そうしたら、斉藤さん、過呼吸になっちゃって、それで加藤先生が小林先生を呼びに行って…。しばらくして少し落ち着いたから、みんなで保健室に移動して…。それでさっきまで…斉藤さんが少し落ち着くまで、私も一緒にいたの。斉藤さんのお母さんが迎えに来るんだって」

 二人一緒に大きなため息をつく。

 吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。『イン ザ ムード』。華やかに明るい。近くの教室からは何やら作業をしているらしい一年生たちの賑やかな声。学芸発表会前の、活気に満ちた楽しげな雰囲気。祭りの前。

 玲は保健室で眠っている斎藤さんを思った。明るさも楽しさも届かない場所にずっといた斎藤さんを思った。

「…なんて世の中だろうね」

 しばらくして竹山君が低い声で言った。

「…ほんと」

 心からそう思った。

 あんなひどいことをする大人がいて、それがしかも学校の先生で…。

 どうなってるんだろう一体。

 どうしてなんだろう。

 どうしてなんだろう。


 昇降口で靴を履き替え、外に出る。淡いグレイと鈍い金色と華やかな珊瑚朱色に染まった空を見上げて、思わず深呼吸しようとしたら、息が途中で引っかかってしまった。息が深く吸えない。

 なんだかまだぼうっとしている。頭をちょっと振ってみる。

 頭の中のどこかのドアが閉じてしまっているような感じがする。

 体育館からたくさんのボールが弾む音が聞こえてくる。体育館シューズが床を擦る高い音。

 校内や昇降口や体育館への渡り廊下の辺りで、何人かの顔見知りの二年生とすれ違った。バイバイと手を振り合う。感じで、「わーあの二人やっぱり付き合ってるんだ」というようなことを言われているのがわかったけれど、全然気にならなかった。

 竹山君が嫌がってないのなら、なんと噂されても別に構わない。

 校門への並木道をしばらく無言で歩く。中途半端な時間だからか、歩いている生徒は他にいない。グラウンドでは、サッカー部が赤と青のゼッケンをつけて走り回っている。

 竹山君が、そういえば、というように玲のほうを見た。

「今日は、録音はしなかったの?」

 玲はかぶりを振った。

「しなかった。一応先生が斉藤さんに録音を残したいかどうか訊いたんだけど、斉藤さんがしたくないって」

「…そうだろうね」

「うん。たくさんの人に聞かれたい話じゃないと思う。あんな…、あんなこと…。私だったら絶対に絶対に嫌。絶対に人に知られたくない、って思うと思う」 

 大きなため息が出る。

「…だからなのね。だから…人に知られたくないことだから、だから誰にも言えなくて、だからああいう…二谷先生みたいな人が、誰にも知られずに、調子に乗ってああいうひどいことをし続けるんだよね」

 それに斉藤さんの場合は…。あんなふうに脅されていたら、たとえ話したくても誰にも話せなかったに決まっている。

 逃げ道はなかった。

 背筋がぞっとなる。思わず拳を握りしめる。

 ひどすぎる。

 あんまりひどすぎる。

 胸が痛くて、気をつけていないと今にも泣き出しそうだ。

 隣で、竹山君がさっきよりも珊瑚朱色の光が濃くなってきた空を見上げて、低い声で言った。

「…もし大宮さんがそんな目に遭ったら、僕は生きていられないと思う」

 玲はびっくりして竹山君を見上げた。竹山君はきつい目をして空を睨んでいた。

「大宮さんを守れずに…そんな目に遭わせてしまったら、あいつを殺して、自分も死ぬ」

「いやっ」

 思わず竹山君の制服の袖をつかんでいた。

 想像力というのは、たまにすごい勢いで暴走する時がある。

 一瞬の間に、お葬式の様子も、ひつぎの中で白い花に囲まれた竹山君の顔も、学校の机の上に置かれた花瓶も花も、微笑んでいる遺影も、みんなはっきり見えてしまった。

 見えたのは想像だけれど、太い矢に背中まで射抜かれたような胸の痛みは本物だった。

「そんなこと絶対にしないって約束して!」

 ありったけの真剣な気持ちを込めて竹山君を見上げた。竹山君が、驚いたように目を見開いてから、ちょっと笑った。

「お約束します、姫」

 笑いごとじゃない。あっという間に目が涙でいっぱいになる。

「ちゃんと真面目に約束して!」

 竹山君の瞳が揺れた。

 口元の微笑を消して、玲の目をしっかり見つめる。

「約束する」

「…ありがとう」

 竹山君の袖を離す。身体の力が抜ける。

 ふうっと息をつくと息の端が震えた。

 突風が通り過ぎたみたいだった。

 感情の爆発。

 こんなことは初めてだった。混乱してなんだかくらくらする。自分が何をしているのだかよくわからない。竹山君の袖をあんなふうにつかんでしまうなんて…。

 ちらりと竹山君の袖を見る。つかんだところが皺になってしまっている。

「ごめんね」

 竹山君を見上げると、竹山君も心配そうにこっちを見ていた。

「僕こそごめん。変なこと言って」

 ふっと目を逸らし、どこか痛いところがあるかのように顔を歪める。

「…あいつが見えたような気がして」

 竹山君の想像力も暴走したのかもしれない。

 なんと言っていいかわからなくて、玲は夕焼け空を見上げた。

 沈んでいく夕日は建物に遮られて見えないけれど、西の空は濃い金色とオレンジ。淡いグレイの雲の縁が金色に輝いている。あたりの空気が仄かな赤梅色に染まっている。

 しばらく黙って歩く。校門を通り抜け、サッカー部の声とホイッスルの音を後にする。

「…大丈夫?」

 竹山君が心配そうに訊く。

「うん。もう平気。ありがとう」

 唇の端を上げてみせたけれど、心から微笑むことはできなかった。

 あいつが見えたような気がして、と竹山君は言った。

 玲にも二谷先生が見えた。

 見たくもないのに、薄笑いを浮かべた先生の顔が見える。

 聞きたくもないのに、先生の、ちょっと鼻にかかった気取った声が聞こえる。

 ——逃げられると思うなよー。

 ——玲。

 ああ、嫌だ。身震いする。言葉が口からこぼれた。

「いなくなってくれればいいのに。あんな人」

「いなくなるよ、きっと」

 竹山君が頷く。

「今日のアンケートで、何人もの人があいつのことを書いたと思うし、あの録音もあるし、大宮さんが木曜日にされたこともある。それに、斉藤さんのこともあるし。大丈夫。きっと追い出せる」

 斉藤さん。

 声を上げて泣いていた斉藤さんの姿が頭の中に蘇る。

 薄笑いを浮かべた二谷先生の顔がその上に重なる。

 激しい何かが胸の内に沸き起こる。拳を握りしめる。爪が掌に食い込む。

 いなくなればいいのに。この世から。

 この学校にいなくなるだけじゃ足りない。

 あんなひどいことをする人間は、この世から消えて無くなればいい。

 どこにも存在しなくなればいい。

 死んでしまえばいい。

「……」

 玲は思わず息を呑んだ。

 誰かが死んでしまえばいいなんて本気で思ったのは、初めてだった。

 なんて嫌な気持ち。

「どうしたの」

「今ね、今…」

 こんなことを言うべきではないかもしれないと思ったけれど、止められなかった。苦いものを吐き出すように、言葉を吐き出さずにはいられなかった。

「あんな人死んじゃえばいいって思った。本気で」

「僕が殺してあげるよ」

 軽い口調で竹山くんが言う。

「そうじゃなくて。本当に本気で今そう思っちゃったの。この世からいなくなればいい、死んじゃえばいい、って」

「僕だってそう思ってるよ。一緒に殺っちゃおう」

 竹山くんが玲を見下ろして、不敵な笑みを浮かべてみせる。

「どうやって殺す?一息に殺しちゃ面白くないからね。充分苦しませないと。そうだな、アリババの洞窟に置き去りにしてもいいし、ランプの精に頼んでエベレストの頂上とか噴火してる火山に放り出してもらってもいい。タシの神の生贄にしたっていいし、グモルクの前に置いてきてもいいし、イグラムールに任せてもいいし、オーク達にあげちゃうのもいいね。いたぶって殺してくれるよ」

 玲の目が輝く。

「モルドールに連れてって置いて来ちゃうとか。モリアでもいいな。暗くて怖いし」

「洞窟の亡者達のところに置き去りにしたっていいね」

「それいい!すごい怖そう!」

 怯えて蒼白になった二谷先生が思い浮かぶ。ざまあみろだ。

「アクロマンチュラたちに任せてもいいね。ディメンターもいい」

「それもいい!でもね、やっぱり亡者の方が怖そうじゃない?」

 二人でニヤリと頷く。

「よし、じゃ、そうしよう。海辺の洞窟に置き去りの刑だ」

「うん!」

 ざまあみろ!

 うんと怖い思いをして、亡者達にそのまま湖の中に引きずりこまれればいい。

 暗い洞窟の中のとぷとぷした黒い湖。岩の上に置き去りにされた二谷先生。不安そうに辺りを見回す。助けを呼ぶ。誰も来てくれない。足の先が湖の水に触れる。黒い水が揺れ、亡者達が次々に姿を現す。泣き喚き、必死に岩にしがみつく先生を、容赦なく掴み、湖の中に引きずりこむ。 

 想像の中で、玲は二谷先生の絶叫を聞いた。

 怖くて背筋がぞうっとしたけれど、ずっと気分がよくなった。

 Serves you right!

 天罰だ!

 鳥肌のたった腕を制服の上からさすりながら目を上げると、竹山くんと目が合った。

「大丈夫?」

「うん」

 今度は微笑むことができた。

 二谷先生はもういない。

「よかった」

 竹山君も微笑む。

「他のこと話そうか。前川先生も、できるだけ他のことを考えるようにって言ってたし」

 いたわるように言ってくれる竹山君の気持ちに、ふんわりと包まれる。

「うん」

 暖かくて安全な空間。

 急にふうっと心が明るくなって、なんだか少し楽しくなる。

 あ、そうだ。

 竹山君に訊いてみたいことがあったのを思い出した。

「じゃあね、竹山君に質問。本に出てくる女の子たちの中で、誰が好き?」

 唐突な質問に、竹山君は、えっと言って、ううーんと考え込んだ。

「そうだな…。今ぱっと思いつく中でだったら、ローラじゃないかな」

 嬉しくなる。

「ほんと!私もローラ大好きなの」 

 クラスのトップで努力家で働き者のローラ。理不尽な意地悪をした先生に立ち向かったローラ。

「じゃあ、本の中で大宮さんが好きな男子は?」

 これは即答できる。

「ホームズさん」

「え」

 竹山君が目を丸くした。

「シャーロック・ホームズ?」

「そう」

 玲は竹山君の驚き顔を見てうふふと笑った。

「意外?」

 竹山君はまだ目を丸くしている。

「うん…結構意外。絶対ギルバートって言うと思ってた」

「ホームズさん、大好きなの。頭よくってすっごく素敵なんだもん」

「素敵、って…。映画とか見て?」

「まさか。原作のホームズさん。映画は観てないの。私のイメージと全然違うんだもの」

「そうか…。ホームズか…」

 竹山君はつぶやいて玲を見ると、苦笑した。

「ハードル高いなあ。ギルバートくらいにならなれるけど、ホームズみたいにはなかなかなれないよ」

 玲は竹山君を改めて眺めて、思わず笑い声を上げた。

「今気がついたんだけど…竹山君ってホームズさんみたい」

「えっ、そう?」

「背が高くて、すっごく頭がよくて、淡々としてるのに優しくて、いざって時に助けてくれる。二人とも武道の心得があるし」

 言っていて自分でもびっくりした。本当に、竹山君てホームズさんみたい。

「光栄だな」

 言って、竹山君が照れた顔をした。

「でもホームズさんよりも竹山君が好き」

 言っちゃった!

 竹山君がふわりと微笑む。

「僕もどんなヒロインよりも大宮さんが好きだよ」

 このあと三十秒間くらいの記憶がない。

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