第4話

Chap.4


 「ただいまー」 

「おかえり。遅かったわね。もうご飯よ」

 キッチンから声がかかる。

「着替えてすぐ降りてらっしゃい」

「はーい」

 玲は急ぎ足で階段を上り、洗面所で手を洗うと、自分の部屋に入ってドアを閉めた。

 まずカーテンを閉めてから電気をつける。今朝と何も変わらない部屋を、なんだかぼうっとした気持ちで眺める。何も変わっていないことが奇妙に思えた。

 ぼんやりとしたまま、制服をジーンズとTシャツとカーディガンに着替える。

 竹山君は、家の前まで玲を送ってきてくれた。

「本当に色々ありがとう、竹山君」

「どういたしまして。じゃ、また明日」

「うん。気をつけて帰ってね」

 夜の風景の中を歩いていく、すっと伸びた竹山君の背中をしばらく見送りながら、口の中でもう一度心からのありがとうをつぶやいた。

「たけやま、かいとくん」

 カーディガンのボタンをはめながら言ってみたら、なんだか身体中がふわんとした。

 スクールバッグのジップつき内ポケットから、スマホを取り出す。学校内での使用は禁止だけれど、緊急時のために鞄の中に入れていることは許されているので、一応毎日一緒に登校する。家の中では、スマホを使うのは居間でのみと決められているので、着替えて階下に行くタイミングでスマホを持っていくことにしていた。

 階段を下りながらスマホをONにすると、里奈からメッセージがあった。

「大丈夫?心配だよ。何があったの?」

 明日直接会って話したいなと思ったけれど、他ならぬ里奈だし、泣き顔を見られている。心配させてしまったのだから、やっぱりすぐ報告するべきかもしれない。

 居間のソファに座り、うんと簡潔に今日起きたことを打って送る。もちろん最後に「絶対誰にも言わないで」とつけ加えた。

「玲ちゃん、もうご飯だって言ったでしょ。早くいらっしゃい」

 お母さんの声がちょっと尖っている。

「はあい」

「これからご飯。またね」

 と打って、玲はスマホを置いた。

 お父さんと小学三年生の妹 さきは、もうテーブルについていた。

 今日のメニューは山盛りのグリーンサラダとかぼちゃのスープと、一週間ぶりのカレー。

 カレーは最近お母さんが熱中しているものだ。ルーを使わずに、本場の色々なスパイスを使って、「偉大なるインドの食文化を研究」しているのだそうで、九月からこっち、毎週木曜日がカレーの日となっている。

 毎回違うカレーなので、飽きるというほどではないけれど、そろそろやめてくれないかなあと玲は思っていた。いくら換気扇を使ったって、スパイスの香りは小さな家の隅々まで行き渡る。制服や髪に匂いがつかないかとひやひやする。

 お母さんがテーブルにつくのを待って、みんなで「いただきます」をして食べ始める。

 お父さんがさりげない口調で言った。

「さっきの男の子は誰?」

 ヴィネグレットで和えたサラダを口に入れたばかりだった玲は、むせそうになって目を白黒させた。

「男の子って?」

 お母さんが訊く。

「玲を送ってきてくれた男の子がいたんだ。ベランダから見えた」

「あらー。誰?」

 お母さんが冷やかすように言ったので、咲も面白がって、

「誰誰ー?カレシー?」

 とニヤニヤする。

 まだ口にサラダが入っているので、玲はとりあえず首をぶんぶん横に振って

「んんーん」 

 ちがーう、という音で言った。三対の目が、一対は静かに、一対は興味深そうに、もう一対は面白そうに玲を見ている。

 ようやくサラダを飲み込むと、玲は言った。

「竹山君」

「えー!」

 お母さんが目を丸くする。

「知ってるの?」

 とお父さん。

「学年トップの子。背の高い美少年。去年玲ちゃんと同じクラスで、一緒に図書委員してたの」

 玲はびっくりした。どうしてそんなことを覚えてるんだろう。いや、そもそも何故竹山君が「背の高い美少年」だって知ってるんだろう。別に「あの子が竹山君だよ」って指差して教えたわけじゃないのに。

「付き合ってるの?」

 お父さんはいつも穏やかに単刀直入。

「ううん」

「どうして送ってきてくれたの?」

 とお母さん。

 玲はちょっと躊躇した。

 小学三年生の前で言っていいのかなあ。まあ、言っても咲にはわからないだろう、きっと。

「二谷先生にセクハラされて、竹山君がそれ見てて、他の先生たちに言った方がいいよって言ってくれて、一緒に職員室に行ってくれたの」

 早口で一息に言う。

 お父さんは無言。お母さんは加藤先生に負けないくらいの声でええっ!と言った。咲は案の定きょとんとしている。

「それで私が泣いちゃったから、心配して送ってきてくれたの」

 そう言ったらまた泣きそうになって、玲は慌てて涙目のまま水を飲んだ。

 一体どうして泣きそうになったりするんだろう。別にそんな大したことじゃないはずなのに。しっかりしろ、自分。

 お父さんとお母さんがじっと玲のことを見ている。玲は二人の視線を避けるように、またサラダを食べ出した。

「何をされたの」

 お父さんが静かに言う。気のせいか、いつもより声が低い。

「大したことじゃないよ」

 今ここで話したらまた泣きそうだ。

「ちゃんと言いなさい」

 静かだけれど厳しいお父さんの声。

「後で」

 顔をサラダから上げずに言う。お父さんが何か言いかけて、お母さんが遮った。

「ご飯の後にしましょ。そうだ、咲ちゃん、今日学芸会の劇の練習あったんでしょ?どうだった?」

「あのね、おっかしかったの。松尾君がお休みだったから、先生が代わりに台詞読んだらね、先生間違えたんだよ」

「あららー」

「先生って誰?」

「玉田先生」

「えー知らないな。大森先生は?」

「大森先生はね、二組の先生」

「そっか。じゃあそうだなあ、あ、田辺先生は?まだいる?」

「知らなーい」

「田辺先生は確かもう定年退職されたんじゃなかったかしら」

 お父さんは、夕食の間中一言も会話に加わらなかった。


 夕食の後、咲が居間でテレビのアニメを見ている間に、食後のテーブルでお茶を飲みつつ、家族マイナス咲会議が開かれた。

 玲は、さっさと自分の部屋に戻って、宿題と予習を片付けて本を読みたかったけれど、もちろんそんなわけにはいかない。

 絶対に泣くまいと心の手綱をきつくきつく引き締めながら、美術室でのことを話した。なんとか泣かずに話せた。

 職員室でもこうやって話せたらよかったのに、と恨めしく思う。先生たちや竹山君の前であんなふうに泣いて、恥ずかしいったらありはしない。シクシクとかさめざめではなく、子供みたいにしゃくりあげて泣いたのだ。中二にもなって。

 話し終わると、お父さんもお母さんも一様に眉を寄せてお茶を啜った。

「二谷先生って、他の女の子たちにもそんなことするの?」

「結構ね。触り魔で有名。その…今日私がされたことみたいなのは、見たことないけど」

「他の先生たちは、触り魔だってこと知らなかったのかしら」

「知らなかったんだと思うよ。多分、今まで誰も何も言わなかったんだろうし。私だって今日まで言わなかったもの」

 そこでお母さんのスマホが鳴った。

「あら、加藤先生よ」

「え」

「もしもし。…いつもお世話になっております。…はい。…ええ、さっき聞いたところです…」

 お母さんが調理台の方に立っていって話している間に、ちょっとスマホをチェックしようかなと玲が席を立ちかけると、お父さんが言った。

「その先生は何年生の担任?」

「うーん、確かクラスは受け持ってなかったと思ったけど」

「講師なの?」

「…さあ。よく知らない」

「その先生と絶対に二人きりになったりしないように気をつけなきゃだめだよ」

 玲はちょっと笑った。

「竹山君とおんなじこと言ってる」

 お父さんもわずかに頬を緩めた。

「そう」

「うん。一人で行動しない方がいいよって言われた」

「よかったね、その子がいてくれて」

「ほんと」

 玲も改めて心からそう思った。

「ちゃんとお礼を言った?」

「もちろん」

「美少年なの?」

 お父さんがちょっとからかうように言う。玲は竹山君の顔を思い浮かべた。

「うーん、そう言うとちょっとイメージが違うけど、でも綺麗な顔してる。物静かで。でもね、小一の時から剣道やってるんだって。びっくりしちゃった。絵もすっごく上手なの」

「そのうえ学年トップか。スターだね」

「そういう感じじゃないの。どっちかっていうと控え目な感じ」

「『能ある鷹』か」

「そうそう。本も好きで、今日いっぱい本のこと話せて楽しかった。ね、ちょっとスマホ見てきていい?」

 お父さんが頷いたので、玲は急いで居間の低いテーブルの上に置いてあるスマホのところへ行った。里奈からメッセージがあった。

「あの触り魔ー!!許さん!!大変だったね。でも竹山君がいてくれてよかった!大丈夫。誰にも言わないよ。明日から玲のことはこの里奈が守ったる!二谷め、近づけるものなら近づいてみろー!」

 怖い顔のうさぎのスタンプが押してあった。

 うふふと笑いながら返信する。

「ありがとう。頼りにしてる」

 ハートマークをつけた。

「玲ちゃん」

 加藤先生との電話が終わったらしい。お母さんがお父さんの隣に座って手招きしている。

「先生がね、来週の月曜日に、朝のホームルームで全校の生徒にセクハラについてのアンケート調査をするって言ってたわ。明日だと、すぐすぎて、かえってよくないだろうからって」

「よくないってどういうこと?」

 お父さんが眉を寄せる。

「玲ちゃんが二谷先生のことを学校側に報告したってことが、二谷先生にわかってしまうから」

「わかったって構わないじゃないか。悪いのは向こうだ。そういうことをすればすぐに生徒は学校側に言うし、学校側もすぐに対応する、ということを示した方がいいんじゃないの」

「でも逆恨みされたら」

 お父さんは驚いた顔をした。腕組みをして椅子の背にもたれる。

「……そんなことを考えなきゃいけないような時代なのか」

「気をつけるに越したことはないでしょ」

「でも、それなら、月曜日だったら玲が逆恨みされないという保証はあるの」

「ないけど、でも明日やるよりはいいでしょう。全国で教師によるセクハラが問題になっているんだし、一週間の始まりである月曜日の朝にアンケートを実施する方が、明日よりも自然だわ」

 お父さんは眉を寄せて難しい顔をしている。

「学校側は、玲をちゃんと守るつもりがあるのかな」

「いつも誰かと一緒にいるようにすれば大丈夫だよ、きっと」

 玲が口を出すと、お母さんが頷いた。

「先生もそう言ってたわ。しばらくは念のため一人で行動しないようにって」

「そんないつもいつも誰かと一緒になんて無理じゃない?」

 とお父さん。玲はちょっと考えた。

「無理じゃないと思う。っていうか、誰かと一緒じゃなくても、人目があればいいわけでしょ。普段、休み時間に学校の中を歩いてて、自分の他に誰も廊下にいない、なんてことないし。それに二谷先生がいつも近くにいるわけじゃないんだし。授業中とか、放課後遅くなった時とか、そういう時は廊下に人が誰もいないってこともあるけど」

「そういう時に一人で行動したら絶対にだめだよ。授業中にトイレに行かなきゃいけない時は、誰かについてきてもらいなさい」

 玲は吹き出した。お父さんは俄かに心配性になったようだ。いつもの冷静沈着なお父さんのようじゃない。

「授業中にトイレなんて行かないよ。小学生じゃあるまいし」

 お父さんは真面目な顔を崩さない。

「授業中に具合が悪くなって保健室に行くとか、そういう時も絶対に誰かに一緒に行ってもらうんだよ」

「はあい」

「美術の授業の時とか、部活の時はどうするの。その先生とずっと同じ部屋にいるわけだよね」

「授業の時は周りに皆がいるから、先生も近寄りにくいと思う。私の席、端っこじゃないし。部活の時は、竹山君がちゃんと見張るから大丈夫って言ってくれた」

「あらー。頼もしいわねえ」

 お母さんがにこにこする。

「竹山君て、小さい時から剣道やってるんですって。いざとなったら先生のことなんてバッサリ袈裟懸けにしてくれるわよ」

 玲は呆れてお母さんを見た。バッサリ袈裟懸けって、日本刀?いや、それより、なぜ竹山君が剣道をやっていることを知っている?私だって今日初めて知ったのに。恐るべし、母の情報網。


 しばらくしてようやく自分の部屋に戻った玲は、まず机に向かった。こんな時でも玲は玲だった。まずは宿題と予習をさっさと終わらせなくては。

 やらなくてはいけないことをやらずにいると、本を存分に楽しめないのは、経験からわかっていた。我ながらつまらない性格だなあと思うけれど、まあ性分だから仕方がないし、それで損をしているわけでもない。ローラのお母さんも言っている。「仕事の後でお楽しみ」と。

 幸い今日は大した量の宿題でもなかったし、予習はほとんど必要なかった。ささっと済ませたところで、お風呂に入るようお母さんから声が掛かった。


 今日は髪も首も顔もいつもより念入りに洗った。

 ああ汚らわしい。

 思わず顔をしかめ、いやいやもう考えまいと心の手綱を引いて、思考を方向転換させる。すんでしまった嫌なことはできるだけ考えない。代わりに嬉しいことや楽しいことを考えよう。

 そう思った途端、竹山君のことが頭いっぱいに浮かんで、玲はひとり赤くなった。


 お風呂から上がり髪を乾かすと、いよいよお楽しみの自由時間だ。

 昨年LINEを始めたばかりの頃は、お風呂上がりがLINEの時間になってしまい、本を読める時間が減ってしまって参った。今はもうそういうことはしない。クラスのグループLINEにも一応入ってはいるけれど、大したことが書かれるわけでもないので、たまにチェックするだけになった。

 きっとあの頃、私がLINEなんかで時間を無駄にしている間に、竹山君は『黄金の羅針盤』を英語で読んだりしてたんじゃないだろうか。竹山君はLINEなんかで時間を無駄にしたことはないだろう。ちょっと悔しい。無駄にしてしまった時間は戻らない。

 

    遺失物・日の出から日の入りのあいだに

    六十個のダイヤモンドの分をちりばめた

    黄金の一時間を失くしました

    報奨・なし

    もう永遠にかえってこないから


 初めて『大草原の小さな町』でこの詩を読んだ時、玲はまったく本当にその通りだと唸り、しばらく呆然としてしまったものだった。

 無駄にしてしまった時間は、もう二度と取り戻すことができない。二度と。

 自分の部屋に戻り、そっとドアを閉め、本棚を見やる。

 本の中に入れるのか、今から試してみるつもりだ。

 明日竹山君と一緒に試してみることになっているけれど、お風呂の中で色々考えているうちに、やっぱりすぐにでもやってみたいという気持ちが強くなってきたのだ。

 竹山君は私も入れると思うって言ってくれたけど、もしかして入れないかもしれない。もしそうなら、明日竹山君の時間を無駄にしちゃ悪いもの。ちゃんと今日一人で試してみて、行かれるってわかってから一緒に実験するべきだよね。

 お風呂の中で考えていた言い訳をもう一度頭の中で繰り返しながら、本棚の前に立つ。

 安全なところに、ほんのちょっと行ってみるだけなら、きっと一人でも大丈夫なはず。とにかく、やってみよう。

 どの本にするかはお風呂で考えてもう決めていた。バーネットの『秘密の花園』。上下巻に分かれている下巻を取り出す。竹山君と同じで、もとはお母さんのだった古い本だ。玲の本棚には、お母さんが子供の頃読んだ本が何冊かある。

 この本を初めて読んだのは、小学生の時。何年生だったかは覚えていないけれど、風邪をひいて学校を休んだ日だった。読んでいる間は、ベッドの中ではなく、インドや、ムアや、大きなお屋敷や、そして美しい庭にいた。身体の具合が悪いのなんか、ちっとも感じなかった。素晴らしい時間だった。

 ページを繰って、お目当ての箇所を見つける。ディッコンのお母さんが初めて庭に来た日。竹山君が初めて行ったところだ。

 その章の最初から読もうと思って何ページか戻った途端、玲は胸が詰まった。 

 章のタイトルは「僕のおっかさん」。

 玲自身は、物語を読んでいる最中には、それぞれの章のタイトルに全く注意を払わない。竹山君はどうだろう。お母さんを亡くしたばかりの頃、初めて『秘密の花園』を読んだ時、この章のタイトルに気づいただろうか。

 思えば、この章が竹山君が初めて本の中に入れた場所だというのも、偶然ではなかったのかもしれない。もしかしたら、竹山君が本の中に入れるようになったのは、辛い辛い思いをしていた竹山君への、お母さんからの贈り物だったんじゃないのかな、と玲は思った。

 いつものようにごろんとベッドに横たわって読もうとして、はたと気がついた。そうだ、本を開いたままにしなければいけないのだった。それから、どの本の何ページに行くのかをノートに書かなくては。

 机の上に本を置いてみる。大きめの文庫本なので、押さえなしでは開いたままにはできない。

 ちょっと辺りを見回して、本棚に置いてあるいくつかの置物の中から、長さ20cmくらいの直方体のベースの上に、シュローダーとピアノとスヌーピーとルーシーがのっている、重い置物を持ってきた。開いた本の上に斜めに載せてみる。これでよし。

 さて、お次はノートだ。本の中に入れるなんてすごいことだし、大奮発して、昨年の誕生日にお父さんが買ってくれた、とっておきのロイヒトトゥルムの新しいノートを下ろそうかとも思ったけれど、いや待て、これはまだテスト飛行だ、もしかしたら入れないかもしれないのだ、と思い直し、今回は国語のノートの一番最後のページを出し、ボールペンで書いた。

「バーネットの『秘密の花園』下巻198ページに行っています。本を閉じないでください。  玲」

 そして198ページに栞を挟み、さっき考えた通り、まずは章の最初から読み出した。

 この本を読むのは久しぶりだった。すぐに物語に引き込まれて、コリンやベンの声が聞こえてきた。

 雨の降った後の、輝く日の当たる暖かい庭。少し湿った空気。草の匂い。ほのかに漂ってくる薔薇の香り。コリンの輝くばかりの幸せな気持ちがあたりに満ち溢れて、きらきらしている。みんなで歌う頌栄。ディッコンのお母さん。お母さんが来て庭の空気が変わる。暖かい、柔らかな、包んでくれるような空気。

 栞を挟んでおいた198ページにくる。玲は用意しておいた置物を、開いたページにそっと載せた。

「きょうのバスケットにはとくべつおいしいごちそうが入れてありました。おなかのすく時間になって、ディッコンがいつものかくしばしょから、そのバスケットをもってくると、おばさんもいっしょに木の下にすわって、みんながおいしそうにたべるのを、うれしそうにながめていました。このおばさんはとてもおもしろいひとで、いろんなおかしなことをいって、みんなを笑わせたり、ヨークシァべんでお話をしたり、めずらしい方言をおしえてくれたりしました。そしてコリンがまだやんちゃな病人のふりをしているのが、だんだんむずかしくなってきた話をすると、おばさんはおかしくってたまらないようでした。」

 幸せなくつろいだ空気。みんなの楽しげな笑い声。

 玲はうっとりと目を閉じた。

 願うのはわけなかった。

 ああ私も本当にここにいたい。

 ここにいたい。

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