第6話 変態と普通、それは、境など、無いのかも知れない

次の日から、葉呂は和弘を避けるようになった。それと同じように、和弘も葉呂に視線すら送らなかった。

和弘自身、自分の告白を、葉呂が断ったことで、もうどうしていいか、分からなくなってしまった。

和弘が葉呂を好きだと言えば、二人を、潤子にその気はないと、どうやったって葉呂は、自分を葉呂が好かれるはずはない、葉呂の心をまるっきり無いと、全部無駄な恋に終わるんだ…。と、

そのくらい、思いっきり自分の感情だけ、暴走させてしまった自分に失望した。


きっと、葉呂は傷ついただろう。

好きな人を、好きに妄想して、潤子にはない、葉呂の気持ちを理解できる、と言う何とも浅はかな思考で、葉呂から潤子を突き放そうとした。



それでも、毎朝、教室に入れば自分がこんなにも傍にいる、好きな人がいる、こんなにこんなに大好きな人が、広いのか狭いのが分からない空間に居る。


男友達と、黒板の横で何か話してる和弘を、窓辺から、女子とのトークも全然耳から入りは抜け、入りは抜け、葉呂は、いつも以上に、クラスの女子の顔をうかがいながら、ばれてないか、和弘は…?



昨日の事が、和弘がただ単にからかったのか、それとも、本当に自分を好きなのか…。


(稲木君…何考えてるのかな?誰かに…話してる?)


心配と恐怖心が次々生まれ来る。一日中、ずっと。



その日、事件が起こった。


カラオケに行きそびれて、おまけに、潤子を置き去りにして、もうどうしたらいいのか、道筋が見えない。

だから、葉呂は、あえていつも通りに潤子には近づかず、この気持ちを失くそうにした。潤子がもうとっくに帰ったと思われる時刻まで、バレー部の自主練をしていた。


そうして、着替えて、体育館を出ようとした時、振り返って見えた人は、微笑みを携えた潤子だった。


「潤…子ちゃん…」


細い声は潤子に届いただろうか…。


「葉呂ちゃん、いつも自主練してたんだね。全然一緒に帰れないから、不思議に思ってたんだ」

「…」


バレた…。稲木君だ…。稲木君、やっぱりあの後、潤子ちゃんに話したんだ…。


何も言えず、下を向いて、涙が込み上げてきた。

しかし、潤子に驚く様子はなかった。


(なんだろう…。友達、辞めたい…とか?)


「葉呂ちゃん、顔上げて」

優しい潤子の声に、しばしの沈黙の後、潤子が、そっと肩をてを当て、信じられない言葉を、一つ、二つ…、少しずつ話し始めた。


「葉呂ちゃん、私、この半年、すごく寂しかったんだ…」

(それは…私も…きっと、ずっと、泣くぐらい…)

無言で、心の中で、そう呟いた。


その口から、少し、高くて、そんな声で聴こえた言葉は、どれだけ驚いたか…。

どれだけ想像を超えたか…。この言葉を、待ってた。


「葉呂ちゃん、私の事好きになったの、いつから?」

「…そ…か…。稲木君に聴いちゃったんだね」

「葉呂ちゃん」

「ごめんね…、私変態だよね。こんな私に好きになられたって、気持ち悪いだけだよね…。もう友達…出来ないよね…」

「待って。葉呂ちゃん」

「ごめんね。友達、辞めるから…もう…近づかないから…」

「葉呂ちゃん!私…」


「葉呂!!」


やっと潤子が話し始めようと瞬間、息を乱しながら、和弘が飛びこんできた。

「稲木君」

葉呂と潤子の声が重なった。

「片桐、葉呂は渡さない!俺は…葉呂と並んで歩いても、手をつないでも、キスしても、何処からどう見ても、だ!葉呂を幸せに出来るのは俺しかいない!」


「何言ってるの…?」

葉呂は状況が全く入ってこない。

「葉呂!片桐は…」

「やめて!!それは、葉呂ちゃんには、私自身から伝えたいから!」


和弘はその気持ちは分かった。


「どういう事?潤子ちゃん…」


「多分だけど…小学六年生の時に私を好きになってくれたんだよね?」

「潤子ちゃん…気付いてたの?」

「気付いたよ。私は四年生の時からだもん。私が葉呂ちゃんを好きになったの」

「え…」



「私もレズなの…。私も葉呂ちゃんが好きなの」


それは、変態、気持ち悪い、と世間、父親まで味方してくれなかった。その父に、言いたかった。


『私、変態じゃないよ?気持ち、悪くない、って言ってくれる人が、二人もいたよ』





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