第37話 防衛戦の開幕

 足りない人手を補うため、遠路はるばる大海たいかいの森の最深部へと逃げ込んだ獣人ビースト妖精族ピクシー、少数民族などを探しに来たディオール王国の騎士達。

 確実に捕らえる目的で六人の魔法使いメイジも同行しており、準備万端といった様子だ。

 ただし、その一団の中に五人の子供の姿もあった。


「全員気を引き締めろよ、この辺りはオフィーリア帝国よりだ。

 まさかとは思うが見つかりでもすれば面倒だからな」


「大丈夫だろう、連中が獣人共を助ける訳ないだろう」


「にしてもこんな深い所まで逃げ込みやがって、人間様に迷惑掛けて何様のつもりだっつーの」


「文句を言うな。“人擬き”共を捕まえれば奴隷不足は解決し我々の遠征部隊は高く評価される筈だ」


 遠征部隊と言ったディオール王国の騎士達は、大海の森の奥に逃げ込んだ他種族達を人と認めておらず、労働力用の奴隷としてしか見ていないようだ。


「安全を期して勇者様のお仲間様方は同じグループにいて貰ってるが、魔法士マジシャン達を三分割しても大丈夫なのか?」


「一グループ三〇人近くいるから問題ないだろう。

 何より三方向から囲む形で追い込むんだ、連中は逃げられないだろうよ」


「それもそうだな、連中は碌に魔法も使えないんだ」


 遠征部隊の騎士達は大海の森の奥に逃げ込んだ獣人達がスキルを持つ自分達にかなう訳がないと高を括っていると、前方を先導する騎士から制止がかかった。


「どうした?」


「この辺りから雷の実がなってるんだ、それも大量に」


「何? それは厄介だな。

 刺激すると爆ぜて電気を放出するぞ」


「どうしたの? なんで急に止まったの?」


「あぁ、ユマ様。実は雷の実という魔法植物が生えているのです。

 もぎ取る程度の刺激であれば問題はないのですが、強い刺激を与えるとその名の通りため込んでいる雷を放電する危険な実なのですよ」


 そう言いながら騎士は目の前に生えている雷の実を指さしながら、ユマと呼ばれた少女の質問に答えた。

 目の前の道には雷模様が浮かび上がる檸檬レモンのような実が生る、低木が行く数本も生えていた。


「何あれ? 光るレモン?」


「うわぁキレイだな、アレって食べれるの?」


「おっといけませんよトモキ様、コウスケ様。

 雷の実を食べようものなら、ため込まれている雷で感電してしまいますよ」


「バカねぇ二人とも、そんなんじゃ優君に笑われちゃうわよ」


「笑うなよ静、和樹も笑うなよ!」


 ユマ、トモキ、コウスケ、シズカ、カズキと呼ばれ、呼び合うこの五人の子供達は、勇者として呼ばれたナキの双子の弟、優の仲間として召喚されたナキの元同級生達だ。

 こんな危険な森の中だというのに随分と余裕な様子だ。


「そんな事より早く先に進もうよ!

 この先に獣人が沢山いるんでしょう?」


「そうそう、早く覚えたマホウを試したいわ!」


「俺は新しい技を試したいな、この間氷をツタみたいにして動かせるようになったんだ!」


 月の至高神しこうしんから受けた加護により、この世界の住人達同様にスキルを得て魔法を使えるようになった事で天狗になっているようだ。

 そのスキルを獣人相手に使う気でいる辺り、この一年ですっかりディオール王国の思考に染まりきってしまったらしい。


「どうぞどうぞ、思う存分人擬きどもに使ってやって下さい。

 連中も所詮は獣、何をしても許されます」


「よーし、それじゃあ早く獣人達がかくれてる場所に行こう!」


 コウスケがスキルを使いたいという気持ちが先走り、雷の実がなる道を進もうとしたその時、すぐ近くの雷の実が弾け放電し、先走ったコウスケを襲った。


「ぎゃあああっ!」


「ぐわぁあっ!」


「コウスケ様⁉」


「大丈夫浩介君⁉」


 突然の事に驚きながらも、由麻達は慌てて浩介の元に駆け寄る。

 幸か不幸か、付き添っていた騎士達が身を盾にした事で浩介本人は無事だったが、騎士達はそのまま倒れてしまった。


「ねぇ、さっきの、さわってないのにバクハツしたよね……?」


「シゲキしなかったらバクハツしないんじゃなかったのかよ⁉」


「おっ恐らくなのですが、溜め込んでおける雷の量が容量を超えた結果、雷の実が爆ぜたのだと思われます」


「何それ? もっと早く言いなさいよ!」


 騎士から説明を聞いた由麻達は、雷の実に関する説明不足を咎めた。

 その間、別の騎士が倒れ伏した騎士達の容態を確認する。


「命に別状はないようですが、完全に気を失っているようです」


「クソッ! このまま放置する訳にはいかん。

 一時撤退し、安全地帯へ避難させるぞ」


「隊長、非常事態です。

 背後に膨大な茨が生えて、元来た道を通る事ができません!」


「なっなっなんだと⁉」


 戦闘不能になった騎士達を安全地帯に運ぼうとした直後、雷の実が生る道の入り口付近に太く大量の茨が生い茂り、引き返す事ができない状況になっていた。

 それだけではなく、脇の道も同じ茨で生い茂っており、完全に閉じ込められた状態になっていた。


「え? え⁇ なんでなんで⁉」


「さっきまでこんなのなかったじゃん!」


「アタシに任せて!

 〝炎よ、目の前の敵を焼き払え。燃焼バーニング〟!」


 静は〝燃焼〟を唱え目の前の茨を焼き払おうとするが、魔法の炎が直撃しても茨は燃えず、表面が少し焦げる程度に終わった。


「なんで? なんで燃えないの⁉」


「茨が分厚すぎて、炎で燃えきらなかったようです。

 お下がり下さい、でやっ!」


「やった、切れた! っと思ったら回復した⁉」


 騎士の一人が茨に切りかかったが、傷をつける事はできてもすぐに再生してしまい、無意味に終わった。

 完全に退路を断たれてしまい、ディオール王国の遠征部隊は動揺した。


「どっどうするんだよ、逃げれなくなっちゃったぞ⁉」


「隊長、いかがなされますか?」


「やむを得ない、このまま先に進むぞ。

 負傷した騎士達は道の真ん中に集めろ、なるべく雷の実から引き離すんだ。

 介抱できる者を一人残す」


 遠征部隊の隊長は部下達に指示を出し、負傷した騎士達と開放する騎士を一人残し、遠征部隊は先へと進む事にしたようだ。


 そんな遠征部隊の様子を近くに隠れていた数体の下位精霊が確認しており、その内の一体がこっそりと離れた。

 その精霊が向かった先に、ナキ達の姿があった。


《ナキ〜、アイツらこのまま村に向かうみたいだよ。

 倒れた騎士たちは置いていくって〜》


「わかった、それじゃあ連中が起き上がらない内に捕まえて無力化してくれ。

 それからスキルも使えないようボウガイも忘れずにな」


《りょうかーい》


 遠征部隊の内容を伝えた下位精霊は、ナキの指示を聞いて雷の実が生る道に戻っていった。

 下位精霊が戻っていくのを見届けたナキは、この場にいる仲間達に指示を出した。


「リダツした騎士達は拘束して無力化するようセイレイ達に指示を出したから、後から合流って事にならないはずだ」


「作戦成功ね! 上手く相手の戦力を減らせたわ!」


「道の両脇と入口を茨で囲うっていうのも中々だよな」


「でも、さっきみたいに魔法で燃やそうとしないかな?

 下手すると森が火事になっちゃうよ?」


「他の誰かが生やしたならと兎も角、精霊達が生やした特製の茨だからそう簡単には燃えない筈だ。

 まだ一人しか魔法を使ってなかったけど、異世界人の奴ら、もしかするとナキより弱いかも」


 魔法を使った静の様子を観察していたクルークハイトは、暫くの間ナキを観察していた事もあり由麻達がナキより弱いのではないかと考えた。


「あり得るかも。

 元いた世界でも勉強の予習とか全然しない方だったから、優といっしょに訓練サボってたカノウセイがある」


「それ召喚された意味なくない?」


「勇者の存在意義とは?」


 勇者として召喚されたにも関わらず優達が訓練をサボっている可能性があるとナキの推察を聞いたアネーロとクライムは召喚された意味がないのではと疑問に思った。

 するとナキ達の代わりに遠征部隊の様子を見ていたノルンが声を掛けた。


《ナキ〜、おいかけないとさきにいっちゃうよ〜》


「みたいだな。皆、先回りして足止めするぞ」


「「「おぉ!」」」


「残りの二箇所でも頑張ってるだろうしね」


 遠征部隊を足止めするため、ナキ達は予め決めていたルートを使い、先回りをする。

 全てはヴァンダル最高戦力が戻ってくるまでの時間を稼ぐために……。



*****



 村まで見晴らしが良い道のりである北東の侵攻ルートでは、三三名の遠征部隊の騎士達と獣人と少数民族を含む三五名の村の住民達が対峙していた。


「ハッ班長、茨で退路を断たれました!

 加えて両脇も茨で防がれ行動範囲が制限されてしまっています!」


「人擬きどもが小癪な。我々人間に逆らった事を後悔させてやる!

 全員攻撃開始! 情けは無用だ!」


魔法士マジシャンは魔法で援護に回れ!」


「敵が来たぞ! 作戦開始だ!」


「敵が接近しきる前に遠距離で攻撃を仕掛けるんだ!」


 村の住人達と遠征部隊の騎士達による攻防戦が始まった。

 足元のぬかるみに気を取られつつも、遠征部隊の騎士達は問題なく進みバリケードに接近してくる。


「普通に攻撃するだけではダメだ!

 ナキが用意した道具に持ち替えて反撃するぞ!」


 一方で村の住人である獣人達は普通に攻撃するだけではダメだと悟り、数名がフォディオの指示のであるものを手にする。


「皆行くぞ! 投げろぉ!」


 フォディオの合図の下、獣人達は手にしていたものを騎士達めがけて投げつける。

 投げつけたそれが騎士直撃する、防がれる、足元のぬかるみに落ちるなりした瞬間、薄紫の光を放ち遠征部隊の騎士達の周囲を凍らせ始めた。


「ギャアーッ⁉」


「ウワァーッ⁉」


「なっなんだ? 何が起こっている⁉」


「獣人共が氷属性の魔導具を使ってきたようです!

 着弾した瞬間に発動して凍結しだしッヒィーッ!」


 獣人達が氷属性の魔導具を使ってきた事に動揺し、統率が乱れる遠征部隊。

 その様子を見ていたフォディオは、その効果を見て確信した。


「魔法が使えない俺達でも発動できた。

 凄いな、ナキが用意してくれた武器は……」


 そう言いながら、フォディオはナキが用意したフリーズ凍結が付与された石礫の山とタオル類で作られた投石器を見つめる。

 ナキが村の住人にタオルを集めさせたのは、即席の投石器を作るためだった。


「まさかタオルで投石器を作っちまうなんてなぁ」


「そんな発想なかったもんな」


「これなら勝てるんじゃないか?」


「皆油断するな! 敵はまだ戦意があるぞ!

 石礫にも限りがある、投げるペースは間違えるな!」


 フォディオはナキが用意した道具に自惚れそうになる仲間に注意を促し、指示を出す。

 それに対しこのグループの班長は後方にいる魔法士に指示を出していた。


「魔法士! 〝アイス・レジスト氷への抵抗〟で全員の耐性を上げろ!」


「〝世界に散らばる魔力マナよ、氷の力に抗うすべを我に授けよ。アイス・レジスト〟!

 ……あれ?」


「何をしている! さっさとしろ!」


「もっ申し訳ありません、今すぐに!

 〝世界に散らばる魔力よ、氷の力に抗う術を我に授けよ。アイス・レジスト〟!

 ……そんな馬鹿な、魔法が、魔法が発動しない⁉」


「お、俺もだ!」


 詠唱に問題はない筈が、何故か魔法が発動しない事に困惑する二人の魔法士。

 未だ〝アイス・レジスト〟が付与されない事に痺れを切らした班長は、魔法士に近付いて胸ぐらに掴みかかった。


「いい加減にしろ!

 貴様がふざけている間にもこちらが一方的にやられているんだぞ⁉」


「ふっふざけてなんかいません!

 どういう訳か魔法が発動しないんです、本当なんです!」


「そんな馬鹿な事があってたまるか!」


「〝フレイム・ウォール炎の壁〟! 〝アイス・レジスト〟!

 なんで発動しないんだよぉ⁉」


 何故か魔法が使えなくなった事に原因がわからず動揺する二人の魔法士、その魔法師達が使い物にならず無慈悲に怒鳴り散らす班長。

 その間にも放電で体力気力ともに削がれていくその他の騎士達。

 魔法が使えなくなった原因は、精霊にあった。


《マホウが使えないように、てっていボウガイ!》


《敵がこおりやすいように、さいしょのマホウもカイジョしちゃおう》


《ついでに石の方もカイシュウして、氷の精霊は石にマナを込めておいてね》


《リサイクルクルリサイクル〜♪》


 ナキの指示を受けた下位精霊達が魔法士の周囲に集まる魔力を分散し、魔法が発動しないように妨害していた。


 それだけにとどまらず、気を利かせて使用された石礫を遠征部隊に気付かれないようにこっそりと回収し、氷の精霊達が魔力を込めて再度使えるようにして補充していた。


《ドロの道がこおりきりそうだよー、炎のこたちはとかしてきてー》


《ハーイ》


《ホジュウかんりょう!

 手が空いている子はコレおいてきて〜》


《いいよー》


「あれ? 石礫が減ってないような……?」


「気のせいだろうきっと、それよりタイミングを見てもう一度投げようぜ」


 下位精霊達のサポートにより、攻撃手段がなくなる事なく追い詰められる心配もない状況下で攻撃を続けるフォディオ達。

 対して遠征部隊はジリジリと追い詰められていき、次第に仲間割れを始めた。


「さっさと付与魔法を掛けろよ役立たず共!」


「うっうるさい! こっちだって必死なんだ!」


「何をしている! さっさと前進してあのバリケードを破壊しろ!」


「足元がぬかるんで不安定なんだ!

 そんな簡単に進めるはずないだぁあああああっ!」


 遠征部隊は次第に追い詰められていき、班長は統率を取ろうにも周囲はすでに仲間割れ状態でそれどころではなくなっていた。

 それからしばらくして、北東の進行ルートでの戦いはフォディオ達の勝利で終わったのは言うまでもない。



*****



 こちらは北東の侵攻ルート。

 北東の侵攻ルートと同じく三三名で構成されたディオール王国の遠征部隊が進んでいた。


「前方、今の所異常なしです」


「後方も異常ありません、魔物や猛獣の気配もないようです」


「うむ、ご苦労。

 奴らもまさか召喚獣しょうかんじゅうを使い、自分達の居場所が突き止められているとは思うまい」


「勇者様の仲間の中に召喚士サモナーがいて助かりましたね。

 お陰で早く任務を遂行できそうですよ」


 どうやら元同級生の中に召喚士がいたらしく、その召喚獣を使い、この広い大海の森にある村を見つけ出したようだ。

 そして少しして、開けた場所に出た。


「ここは広場のようだな、全員、隊列はこのままの状態を維持。

 先に進むぞ」


 班長の指示の元、遠征部隊は隊列を崩さず先に進む。

 そして全員が広場に入りきった瞬間、一匹のスライムが茂みから飛び出してきた。


「ミュウ」


「なんだ⁉ ってスライムか。ビビらせやがって……」


「こんな雑魚相手にしても意味ない、さっさと先に進もうぜ」


 飛び出してきたスライムには目もくれず、遠征部隊は先に進もうとした。

 だがそこで、遠征部隊にとって想定外の事が起こった。


「ミュミュウッ!」


「ゴパァッ⁉」


「……は? は? え⁇ はぁ⁉」


「なっなんだ? 何が起きた⁉」


 先頭に立つ騎士がスライムに殴られる、突然目の前で起きた事に動揺する騎士達は困惑し、思わず足を止める。

 隊列の中央にいた班長は何事かと前方にいる騎士達に声をかけ、現状を確認する。


「どうした! 何があった⁉」


「スッスライムです! スライムが攻撃してきたんです!」


「……は? スライムだと?

 何馬鹿な事を言っているんだお前達!」


「嘘ではありません!

 先に進もうとした瞬間、物凄い勢いで飛んできて……」


「ミュミュミュミューッ!」


「「「ミュミュウ!」」」


「「「ミュミュウ!」」」


 班長が現状を確認している間、襲いかかったスライムが大きく鳴き声を上げる。

 その直後に茂みから大量のスライムが飛び出し、あっという間に遠征部隊を包囲した。


「な、なんだコイツら⁉」


「全員円陣をとれ! このスライムの群れは従魔だ!」


 スライム達が何者かの従魔ではないかと睨んだ班長はすぐさま周りに指示を出して隊列を組み直す。


「全員盾を構えろ! スライム達が特攻してきたら弾き返すんだ!」


「ミュウミュミュウ!」


「「「ミューッ!」」」


 遠征部隊が盾を構えた直後、スライム達が一斉に飛びかかった。

 遠征部隊全員が盾を構え、いつでもスライム達を弾き返せるようにするがここでも想定外な事が起こる。


「ミュミュミュミュウ!」


「「「ミュミュウ!」」」


「えっ⁉」


「なんだと⁉」


「体当たりじゃなくて足下をすり抜けた⁉」


 スライム達は飛びかかったと見せかけて騎士達の足下をすり抜けていき、エンジンの内側に入り込んで遠征部隊の顔面目掛け、勢いよく跳ね上がる。


「うごぁ⁉」


「なんのっ! うぐぁっ⁉」


「頭上に気を付けろ! わかしてもそのまま落下して攻撃を仕掛けてぐぁ!」


「クソッ! すばしっこ過ぎて攻撃が当たらない!」


「攻撃態勢を円陣から三人一組の体制に切り替えろ!

 各班でスライム達を迎撃するんだ!」


 予想だにしないスライム達の攻撃に、翻弄される遠征部隊。

 班長がすぐさま指示を出して三度体勢を立て直すが、スライム達もそれに合せて四体一組を六組と五体一組を四組ずつ、スライム一体の体制を取り攻撃を続ける。


「なんだこのスライム、メチャクチャ強いぞ⁉」


「コイツら全部上位個体か⁉」


「いや、確かに上位個体はいるが大半が通常個体だ!」


 通常個体であるにも関わらず強すぎるスライム達の動きに翻弄される遠征部隊。

 その時、何処からともなく少女の声が聞こえてきた。


「∫水法:水蛇すいじゃの戒め∫」


「うわぁっ!」


「今度はなんだ⁉」


「前方を見ろ、少女がいるぞ!」


 突如魔法士二人に水状の蛇が絡み付き、遠征部隊が困惑する中、一人の騎士が前方に少女がいる事に気がついた。

 そこに立っているのは、二匹の色違いのスライムを従えたティアだ。


「魔法士達の動きを封じたわ、皆、そのまま戦い続けて!」


「あの少女がスライム達に指示を出していたのか。

 全員スライム達を警戒しつつ、あの少女を捕らえろ!」


 ティアの姿と発言から、ティアがスライム達に指示を出していると考えた班長はすかさずティアの捕縛命令を下す。

 その班長の命令に対し、ティアはこう答えた。


「一つ勘違いしているようだから、教えてあげる。

 スライム達に指示を出しているのは私じゃないわ、たった一匹で一〇人を倒せるプルプルよ!」


「ミュミュミュミュミュ!」


「「「ミュミュウ!」」」


 そう答えると同時に、一匹だけで戦っていたプルプルが倒した騎士達から剣を奪い、それらを他のスライム達に投げ渡す。

 剣を投げ渡されたスライム達はそのまま剣を手に、遠征部隊と剣撃戦を開始した。


「嘘だろう⁉」


「スライムが剣を使って戦ってる⁉」


「ギャアッ! アシッドスライムの液体で鎧が溶けた!」


「うぐっ! きっ斬られた箇所から、体が痺れて……」


「気を付けろ! ポイズンスライムが奪った剣に毒を塗りつけてやがる!」


 プルプル率いいるスライム達は、奪った剣を使ったうえでアシッドスライムやポイズンスライムの補助を受けながら遠征部隊を追い詰めていく。

 そんな中、一体の下位精霊がプルプルに声をかけた。


《プルプルタイチョウ、ジュンビカンリョウであります!》


「ミュミュ! ミュミュウ!」


「わかったわプルプル!

 ∫水法:水蜘蛛みずぐもの住処∫!」


 プルプルから合図を受けたティアは、∫水蜘蛛の住処∫を発動させる。

 それと同時にスライム達は高く高く跳ね上がる。

 そして遠征部隊の足元に、粘着力のある水溜まりが発生し、動きにくくなった。


「班長、足がうまく動かせません!」


「あの少女、法術士か!」


「∫水法:浅瀬の調べ∫。皆、そのままこっちに来て!」


「「「ミュウッ!」」」


 ティアは∫浅瀬の調べ∫で擬似的な川を空中に作り出し、スライム達を自分の元に避難させる。

 最後にプルプルが着地すると同時に、周囲にいる下位精霊達に指示を出す。


「ミュミュミューッ!」


《プルプルタイチョウからの合図だーっ!

 みんないくよーっ!》


《 《 《ハーイ!》 》 》


 プルプルからの合図を受けた下位精霊達は、地面に書かれた魔法陣を起動する。

 その直後、魔法陣の円縁部分にそう形で四属性のフェンス系統の魔法が発動し、中央にいる遠征部隊を囲う。


「ばっ馬鹿な、四足制動時発動だとぉ⁉」


「ハッ班長、完全に閉じ込められてしまいました。

 脱出できません!」


「こんな、こんな馬鹿な事があってたまるかぁあああああっ!」


 ティアの∫水蜘蛛の住処∫から逃れたものの時既に遅く、遠征部隊は四属性の〝フェンス〟内に閉じ込められた。


「やったわ、騎士達を完全に閉じ込めた!」


「ミュミュウ、ミュミューッ!」


「「「ミューッ!」」」


 遠征部隊を〝フェンス〟内に閉じ込められた様子を目の当たりにしたティアは、歓喜し、プルプルは勝鬨の鳴き声を上げる。

 その後に他のスライム達も奪った剣を掲げ、勝鬨の鳴き声を上げた。



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