第35話 緊急の知らせ

 クルークハイトに相談し、自分の出自を村の住人達に明かす事を決めたナキ。

 朝を迎え、ノルンとカノンを含めた精霊達を連れ、クルークハイトと合流した後、すぐにヴァンダルを探し始めた。


「えーっと、おっさん、おっさん。

 おっさん中々見つからないぁ」


《ヴァンダルおじちゃん、どこ行っちゃったんだろうねぇ?》


「うーん、いつもは村の用心棒的な事をしてるから、村の中にいる事が多いんだけど、たまに狩猟班に交じって村の外に出かける事もあるからそのパターンかも?」


「そう来たか」


 クルークハイトからヴァンダルは狩猟班に混じって出掛けている可能性を提示されたナキは、頭に手を当て嘆いた。

 できれば早い段階で自分の出自と異世界召喚について話しておきたい人物であるため、村自体にいないというのはかなりの痛手だった。


「しゅりょう班ってたしか夕方くらいに帰ってきたよな?

 それより早く帰ってくる事ってないのか?」


「そうだな、この前のワイルド・ボアみたいな大物だったら早めに帰ってくるけど、それ以外だと基本的には夕方だな」


「マジかよ~」


《ナキどんまい》


《元気だして》


《さがし出してつれてこようか?》


 夕方になるまで帰ってこない事に対し落ち込んでいると、周りにいた精霊達がナキの事を励ますために集まりだした。

 精霊達を見てふと気になる事を思い出した。


「そういえば……」


「どうしたんだナキ?」


「ケイドロで俺がクライムを追いかけた時、木から落っこちてセイレイにたすけられた事があっただろう?

 その時ルオさんが言ってたとくちょうに当てはまるセイレイが見当たらないんだ」


 ナキは自分の傍にいる筈の精霊が見当たらない事に疑問を感じ、今いる精霊達を確認していた。

 ルオが言っていた特徴からして赤子サイズの精霊が数体と、当時のルオの口ぶりから、自分と同じくらいの精霊がいる筈なのだ。


「……やっぱり見当たらない」


「何処かに出掛けてるって事は?

 そうかシャーロットが見かけてるかもだし、聞いてみてもいいんじゃないかな?」


「出かけてるかどうかはともかく、シャーロットに聞いてみるのはありだな」


《ナキ〜、あっちからフォレストキャットが来たよ〜》


 一体の精霊がそう知らせてき来たため、ナキは知らされた方向を確認した。

 確認するとその方向からフォレストキャットと呼ばれる、体に葉や花を生やした黄緑の体毛の猫が五匹歩いて来た。


 更に後方には、これから村の手伝いに向かう予定であろうシャーロット達の姿もあった。

 シャーロットがいる事を確認したナキは、シャーロットに声を掛けた。


「シャーロット、聞きたい事があるんだけどちょっと良いか?」


「ん? どうしたの?」


「前にケイドロしてた時、俺が木から落ちてセイレイにたすけられた事があっただろう?

 その時のセイレイ達を見かけてないかと思って。

 知らないか?」


「んー、ルオさんとレーヴォチカが、ヨハンナと出かけてから見かけてないかも?」


「ルオさん達がオフィーリアに向かってから⁉」


 ルオとレーヴォチカがオフィーリアに向かってから姿を見ていないというシャーロットの証言を聞いたナキとクルークハイトは、どういう事かと困惑した。


「今の話からしてルオさんにくっついて行ったって可能性はないか?」


「あるっちゃあるけど、でもついて行ってなんのメリットがあるんだ?」


《ナキのためにおみやげかいにいったんじゃない?》


 シャーロットの証言から助けてくれた精霊達がルオに同行している可能性が出て来たが、そのメリットが想像できない。

 二人が悩んでいる中、シャーロット達はどうしたのかという表情で二人を見ていた。


「二人とも、どうしたんだろう?」


「なんかルオさん達がオフィーリア帝国に行ってから変だよな?」


「何かやましい事でもあるのかしら?」


「そんな事、ない事もないか……」


「ニャア?」


「ニャア、ニャア」


「ニャーン」


 シャーロット達は何か隠し事しているのか思い、じっと二人の方を見つめる。

 そんなシャーロット達の様子を見ていた精霊達は、再びナキに話しかけた。


《ナキ~、シャーロット達がナキ達の事見てるよ~》


《みんなまってるよ~》


「え? あ、忘れてた」


「ちょっと予定とは違うけど、一先ずシャーロット達に先に話すか?

 ヴァンダルさんが戻ってくるまで時間掛かるだろうし……」


 どちらにしろヴァンダルがいつ戻るか分からないため、予定を変えてそこそこ親しい間柄であるシャーロット達に話してはどうかとクルークハイトは提案した。


 それはナキも考えていたが、子供であるシャーロット達が信じてくれるかという心配があった。

 そこにプルプルを連れたティアがやって来た。


「あら? 皆どうしたの?」


「あ、ティアさん。それがさっきからナキとクルークハイトが可笑しいんだよ」


「ナキ君を助けてくれた精霊さん達が見当たらないって知って、ちょっと困ってるみたいで……」


「もうっ! 言いたい事があるならハッキリと言いなさい!」


「ローロ落ち着いて。

 ねぇ二人とも、何か困った事でもあるの?」


 ティアはヒソヒソと話をするナキとクルークハイトに対して堪忍袋の緒が切れそうなローロを落ち着かせ、二人にどうしたのかと話しかけた。


 年上であるティアが加わったため、今の状態であればシャーロット達も理解してくれるのではと考えたナキは、そのままの流れで自分の出自を話す事にした。


「えーっと、実は俺の出自について話しておきたい事があって……」


「ナキの出自? 確かに、何処から来たんだろうとは思ってたけど……」


「ひょっとして、複雑な事情でも抱えてるの?」


「その複雑な事情に俺達も関わってるんだよ……」


「俺達が関わってるって、どういう事だ?」


 何故か自分達がナキの出自に関わっていると聞かされたアネーロは、どういう事かと二人に訪ねた。

 話のきっかけを作る事ができたナキは、コレまでの経緯を可能な限りわかりやすく説明した。


「……という訳なんだ」


「「「あぁ〜」」」


「いやなんでそんな気の抜けた返事なんだよ⁉」


 自分の出自をシャーロット達に話し終えたナキだったが、何故か納得したような返事をされたため思わず指摘した。


「いやだって、そんな理由ならアレだけ荒れてるのも納得だなぁっと思って」


「どうやったらあんな敵意むき出しな性格になるんだろうって、ずっと疑問だったんだよ」


「一方的にお話聞いて貰えなかったら、話題を途中で変えられるの嫌だよねぇ……」


「むしろ俺がナキに叩き付けられた原因にディオールの奴らが関わってるのがすっごいむかつく!」


「そんな理不尽な目に遭っていたなんて……。

 辛かったねぇ」


 ナキの話を聞いたシャーロット達は、最初にナキと出会った時に攻撃してくる程敵意を剥き出しにしていた理由を知り、納得していた。

 クライムに至ってはナキに叩き付けられた理由に、ディオール王国が関連していると知って激怒していた。


 クライムからすれば、ある意味とばっちりを受けたようなものなのだろう。

 そしてナキがどれだけ理不尽な目に遭って来たのかを聞いたアミは、慰める目的でナキの頭を撫でた。


「あう……(じいちゃん以外で頭なでられるの、初めてだ。

 でも、ちょっと恥ずかしい……)」


 アミに頭を撫でられたナキは、同年代の少女から頭を撫でられるという初めてに事に戸惑った。

 あまりにも予想外だったため、思わず顔を赤面させていた。


「あら? ナキったらアミに撫でられて照れてるわね!」


「あうあうあうあうあうあう」


「止めてやれローロ、ナキは褒められてないんだよ!」


 ローロに指摘されたはナキは恥ずかしくなり、言葉が全く発せなくなっていた。

 ナキが褒められ慣れていない事を知っているクルークハイトは、思わず止めに入った。


《ナキ、おカオまっかだよ?》


《カゼ引いたの~?》


「いや、ちがう! カゼじゃないから、言わなくて良いから⁉」


「あはは、照れて~ら」


「お年頃って感じの反応ね」


 そうやって話をしていると、村の外から小さな精霊達を引き連れた着せ替え人形サイズの風の精霊が慌てた様子でナキ達の元にやって来た。


《シャーロット、大変よ!》


「どうしたの、フィレイ?」


 フィレイと呼ばれたシャーロットの契約精霊が慌てているため、どうしたのかとフィレイに訪ねた。

 小さな精霊達ならまだしも、フィレイまでもが慌てているためただ事ではないのは確かだ。

 そしてフィレイからある報告を受けた。


《人間達の集団がこっちに向かってきてるわ!

 その大半が鎧を着込んでいるの!》


「ヨロイを着た人達が?

 もしかして、ルオさん達が帰ってきたの?」


 フィレイから鎧を着た集団がこちらに向かってきていると聞いたシャーロットは、オフィーリア帝国に向かったルオとレーヴォチカが戻ってきたのかと考えた。


 だが同じように話を聞いていたナキは、精霊達の慌てようと鎧を着込んだ人間の集団と聞いてルオ達ではない可能性に気付き、直ぐに確認をした。


「多分ちがう、ルオさん達なら同行してるメイメイが他のセイレイを使いに出して知らせてくれるはずだ。

 フィレイ、その人間達が着用してるヨロイになにかトクチョウはなかった?」


《えっと、形からして兵士と騎士だと思うわ。

 でも鎧には“剣に巻き付いた鎖”のシンボルが施されてたわ》


「ソイツら、ディオール王国に連中だ!」


 剣に巻き付いた鎖と聞いた瞬間、村に近付いてきている人間達はディオール王国の兵士、及び騎士達だという事に気付いた。


 一年前、大海たいかいの森に追放されるまでの間にディオール王国の場内で飽きるほど目撃していたため、覚えていたのだ。


「ディオール王国⁉ それ間違いないの⁉」


「間ちがえるもんか、一年前にあきるほど見てきたんだ。

 アイツら、予定人数のドレイをホジュウできなかったから大海の森の奥までエンセイに来たんだ!」


「でもなんで? ディオール王国から、かなりキョリがあるのに……」


 一年前にディオール王国に追われたシャーロット達は、何故ディオール王国が大海の森深くまで来たのかが分からず困惑していた。

 ナキはディオール王国の騎士達が大海の森深くまで来た理由に見当が付いていた。


「さっきも話したけど、ロリババアアリョーシャが冒険者に依頼を出してディオール王国付周辺にいる獣人ビースト妖精族ピクシーをひなんさせたせいで他の国のリョウドに入って国民を連れ去ったって言ったろう?

 それでも思った予定人数を集められないかもしれないって考えて、冒険者にホゴされず大海の森の奥に逃げた獣人や妖精族に目を付けて探しに来たのかも」


「何それしつこい!」


「急いでこの事を大人達に知らせないと……。

 風のセイレイ達、シュリョウに行ったおっさん達を探して連れ戻してきてくれ!」


《りょうかーい》


《任された〜》


 これは自分だけでは対処できないと判断したナキは、周囲にした風の精霊達に狩猟に出かけたヴァンダル達を探し出して連れ戻すように指示を出すと、風の精霊達は一斉に散開し、ヴァンダルを探しに向かった。


「あの子達、ちゃんと要点を伝えられるかしら?」


「見た感じ、この辺りにいる風のセイレイは下位しかいないみたいだけど、おっさんを連れてきてくれれば問題ないはずだよ。

 せめてフィレイ以外にも中位のセイレイがいてくれれば心強いんだけど……」


 精霊には下位、中位、上位、高位、最高位、精霊王という階級があり、下位の精霊は見た目通り性格が幼いのだ。


 階級が上がるにつれ、フィレイのように人格がハッキリとしてくるのだ。

 だがそうも言ってはいられない、ナキ達は急いで村の広場に向かい、大人達にディオール王国が攻めてきた事を伝えた。


「大変だーっ! ディオール王国に騎士達が村に向かってきてる!」


「なんだって? それは本当か⁈」


「フィレイが他のセイレイ達といっしょに、ディオール王国にシンボルを見たの」


「今風の精霊達がヴァンダルさん達を呼びに行ってる!

 まだ距離もあるみたいだから、迎撃する準備をしたり避難する準備できる時間はあるよ!」


「大変だ、急いで皆に知らせに行かないと!」


「私、隣の村に子の事を伝えに行ってくる!」


 ナキ達から報告を受けた村の大人達は、大急ぎで他の住人達に知らせに行ったり隣の村に知らせに行ったり、避難や迎撃の準備などを始めた。

 シャーロット達も大人達の手伝いをしようとした時、ナキはもう一度フィレイにディオール王国の騎士達の戦力を尋ねた。


「フィレイ、念のために聞くけど騎士や兵士以外の人員はいたか?

 例えば魔法使いメイジとか」


《そういえばいたわ。

 黒いローブを着た人間が六人、その六人に囲まれる形でシャーロット達くらいの子供が五人ほど》


「子供? ディオール王国は子供まで連れてきてるの⁉」


「何々? 今どういう話してるの?」


《わるいひ人たちの中に、シャーロットと同じくらいの子たちがついてきてるんだって〜》


 フィレイの口から魔法使いの他に、ナキ達くらいの子供が六人同行していると聞いたティアは信じられないという表情だった。

 精霊を認識できないメンバーのためにノルンが簡易的に内容を伝えた。


 それを聞いたアネーロやクライム達は、戦力として連れてこられた奴隷ではないかと考え、大人達に報告しに行こうとした。

 だが、その前にナキが止めに入った。


「待った!」


「どうしたんだよナキ、こんな時に止めるなんて!」


「早くお父さん達に伝えに行かないと!」


「その連れてこられたっていう子供達、“本当にドレイなのか”?」


 警戒した様子でナキはそう言った。

 その言葉に、シャーロット達は全く意味がわからなかった。

 シャーロット達からすれば、ディオール王国の騎士達と同行している子供達は奴隷狩りに遭って捕まった被害者というイメージだ。


 何故ここでナキがそのような事を言うのか理解できなかったが、クルークハイトはある事に気付き、シャーロット経由でフィレイにある事を訪ねた。


「シャーロット、通訳頼む!

 フィレイ、その子供達って全員黒髪で黒い目か?

 身なりはボロボロだったか?」


《確かに全員黒髪黒目だったわ。

 けれど身なりがボロボロだったかと言われると逆、綺麗でかなり良い服を着ていたわ》


「……だって」


 連れてこられた子供達は皆黒髪黒目、身なりの良い服を着ていたと聞いたクルークハイトはすぐさまナキの方を見た。

 フィレイのさらなる証言を聞いたナキは、先程までとは打って変わって凄まじい怒りを宿した表情になっていた。


「ナキ、ナキ? 顔が凄く怖いわよ⁉」


「ど、どうしたんだよ、急におっかない顔して……?」


「ナ、ナキ、一応確認するけど着いて来た子供達って……」


「間ちがいない、元同級生復讐対象の一部だ」


「やっぱりか……っ!」


 ドスの利いた声で連れてこられた子供達の正体が自分の元同級生の一部だと証言したナキを見ながら、クルークハイトはやはりと思った。

 シャーロット達を止めた理由が、子供達が奴隷ではない可能性がある事に気付いたから。


 加えて魔法使いと思われる者達に守られる形で移動している形から、ただの子供ではないと知るには十分だ。

 そしてナキが警戒していた理由は、その子供達の正体が自分の元同級生ではないかと思ったからだ。


「あっちから来てくれるとは好都合だ!

 今すぐ突げきして生まれた事を後悔するほどボコボコにしてやらぁ!」


「「「えぇえええええええっ⁉」」」


 シャーロット達はナキが勢いのままに飛び出そうとする姿を見て驚いた。

 ナキと過ごす内に、普段は真面目で物事を冷静に観察し、どう判断するかを決める性格というイメージが付いていた。


 だが現在のナキはそのイメージからは想像できない程に怒り狂い、ノルンを放り上げ勢いのまま飛び出して攻撃を仕掛けようとした。


 幸いそうなる前にクルークハイトがナキにしがみついて止めた。

 だが、ナキは無自覚にブースト身体強化を使っていたようで一人では止めきれそうにはなかった。


「ナキ、ストップストップ! 皆止めるの手伝ってくれ!」


「ナキ、落ち着け!

 さっきの言ってた事と行動が逆転してるぞ!」


「うるせぇ! こっちはあいつらのせいで何度も死にかけたんだ!

 ボコボコにしねぇと気がすまねぇんだよーっ!」


「ダメだわ、完全に怒り狂ってる!」


「落ち着け、落ち着けーっ!」


 シャーロットとノルンを受け止めたアミ以外でナキにしがみついたものの、その場に留めておく事で精一杯だった。


「フミャッ⁉」


「フミャ、フミャ!」


《ナキひどい〜》


「ど、どうしよう……」


「私達の村を目指してきてるディオール王国の騎士さん達、ナキ君にとっては完全に招かねざる客だねぇ」


 なりふり構わず怒り狂うナキと、そのナキに必死にしがみつくクルークハイト達を見たシャーロットとアミはオロオロしていた。

 ルオとレーヴォチカは未だ帰らず、ヴァンダルはいつ戻ってくるかわからない中、果たしてナキ達はこの窮地を乗り越えられるのか?


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