第33話 変わってからの日常

 容姿の色が変わり、思い出の懐中時計が自分の元に戻り、加えて従魔契約によりエンペラー・スライムに進化したスライムのノルン、そして精霊を認識できるようになった事で従属契約を交わした従属精霊のカノンという仲間を得たナキ。


 何より、自分の出自を知るクルークハイトという理解者を得た事で大分落ち着きを取り戻し、自分を保護してくれた村の住人達との間にあった僅かな溝も完全になくなった。

 そのおかげで他の子供達とも当たり前のように話をするようになった。


「今日の仕事終わり! ノルマも無事達成だ」


「セイレイ達が手伝ってくれたおかげで、早めに作業が終わったからな。

 皆ありがとう」


《良いよ~》


《気にしないで~》


《ナキがよろこんでくれてウレシイ!》


 ナキの頭上を漂う精霊達は、嬉しそうにはしゃいでいた。

 先程分かった事なのだが、前回鹿肉の解体中いつの間にか解体が進んでいたり、コールドリーフに包まれていたり、箱詰め中に作業台の奥側にあった鹿肉が手前に移動していた理由は精霊達にあった。


 少しでもナキの負担を減らすためにナキとクルークハイトが鹿の肉塊から目を離した隙に、精霊達が作業を進めていたのだそうだ。

 更に茄子エッグプラント赤茄子トマト畑の雑草がいつの間にかむしり終わっているという現象も、精霊達が総動員で草をむしっていたからだった。


 精霊認識阻害の魔方陣を施されていたナキと元々認識できないクルークハイトは、精霊達に聞かされるまでずっと怪奇現象だと思い込んでいたため、かなり納得した。


《オシゴトおわったから、あそびに行く?》


《それともお出かけ⁇》


「いや、どうせならこのまま薬草園の方に行こう。

 確か薬草のシュウカクがあるって言ってたよな?」


「その後に薬草の仕分けがあるから、傷薬作りの人手が足りないかもしれない的な事言ってたな。

 丁度手も空いたし行ってみようか」


 解体作業が早めに終わったため、人手が足りていないと思われる薬草園の方に向かう事にした。

 薬草園に着くと、フゥ族のミンを中心にドクダミ草ホツニアコダータ紅藍花サフラワーの一部を残し採取していた。


「こんちは」


「こんにちはミンさん」


「あらクルークハイト、ナキ、いらっしゃい。

 解体作業の手伝いは終わったの?」


「セイレイ達が手伝ってくれたおかげで早くに終わったんだ。

 それで手が空いたから手伝いに来たんだけど、手伝える事ある?」


「それなら紅花コウカの収穫を手伝ってくれる?

 十薬ジュウヤクの方に人手が回ってて収穫が遅れちゃってるの」


 そう良いながらミンが視線を向けた先には、花壇からはみ出る程生い茂っているドクダミ草に悪戦苦闘している大人達の姿があった。


 どうやら栽培したは良いが予想以上に繁殖力が凄く、他の花壇にまで侵入してしまったようだ。

 元いた世界でもドクダミ草の事を知っていたナキは、ドクダミ草の栽培について自分なりに助言した。


「あ~、ドクダミはハンショクリョクが強いから、花ダンで育てるよりプランター、じゃなくて植木バチで育てた方が制限できると思う。

 それから他の花ダンに侵入したドクダミはかり取ってもまた生えてくるだろうから、他の薬草に気をつけて根っこから引っこ抜いた方が良いかも」


「そうなの? それなら今度専用の植木鉢でも作ってみようかしら?」


「どうせなら丸い奴よりタテナガなのを作ったら良いよ。

 それから階段状のたなも作って、空いてるスペースに置けばじゃまにもならない筈だよ」


「なるほど、それなら場所を取らなくて済みそうね。

 ありがとう、今度試してみるわ。

 それじゃあ紅花の収穫をお願い、それと紅花の葉は鋭いくて怪我をする事があるから収穫するときはそこにある手袋をちゃんと着けてから収穫してね」


 ナキからドクダミ草のアドバイスを受けたミンは、ナキに感謝の言葉を述べた後、紅藍花を収穫する際の注意事項を告げた。

 ナキとクルークハイトは籠の中に入っていた二の腕まで覆う革製の手袋を手に取ると着用し、紅藍花の収穫に向かった。


 ミンに注意された通り、紅藍花は棘のように鋭い葉で守られており、しっかりと肌を覆う服装でなければ怪我をしてしまいそうだ。

 紅藍花の花壇には収穫にはシャーロットとティアの姿もあり、花壇にいる者達は皆慎重に収穫していた。


「手袋着けろって言われたから覚悟してたけど、やっぱりモガミの方か」


「ナキ、紅藍花について知ってるのか?」


「そっか、こっち異世界ではベニバナは紅藍花の呼び方なんだな。

 紅藍花には三種類あって白っぽい黄色の白花、トゲがないトゲなし、それで目の前に咲いてるのがモガミって名前が付いてるんだ」


「同じ植物でも違う特徴があるんだな。

 それにしてもナキは色々と詳しいんだな」


「全部じいちゃんが教えてくれたんだ。

 さ、紅藍のシュウカクを始めよう」


 そう言うとナキは籠を手に取ると紅藍花の花壇に近付き、採取を始めた。

 薬として使えるのは管状花かんじょうかと呼ばれる部分、わかりやすく言うのであれば紅藍花の花弁部分だ。


 花弁と言ってもどれでも良いわけではない。

 まだ満開になっていない開いたばかりの物や、開ききってしおれてしまった物は収穫しない。

 収穫するのは丸状に開花した物だ。


 ナキとクルークハイトは紅藍花の茎を掴み、三本の指で摘まむ形で紅藍の花弁を総苞そうほうから引っこ抜き籠の中に入れていく。

 とは言え、葉棘が服の隙間からチクチクと触れるため内心ヒヤヒヤしている。


 どんなに注意していてもどうしようもない時がある。

クルークハイトが紅藍花の総苞から花弁を引っこ抜いた直後、茎を長めに持っていた事が災いし花頭が大きく揺り返し、紅藍花の葉棘が頬をかすめた。


「痛っ!」


「大丈夫かクルークハイト⁉」


「イテテ、ちょっと頬をかすめちゃったよ」


 クルークハイトはそう言いながら、紅藍花の葉棘がかすめた部分を触れた。

 触れた瞬間、ピリッとした痛みが走った。


「あまりさわらない方が良いぞ。

 血が出てるからちゃんと手当しておいた方が良いぞ」


「わかった、じゃあ一旦作業を中断して手当してくる」


「バンソウコウがあったらすぐに手当できるんだけどな」


 そう言いながらナキは絆創膏の事を思い出していた。

 元同級生達や周りと常に喧嘩になるため、よく怪我を負いその度に絆創膏を使っていた。

 その便利さからナキはかなり重宝して使っていた。

 絆創膏という言葉に反応したクルークハイトは、絆創膏についてナキに尋ねた。


「バンソウコウってナキのいた世界の道具か何か?」


「かんたんに言うならカンイ的に傷をふせげる道具だな」


「へぇ、そんな便利な物があるんだな」


「と言っても大きさ的には小さいから、大きすぎる傷はふせげないのがナンテンかな。

 それより早く手当しよう」


 そう言いながらナキはクルークハイトと一緒に紅藍花の花壇から離れ、薬箱を取りに行こうとした。

するとナキの懐に入っていたカノンが、ナキに声を掛けた。


《ナキ~、わたしなおせるよ~》


「なおせる? なおせるって何を?」


《クルークハイトの傷~》


「え? クルークハイトの傷治せるのか?」


《だってわたし、花の精霊だもん》


 自分は花の精霊だから傷を治せるというカノンの言葉にハッとするナキ。

 以前人工湖に落ちて頭の傷が開いた際、ルオが周囲にいたと思われる花の精霊に自分の頭の傷を治すように願い、実際に治った事を思い出した。


「そっか、すっかり忘れてた!」


「ナキ、カノン?っと何か話してるのか?

 なんか納得してるみたいだけど……」


「花のセイレイのエレメンタルはチリョウに使えるって話だよ。

 カノンがお前の傷を治してくれるって。

 カノン、頼む」


《まかせて~》


 そう言うとカノンはナキの懐から飛び出し、クルークハイトの頬に近付き両手を傷にかざした。

 するとカノンの両手から淡い桃色の光が溢れ出し、クルークハイトの頬についた傷を覆う。

 傷全体が覆われた直後に傷が塞がり始め、最終的にはあとも残らず傷が感知した。


《チリョウかんりょ〜う》


「おぉ、キレイに治ってる。

 クルークハイト、痛みの方はどうだ?」


「痛みの方も引いてるよ。ありがとうカノン」


《えっへん》


 クルークハイトは見えないながらも、治してくれたカノンにお礼を言った。

 カノンは誇らしそうに腰に手を当てドヤ顔を決め、そのままナキの懐に戻った。


「よぉし、それじゃあ作業再開だ」



 ナキが作業再開と宣言した瞬間、その言葉に反応した精霊達が紅藍花の花壇に一斉に群がり、花頭を採取し始めた。

 同じ紅藍花の花壇にいた村の住人達は精霊が見えないため、何事かと驚いていた。


「ナキ、コレまずいんじゃないか?」


「ヤバい! 待て待て、勝手に始めるな!

 おいそこ!

 そっちは指定されたハンイ外だから取っちゃダメだって!」


 号令と勘違いして紅藍花を収穫し始めた精霊達を見たナキは、慌てて精霊達を止めに入った。

 中には指定された範囲外の紅藍花も収穫しようとする精霊もいたため、その精霊に対しては両手で覆う形で止めに入った。


 精霊達が一斉に収穫した事も相まって、葉棘で苦戦していた紅藍花の収穫作業はあっという間に終わってしまった。

 幸いな事にすぐ止めに入ったため、範囲外の紅藍花も無事だった。


「あ、危なかった。

 危うく紅藍花をシュウカクしつくす所だった……」


「お、お疲れ、ナキ……」


「ありがとう、お陰で紅藍花の収穫に回していた人手を十薬の方に回せるわ。

 あとは傷薬の作成の方に回って貰っていいかしら?」


「わかった、さっきみたいになっても困るからセイレイ達は連れて行くよ。

 皆、作業小屋に移動するぞ」



「だから勝手に行くなって!」


 精霊達がそそくさと作業小屋に移動したため、ナキとクルークハイトは慌てて精霊達を追いかけ作業小屋に移動した。

 作業小屋の中ではシャーロット、イーサン、アミ、ローロの四人が黙々と作業をしていた。


「おーい、手伝いに来たぞ〜」


「あ、クルークハイト、ナキ、いらっしゃい」


「助かったわ! 紅藍花の収穫で怪我する人が続出したから予備も含めて作らないといけないのよ!」


「使うのはこの前と同じ薬草でいいか?」


「そうなんだけど、よもぎモドキが結構混ざってて作業が進まないんだ」


 そう言いながらイーサンは床に置いていた籠を持ち上げ、その中身を見せた。

 籠の中にはミンが蜘蛛艾葉くもがいようと呼んでいた、蓬に似た形の毒草が入っていた。


 話によると、大海たいかいの森に狩猟に出ていた者達が蓬の群生地帯を見つけ、大量に持って帰ってきたそうなのだが、同時に蓬モドキも群生していたらしく、かなり混ざっているそうだ。


「あ〜、コレは結構混ざってるな……」


「っていうか、ヨモギに似た毒草があるってのがフシギなんだよな。

 ヨモギモドキなんて一度も聞いた事なかったし」


「蓬モドキって割りとポピュラーな毒草で小さい子でも知ってるのよ?」


 ナキが蓬モドキについて知らなかったと聞いたアミは、不思議そうにナキを見た。

 元いた世界では蓬ににた毒草はなかったため、思わずその感覚で話してしまったナキは、慌てて誤魔化した。


「い、いや、うちの親がそういうのにむとんちゃくだったから。

 皆、ヨモギモドキだけ取り除いてくれないか?

 取りのぞいたらそこのカゴに入れておいてくれ」



 話を逸らすためにナキは精霊達に蓬の中に紛れ込んだ蓬モドキを取り除き始めた。

 かなりの蓬モドキが紛れ込んでいたらしく、机の上に置かれていた蓬のかさはすっかり減ってしまった。


「かなり混ざってたんだな、あっという間に減っちゃったよ」


「蓬ってこれだけしか残ってないの?」


「まだあそこの籠に入ってるわ。

 蓬モドキも一緒に入ってるけど……」


「仕方ない、引き続きセイレイ達にヨモギモドキを取りのぞいてもらって、俺達は薬作りにせんねんしよう。

 皆もそれで良いな?」


《任された〜》


《クチクしてやるぜ》


《オブツはしょうどくだ~》


(どこで覚えたんだそんなセリフ⁉)


 精霊達の中から物騒な台詞が聞こえて来たため、思わず顔を引きつるナキ。

 同じように精霊が見えるティアやシャーロットもその台詞を聞いており、シャーロットはキョトンとしていたが、ティアもナキ同様に顔を引きつらせていた。


 一部の精霊達が残りの蓬モドキを取り除いている間、ナキ達は傷薬の作成に取りかかった。

 円滑に作業を進められるようになった事で、余裕が出来たのかナキ達は作業を進めながら他愛ない会話をしていた。

 するとティアが気になる事を口にした。


「それにしても、ルオさん大丈夫かしら?」


「そういえば今日はまだ一回も見かけてないけど、何処に行ったの?」


「ルオさん、ヴァンダルさんのお使いででかけてるよ」


「お使いって、隣の村に行ったのか?」


「ううん、オフィーリアって所」


「オフィーリアだって⁉」


 シャーロットの口からオフィーリアという言葉が出て来た事に驚いたナキは、思わず立ち上がってしまった。

 突然驚きの声を上げながら立ち上がったナキの反応に驚いたティア達は、眼を見開きながらナキの方を見ていた。


「どっどうしたのよナキ? そんなに驚いてらしくないわ!」


「オフィーリアについて何か知ってるの?」


「あっいや、オフィーリアって帝国って呼ばれるくらい有名だから、なんでそんな所に向かわせたのかがフシギで……」


「オフィーリア帝国にヴァンダルさんの知り合いがいるそうよ。

 その人に手紙を渡してくれって頼まれて、メイメイをお目付役に同行させて送り出しちゃったの。

 シャーロットにお願いしてヨハンナも同行させてたから、よっぽどの事じゃないかしら?」


「え? ヨハンナ連れてかれちまったのか?」


「うん、少しでも早く、手紙を渡して欲しいからって」


 ヨハンナはシャーロットの従魔であるペガサスの名前だ。

 ナキが荒れている間、刺激してはいけないという事で民族衣装をまとった人間達の村に匿われていた。


 そのため、ナキは直接会うまではその存在に気が付く事はなかったのだが、それよりも行き先の方が気になった。


「その手紙の届け先って、オフィーリアのどこかって聞いてる?」


「届け先は辺境だって聞いてるけど、もしかしたらそのまま帝都に向かってもらうかもしれないって言ってよ?」


「帝都には美味しいものがあるからって、レーヴォチカまでついて行っちゃったのよ。

 信じられない!」


「レーヴォチカは食べるの好きだからな、ちゃっかりしてるなぁ」


 行き先の中に帝都が含まれていると知ったナキは、オフィーリア帝国を通して自分の居場所がアリョーシャに伝わるのではないかと恐れた。

 スターリットとオフィーリア帝国は交友関係にある。


 そのためため、オフィーリア帝国に自分の創作を依頼しているのではないかと考えたのだ。

 どうしたものかと考えていると、クルークハイトが驚いた様子でナキに声をかけてきた。


「ナキ、薬、薬!」


「え? また真っピンクになってる⁉」


 考え事をしている内に、前回と同じようにナキが作っている傷薬のみ桃色になっていた。

 またしても桃色になってしまった事に驚いていると、すり鉢の傍にいつの間にか懐から出ているカノンの姿があった。


「あれ? カノンいつの間に、っていうか何してるんだ?」


《おクスリに加護をかけてるの〜》


「かご? かごってなんだ?」


《私の力のイチブみたいなものだよ〜。

 私達花の精霊や樹の精霊がね、やくそうやおクスリにカゴをかけるとパワーアップするの〜》


「ナキ、カノンはなんて?」


「かごって奴を薬にかけてるらしいんだ。

 パワーアップするからって……」


 ナキから薬がパワーアップすると聞かされたクルークハイトは、ある事に気がついた。


「もしかしてだけど、ナキだけ薬の入が変わったのってその加護が原因じゃないか?」


「言われてみればそうかも、他の皆の所にはセイレイがいないし、ってあれ?

 って事は……」


「多分俺と考えてる事は一緒だと思う、前回ナキの作った薬だけ変色したの、今みたいにカノンが加護を掛けてたからじゃないかな?」


「カノン、もしかしてたけど……」


《うん、かけてたよ〜。ほめて〜》


「お前が犯人か!」


 どうやらクルークハイトの考えは当たっていたらしく、前回も今回と同じようにカノンがナキが作っている傷薬に自分の加護を掛けた事で色が変色したようだ。


 それを知ったナキは思わず頭を抱え、クルークハイトは苦笑していた。

 そこに蓬と蓬モドキの分別をしていた二体の精霊がカノンの両脇に並び、カノンの腕を掴んだ。


《いはんしゃはっけーん》


《ただちにカイシュウしまーす》


《うわーん》


「……カノンが他のセイレイに連行されていった」


「精霊にも色々あるんだな」


 ナキが困惑しながらカノンが精霊達に連行されて行く様子を見届けていると、突然作業小屋が勢いよく開き、そこからノルンが勢いよく入って来た。


《ナキ〜ッ!》


「ノルン⁉ うわっとと!」


 ナキは慌てて立ち上がり勢いよく入って来たノルンを受け止める。

 入ってきたノルンの勢いが強かったため、ナキはそのまま尻餅をついたが、どうしたのかとノルンに話しかけた。


「どうしたんだノルン、お前確かプルプルと一緒にいたはずじゃあ」


《そのプルプルがいじめるんだよ〜!》


「どういう事だ⁉」


「何々? なんの騒ぎ⁉」


「あ~、もしかして……」


 ナキ達が困惑している中ティアがなにか納得していると、ノルンの体にゼリー状の触手が伸び、そのままナキから引き離されてしまった。

 そしてノルンが運ばれた先には、プルプルの姿があった。


「あれ、プルプル⁉」


「ミュミュウ」


「なんでだろう、プルプルが怒ってる気がする」


「奇遇だな、俺もだ」 


 最初はプルプルがいる事に驚いたものの、プルプルから発せられる威圧にたじろくナキ達。

 一方、プルプルに捕獲されたノルンは、涙目になりながらゼリー状の体を震わせていた。


「ミュミュミュウ、ミュウ、ミュウミュウ。

 ミュウ、ミュミュミュミュ」


《うわ~んたすけて~っ!》


「な、なんだったんだ一体……」


 プルプルが怒った様子でノルンを連れていく様子を見届けたものの、突然の事過ぎて何が起きたのか理解が追いつかなかった。

 ナキ達が呆然としていると、ティアが苦笑しながら先程の状況を説明してくれた。


「あ~、ノルンがプルプルの訓練に耐えきれず脱走したの連れ戻しに来たみたい……」


「え? 脱走って?」


「ノルンを含めた昨日来たスライム達をプルプルが鍛えてるのよ。

 基本的にスライムって弱いから……」


「スライムがスライムきたえてるのかよ⁉」


 ティアからプルプルがノルンやスライム達を鍛えていると聞いたナキは、理解に苦しむ状況にかなり困惑した。

 スライムがスライムを鍛えるという展開など、全く聞いた事がないからだ。


「元いた世界でもそんな発想、ダレも思いつかねぇよ」


「ん? 世界??」


「間ちがえた、元いた場所でも思いつかねぇよ」


「誰だってそう思う、俺だってそう思う」


 どちらにしろ、ナキにとっては一年が過ぎた今でも異世界の生活は衝撃的だらけという事だった。


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