第32話 変わる日常

「よっしゃ、完成だ!」


 朝から容姿が劇的に変化する、スライムが大量発生するという予想外な展開に見舞われながらも、落ち着きを取り戻した大海たいかいの森の村。


 騒動の一因であるナキは、ルオの手によって髪型を変えられていた。

 一ノ月近く切られず伸びきっていた髪は、頭部に獣耳のような跳ね上がりのあるウルフカットに整えられており、前髪も目元が見えるくらいに切り揃えられていた。


 更に前髪の左部分はあえて長めに残し、三つ編み上に編み込まれたうえで二本のヘアピンで止められていた。

 その結果、ナキの身なりはその場にいた全員の予想を超えるほど良くなった。


「すっかり格好良くなったわね」


「本当ね、美少年っぷりに拍車がかかったわ!」


「嬉しそうだねローロちゃん」


「馬子にも衣装とは言うけど、そのひにならないな」


「色と髪型が変わったせいか、前よりイケメンに見えるって、解せぬ」


「はいはい、醜い嫉妬はそこまでにしとけ」


 髪型を変えた事で露わになったナキの素顔を見て、周囲は感嘆の声を上げた。

 そんな中、ナキは桶に入れられた水に映る自分の姿じっと見つめていた。


「どうしたんだナキ?

 そんなに桶の水を見つめて ……」


「いや、その、なんか今の姿に慣れなくて……」


「そりゃあそうさ。

 なんたって自分の容姿が変わったんだ、そんなすぐには慣れないよ」


 そう言いながらイーサンはナキの心情を肯定した。

 確かにそれもあるのだが、これまで醜い、悪人面としか言われてこなかったため自分の容姿が美しいとは一度も思った事がなかったのだ。


 だが実際は村の住人達が騒いでいるように、自分で見ても美形の部類に入る顔立ちをしていたため、余計に信じられないでいるのだ。


「あとはもう少しオシャレな服を着ればもっと美少年になるわね!

 なんだったら格好良い装飾品アクセサリーなんか着けたらどうかしら⁉

 もっと美少年になって一躍人気者になれるわよ!」


「ローロ落ちつていて、そんな一片にはできないよ」


「何言ってるのよ!

 せっかくの美少年がもったいないわ!

 今の内に似合う服とか装飾品を見極めておけば格好良くなる事間違いなしよ!」


 ナキの美少年っぷりが判明した事で、ローロは大げさにナキの事を褒めた。

 アネーロが興奮するローロを宥める中、話の内容を聞いていたナキは顔を真っ赤になるほど赤面させていた。


「大丈夫かナキ、顔が凄く赤いぞ⁉」


「ごめん、ダレかローロ止めてくれ、マジではずかしい」


「あ、褒められ慣れてないから恥ずかしいのか……」


 ローロが大げさに自分の事を褒めるため、ナキは思わず恥ずかしがったのだ。

 詳しい事情を知っているクルークハイトも、真っ赤になるほど赤面した理由をすぐに理解した。

 そんな時、ナキは水面に映る自分を見た時ある事に気付いた。


「あれ? なんだコレ……⁇」


「今度はどうしたんだナキ?」


「いや、今気付いたんだけどムナ元にイレズミみたいなのがあるんだ。

 ほらコレ」


 そう言いながらナキは服の襟を下げ、自分の胸元を指さした。

 そこには大きな三日月の空白部分に小さな三日月が連なり、その小さな三日月の空腹部分に満月と思われる丸い部分が描かれた蒼銀色の模様があった。


「本当だ。元々あった奴じゃないのか?」


「そんな訳ないだろう。

 小学生がイレズミなんか入れてみろ、たちまちソウドウになるぞ」


 かなり特徴的で、ナキが言うように入れ墨に見えなくはないが、それならばナキが保護された時点でその特徴も周囲に伝わっている筈。


 だが模様に関してはナキにも心当たりがない様子だ。

 これはどういう事かと考えていると、ナキとクルークハイトの足元でプルプルした物が跳ねた。


「ノーン」


「そういえばコイツ、結局ナキに着いてきたんだな」


「そうなんだよ。サイシュウ的にプルプルに叩かれてたけど」


 ナキの懐中時計を持っていた気の抜ける鳴き声のスライムは、結局プルプルの指示には従わずナキに着いてきたのだ。

 それ以外のスライム達はティアとプルプルの指示に従い、村の空き小屋で待機している状態だ。


「ナキ、その子、どうするの?」


「確かに、見た感じナキになついてる感じがするよね」


「そうなんだよなぁ……」


「ノーン?」


 シャーロットに気の抜けた鳴き声のスライムをどうするのかと聞かれたナキは、足元にいたスライムを抱き上げた。

 ナキに抱き上げられたスライムは特に暴れる様子はなく、大人しくしていた。


 その様子から完全に敵意がなく、スライムに懐かれていると感じたナキはどうしたものかと悩んだ。

 するとプルプルが声を上げた。


「ミュウ、ミュウミュウ」


「どうしたんだプルプル?」


「ここまでナキに懐いてる以上、ナキと従魔契約をさせた方が良いって言ってるわ」


「従魔契約ってナキとこのスライムがか?」


 ティア経由でプルプルの提案を聞いたルオは、不思議そうな表情をしていた。

 従魔契約と聞いたナキは、自分の従魔にしてしまえば一緒にいても問題ないと感じた。

 しかし、ナキ個人としては困った事があった。


「ムリだよ、俺、ジュウマケイヤクのやり方知らないんだ」


 そう、ナキは魔物と契約し使役する従魔契約の方法を知らないままなのだ。

 すぐる達に復讐を誓った当初は、強い魔物を捕まえ従魔にしようと考えていたが、教えたら大変な事になると考えたであろうアリョーシャが教えなかったのだ。


 そのため、ナキは大海の森を移動中強そうな魔物を見つけても逃げるの一択しかなかった。

 だがここで、ティアはナキが驚く事を告げた。


「問題ないわ、今のナキなら裏技が使える筈よ」


「ウラ技? ジュウマケイヤクにウラ技なんてあるの?」


「えぇ、凄く簡単な事よ。

 そのままその子に名付け、つまり名前を付けるのよ」


「えっ! 名前を付けるだけ⁉」


 裏技の内容が名前を付けるだけだと聞いたナキは、酷く驚いた。

 契約と言うからにはもっと難しい物をイメージしていたため、かなり予想外の形だったようだ。


「本来は魔方陣や専用の魔導具は必要になるわ。

 でも名付けは対象となる魔物に名前を付けてあげるだけで従魔契約が出来るの」


「名前を付けるだけって、そんなかんたんで良いの?」


「無論この裏技だって簡単にできる事じゃないわ。

 対象の魔物が自分に対して警戒していたり敵意を持っていると、名付けても従魔契約は出来ないの。

 その魔物が自分に心を開いて初めて使える方法よ。

 その子は完全にナキに懐いているから、間違いなく名付けが出来る筈なの」


 ティアから名付けの内容を聞いたナキは、自分の手の中にいる気の抜けた鳴き声のスライムを見つけた。

 スライムは抱き上げられてからもずっと大人しくしており、完全に自分に身を委ねているという事が分かった。

 その様子を再度確認したナキは、スライムに語りかけた。


「えっと……、名前、着けても良いか?」


「ノーン♪」


 ナキに名付けても良いかと尋ねられたスライムは、気の抜けた鳴き声を上げながらも嬉しそうな様子だった。

 まるで良いよと言っているような雰囲気だったため、ナキはスライムに名付けを行う事にした。


「じゃあ、スライムはぷるんとしてるし、コイツは他のスライムとちがって気の抜ける鳴き声だからな……。

 決めた、あんちょくだけどスライムのトクチョウであるぷるんとした体とお前の鳴き声と併せて『ノルン』だ」


「ノーン!」


 ナキが気の抜ける鳴き声のスライムにノルンと名付けた直後、突然スライム改めノルンが強く発光し始めた。


「うっうわぁっ⁉」


「「「キャアッ⁉」」」


「なんだコレ⁉」


「まぶしい!」


「ギャアーッ! 目がやられたっ!」


 あまりにも突然の事で、その場にいた全員がすぐには対応できず動けず、かろうじて腕で光を遮るしかできなかった。

 ナキに至っては発行源であるノルンを両手に抱えているため、必死に目を瞑る事で精一杯だ。


(名前を着けた直後にノルンが発光し始めた⁉

 一体何が起きてるんだ⁉

 ノルンはぶじなのか⁉)


 突然の事に驚きながらも、ノルンの身を案じるナキ。

 しばらくして光が収まっていき、かろうじて目が開けられるようになったナキは直ぐにノルンを確認した。

 だがそこで驚きの光景を目の当たりにする。


 先程まで水色だったノルンの体は半透明な蒼銀色になっており、心臓部分でもある核が消え、ナキの胸元にある物と同じ模様が浮かび上がっていた。

 だがそれ以上に衝撃的な事があった。


「……顔ついてる⁉」


「「「なんで⁉」」」


 色が変わった事以上にナキが驚いた事、それはノルンに顔がついていたのだ。

 クリクリとした目と三角状の口は、まるでマスコットキャラのような見た目だ。


 これにはナキだけではなく周りも驚いており、何故ノルンに顔がついたのかと騒いでいた。

 ナキがノルンの事で困惑していると、突然頭の中に声が響いた。


《どうしてそんなにおどろいてるの〜?》


「へっ? 今の声ダレだ⁇」


《ぼくだよ〜》


 突然聞こえた声の主を探していると、手の中にいたノルンが触手を伸ばし何かを主張する。

 そんな反応を見たナキはまさかと思い、ノルンに話しかけた。


「まさか今の、ノルンの声か?」


《そうだよ〜》


「ウソだろう⁉」


 ノルンが自分の脳内に話しかけて来た声の主だと知り、信じられないという表情をするナキ。

 名付けによる従魔契約を提案したティア本人は、その様子を見て話し始めた。


「えっと、ノルンの声が聞こえてるって事は契約は成功ね。

 それは念話と言って、相手の脳内に直接語りかける話し方なの。

 従魔契約すると使い魔、つまり従魔を念話で会話できるようになるの」


「じゃあ、ノルンに顔が着いたのもジュウマケイヤクのエイキョウって事?」


「いや、そこまで影響はない筈だよ。

 前にシャーロットが従魔契約した時は特に変化はなかったし」


「えっ、シャーロットもジュウマがいるのか?」


「ン、クジャバード三羽とペガサスに、ウィンドキャットが五匹、風のセイレイともケイヤクしてる。

 あとで会う?」


 ナキに尋ねられたシャーロットは従魔の種族名と個体数を告げた後、後でナキに会ってみるかと尋ねた。

 シャーロットが普通そうな様子だったため、従魔の見た目の変化に関しては詳しくないという事だけはなんとなくわかった。


 では何故ノルンに顔がついたのか?

 その事だけがナキ個人としては一番の謎のままだった。

 その事について悩んでいると、ノルンがある事を言ってきた。


《んーっとね、ナキとの相性がすごく良かったからしんかしたんだって》


「ん? 俺と相性が良くて進化って、どういう事だ?」


「そっか! 確か従魔契約って魔力マナが自動的に従魔に流れ込むから、流れ込んだナキの魔力の影響でノルンが進化したんだよ!」


「って事はつまり、ナキのマナが原因って事?!」


「余程ナキの魔力と相性が良かったのね。

 進化したなら種族名とか調べておいた方が良いかもしれないわ」


 ノルンに顔がついた原因がナキの魔力の影響による進化だと判明し、周りは納得し始めた。

 そこまでは良かったがノルンから話を聞いたナキは、少々引っかかる事があった。


「なぁノルン、今の話し方だとダレかから聞いた感じだったけど、ダレか教えてくれたのか?」


《うん、ナキの周りにいるセイレイさん達が教えてくれたの〜》


「セイレイが見えてるのか⁉」


「今度はどうしたんだよナキ?」


「それがノルンのヤツ、セイレイが見えてるみたいなんだ!

 俺は見えないのに……」


 ノルンが精霊を認識できていると知ったナキは、かなりショックを受けた。

 以前クルークハイトから教わった方法を試した際は上手く行かず、精霊は認識できないままだ。


 その後も何度か目に魔力を集中させて循環させようとすると、間近でフラッシュがたかれているような感覚に襲われ上手くいかないのだ。

 そこに他の獣人達と話し合っていたヴァンダルが慌てた様子でやってきた。


「おい、坊主が契約したスライムが進化したって本当か⁉」


「あ、ヴァンダルさん。

 情報早いね、もしかしてメイメイが知らせてくれた感じ」


「メイメイが大慌てで知らせに来てくれたんだよ。

 あんなに慌てたメイメイは初めて見たぞ!

 それよりも坊主のスライムがエンペラー・スライムに進化したってのは本当なのか⁉」


「ナキ、なんか凄そうな名前のスライムに進化してるっぽいぞ、ノルン」


「マジかよ。えっと、ついさっきジュウマになったノルンだ」


《ノルンだよ〜》


 エンペラー・スライムという名前を聞いたナキはヴァンダルにノルンを見せて判断してもらった方が早いと判断し、ノルンを差し出す形でヴァンダルに見せた。


 ノルンはバンダルに向かって自己紹介をしているが、おそらく気の抜けた鳴き声しか聞こえていないだろうと考えていた。

 だがここでも想定外の事が起きた。


「俺にまで念話で会話してやがる。

 間違いない、エンペラー・スライムに進化してるぞ」


「え? でも俺にはノーンってしか聞こえてないけど?」


「僕もノーンってしか聞こえないよ。

 なんで?」


「恐らくだがノルン自体は元々生まれて間もないスライムだったんだろう。

 契約者以外に念話で会話できる人数が限られてるみたいだな」


「どうなってんだよノルンのポテンシャル」


 ノルンが限定されているとはいえ、自分以外とも念話で会話ができるという事を知ったナキは、喜ぶよりも困惑の感情が勝っていたようだ。

 ノルンのポテンシャルに困惑しながらも、ナキは精霊の認識についてヴァンダルに質問する事に。


「ノルンの育成については追々考えていくよ。

 それでおっさん、俺もセイレイ見れるようになりたいんだけどコツってある?

 マナを目に集めてジュンカンさせようとするたびに目がチカチカして上手くいかないんだ」


「目がチカチカするだぁ?

 実際確認してみん事にはわからんな……。

 坊主、ちょいと魔力を目に込めて循環させてみろ」


 ナキは言われるがまま自分の目に魔力を集め始めた。

 やはり循環させようとする度にフラッシュバックがたかれるような感覚が起こり、目がチカチカして開けているのもやっとの状態になる。


 一方でヴァンダルは魔力が上手く循環できないでいるナキの目を確認する。

 ヴァンダルの目にはナキの魔力が不自然な流れをしているように見えており、その事が気になっていた。


 原因を探ろうと試しに自分の魔力を注ぎ込んで見ると、ナキの瞳に魔法陣が浮かび上がり始めた。

 その魔法陣を見てヴァンダルは驚きの声を上げた。


「はぁ⁉ なんで〝精霊認識阻害の魔法陣〟が施されてんだ⁉」


「精霊認識阻害って、何それ?」


「文字通り精霊を見えなくする魔法だ。

 コイツを施すと精霊を認識できるだけの魔力を持っていても、精霊を認識できなくなる。

 目がチカチカするのは魔法陣が精霊を認識できないよう作用してる証拠だ」


「じゃあナキの周りにめちゃくちゃ精霊がいるのにナキが精霊に気付かなかったのは、その魔法陣が原因って事か」


「その魔法陣、なんとか消せないの?」


「俺の実力じゃ無理だ、弱点を突こうにもこの魔法陣自体かなり複雑な作りだ。

 コレばかりは術者本人に解いてもらうしかねぇ」


 自分では精霊認識阻害の魔法陣を解除できないとヴァンダルが言ったため、周りはかなりざわついていた。

 それに対しナキは自分に精霊認識阻害の魔法陣を施した術者犯人に心当たりがあり、その術者に対して怒りを向けていた。


(あんのロリババア〜、俺がスターリットでホゴされた時にほどこしやがったな!

 おかげでセイレイが周りにいるのに気付けなかったじゃねぇか!

 けど原因がわかった以上、マホウジンさえなんとかできれば……)


「ナキ、また桶を覗き込んで何する気だ?」


「ちょっと試してみたい事があるんだ」


 そう言うとナキは片目にのみ魔力を集め、循環させ始めた。

 それに伴い、施された精霊認識阻害の魔法陣が起動し妨害を始める。


 精霊認識阻害の魔法陣が起動した事で、魔力を集めている片目に魔法陣らしき模様が浮かび上がった。

 その事を確認したナキは、魔法陣の内容をすぐに確認し始めた。


(前にオーシャからマホウジンについて教えてもらった時は確か、セイレイ文字に加えた俺でも聞いた事があるルーン文字がメイン。

 加えてマホウジンのシュジクになる文字があるんだったな。

 それが消えるとマホウジンはたちまちくずれる、このマホウジンも同じ法則が適用されているなら……)


 オーシャから教わった魔法陣の性質を思い出しながら、精霊認識阻害の魔法陣の主軸になっているルーン文字を探す。

 注意深く観察する内に、三文字のルーン文字を見つけた。


「ᛁ、ᛈ、ᛉ、これだ!」


 ルーン文字の並びと意味を理解したナキは、それら三文字のルーン文字に意識を集中させ魔力を注ぎ込む。

 すると次の瞬間、硝子が割れるような音が聞こえると同時に三文字のルーン文字が消える。


 三文字のルーン文字が消えた事でナキの目に施された精霊認識阻害の魔方陣が崩壊し、消え去った。

 それを確認したナキはすぐに同じ方法でもう片方の目に施された精霊認識阻害の魔方陣を破壊する。


 両目の精霊認識阻害の魔方陣が消えた瞬間、上手く循環しなかった瞳の魔力が流れ始め、ナキの目に映る光景が変わり始めた。


「(マホウジンが消えて、マナがジュンカンし始めた。

 目の前に、何かいる……?)

 ……空とぶ、てのひらサイズの人形?」


 ナキの視界に入ったのは、頭に炎の飾りを付けた赤い服の掌サイズの人形だった。

 その人形だけに留まらず、雫、稲光、風車の飾りを付け、青、黄色、緑色と言った服を着た様々な人形達が宙に浮いていた。


 そして人形達に共通しているのは、皆は根が付いているという事だ。

 しばらくお互いに見つめ合っていたナキと人形達だったが、人形の一体がナキが自分達を見ている事に気が付けき、ナキに声を掛けた。


《ねぇ、ぼくたちの事見えてる?》


「え? あ、あぁ、見えてるけど……」


《ほんとう⁉ みんなーっ、ぼくたちの事、見えてるって!》


《ほんとう⁉》


《見えるようになったんだ~》


《じゃあやっとかいきんだね》



「え、ちょっ⁉ うわぁーっ!」


 ナキが自分達を認識していると分かった人形達は、一斉にナキに飛びついた。

 一方でナキはあまりにも突然だったためそのまま倒れ込み、その拍子にノルンを放り出してしまった。

 幸い傍にいたクルークハイトがノルンを受け止めてくれたため、ノルン自体は無事だった。


「どっどうしたんだよナキ、急に寝転がって⁈」


「ちげぇよ! なんか小っこい人形達に飛びかかられて動けないんだ!」


「えーっと、ノルン、ノルンにはどう見えてる?」


《ん~っとね、セイレイさん達がたくさんナキにだきついてるの~》


「ナキ、その小っこい人形が精霊だよ!

っていうか精霊が見えるようになったのか⁉」


 ノルンから状況を聞いたクルークハイトは、ナキが精霊を認識できるようになったと知って驚いていた。

 それはナキも同じで、自分に飛びついてきた人形達の正体が精霊だと聞いて驚いていた。


「セイレイ? この小っこい奴らが⁉」


《そうだよ~》


《ぼくたち精霊なの~》


《やっと気付いてくれてうれしい!》


 人形達の正体である精霊達は嬉しそうな様子でナキにくっついたまま離れる気配がない。

 離れる気配がない精霊達を目の当たりにしどうしたものかとナキが考えていると、頭に鈴蘭メイリリーを着けた桃色の精霊がナキに近付いてきた。


《ねぇねぇ、名前ちょうだ~い》


「名前? 名前が欲しいのか⁇」


《おねが~い》


 ナキに向かって名前が欲しいというその精霊は、瞳を潤ませながらナキにおねだりをする。

 そんな様子を見たナキは、しばらく考え込んだ末、その精霊にこう名付けた。


「そうだな、カノン、はどうだ?

 見た所花のセイレイみたいだし、俺を何度も助けてくれたセイレイの声警告音にちなんで花音だ」


《カノン? カノン、カノン、今日から私の名前はカノン!》


 花の精霊はナキにカノンと名付けられ嬉しそうな様子だった。

 その直後、ノルンの時のようにカノンが発光し始め、額に同じ模様が浮かび上がった。


(またこのもようだ。一体なんの意味があるんだろう?

 名付けによるジュウマケイヤクが完了したって証か⁇)


 ナキがカノンに浮かび上がった月の模様を不思議そうに見ていると、ヴァンダルが驚きの声を上げた。


「坊主、お前今度は花の精霊と“従属契約”したのか⁉」


「え? ジュウゾクケイヤクって?

 ジュウマケイヤクと何かちがうのか⁇」


 驚くヴァンダルの様子から従魔契約と何かが違うという事だけが分かった。

 すると軽い感じでルオが従属契約がどういう物なのかを説明し始めた。


「あぁ、精霊に名前を着けたら名付けた奴が死ぬまで契約が続くらしいぞ?」


「そんなジュウヨウな事さらっと言うなよ!

 っていうかどうしよう、ふつうに名前着けちゃった!」


《ぜんせん良いよ~》


《気にしなぁい気にしなぁい》


 かなり重要な内容だったため、勢いよく起き上がって後悔し始めるナキ。

 だが名付けられたカノンや名付けられていない精霊達はナキに気にするなと言って再びナキにくっついた。

 そんな精霊達を見てナキは思わず笑みがこぼれた。


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