第31話 変わり始める環境
ナキは再び祖父と過ごした思い出を夢に見た。
以前と同じように亡くなる二ノ月前の出来事の様子だった。
唯一の味方である祖父がいなくなる事を受け入れられず、まだ一緒にいたいと小さな声で伝えた。
当時のナキにとっては叶えられないと分かっていても、その時伝えられる精一杯の我が儘だった。
そんなナキの心中を知ってか知らずか、悔しそうな表情でナキの頭を優しく撫でながら告げた。
『ナキ、これだけは忘れるな。努力は必ず報われる。
本当のナキをちゃんと見てくれる友がきっと現れる』
その言葉を聞いた幼いナキは、顔を上げて祖父に抱きついた。
必死に押さえながらも、幼いナキの口から鳴き声がこぼれる。
祖父は病室の窓の方に顔を向けた。
『儂はもう長くはない。
そうなれば彼奴はいかなる方法を用いてナキを追い詰めるじゃろう。
もしもの時は周りをまき込んでも構わん、儂の代わりに、この子を頼む』
そこには誰もいないにも関わらず、まるで誰かがいるかのように話す祖父。
ナキもつられて病室の窓の方を見るが、そこには誰もいない。
そんな祖父の言葉に応えるかのように、鈴と笛が組み合わさったような音が病室に響いた。
『あぁ、あぁ、ありがとう。
儂も二度と目が覚めぬその時まで、最後までこの子のために生き抜こう……』
『じいちゃん?』
『大丈夫、大丈夫じゃ……』
泣きじゃくるナキの頭を撫でながら、祖父はナキの頭を撫でながら優しい眼差しでナキを見つめた。
そんな祖父の顔を見たナキは、押さえていた鳴き声を上げ、顔を布団越しに祖父の膝に押しつけた。
*****
「なんで今更、あの夢を見たんだろう……」
夢から覚めたナキは、ベッドに横たわりながらそう呟いた。
祖父がなくなる二ノ月前のやり取りを夢に見るのは、何か理由があるのだろうか。
そう思いながらも心当たりはない。
むしろ前回よりも後のやり取りで、気になる点が出てきたため、そちらに意識が向いていた。
(あの時はそれどころじゃなかったから気にしてなかったけど、何もない所にじいちゃんが話しかけてた。
その後にケイコクオン、セイレイの声が聞こえて来た。
一体どういう事だろう……?)
夢の中で警告音が聞こえて来た事もそうだが、祖父が何もない所に話しかけていた事の方が気になった。
ナキはベッドから降り、テーブルの上に置いていた服に着替える。
顔を洗おうと用意されていた水瓶に近づくが、中身は空っぽだった。
一応は自由にフォディオの家を出入りできるようにはなったため、書き置きを残し、タオルを手に村共有の井戸に向かい顔を洗う事にした。
クルークハイトを巻き込んで行方不明になっていた事もあってか、村の住民達はナキの方を見てざわついていた。
だがその表情は、どういう訳か驚きや困惑に染まっていた。
(一体何をさわいでるんだ?
あ、もしかして昨日思いっきり泣き倒したから、俺の顔ひどい事になってるかも……)
そんな事を考えながら井戸に到着し、空の桶を投げ入れ水を汲む。
そして桶に汲んだ水で顔を洗い、タオルで拭いた際にナキの顔が桶の水に映し出された。
水面に映し出さた顔を見た瞬間、思わず硬直した。
何故ならそこに映ったのは、自分の知っている顔ではなかったからだ。
「……ダレだ、これ?」
水面に映し出されたのは、光の加減によってはまるで星が輝いているように見える艶のあるミッドナイトブルーの髪に、鋭いながらもまるで始まりの世界の月を見ているかのような蒼銀の瞳、かつて元いた世界で時折見かけた白月のような肌の少年だった。
最初こそそれが誰なのか認識できなかったナキだったが、周りを見渡しすぐ近くに誰もいないことを確認する。
再度桶の水を覗き込み、水に触れようと手を動かすと、水面に映る少年は全く同じ動きをした。
その動きを見たナキは、ようやく水面に映し出された少年が自分だと認識した。
しばらく呆然としたナキだったが、自分の容姿が劇的に変わったと理解した瞬間、悲鳴を上げた。
「な、な、なんじゃこりゃあああああああああっ⁉」
たまらず上げられたナキの悲鳴には、ナキが無自覚に発生させた風の
村中に響き渡った結果、何事かと思った村の住民達が一斉に井戸の周辺に集まりだした。
「なんだなんだ?」
「何か起きたの?」
「あれ、こんな子いたっけ⁇」
「人間達の村の子じゃないか?」
「いや、これ程綺麗な子供は我らの村にはいなかったぞ」
ナキの悲鳴を聞いて集まった
対してナキは変わり果てた自分の姿に驚きを隠せず、只々水の桶に映る自分の姿を見るしかなかった。
(なんで⁈ 昨日までちゃんと黒カミ黒目だったのに!
っていうかたった一晩でここまで変わるかフツウ!)
「おーい、何かあったのかぁ?」
「朝から騒々しいわね!」
「一体どうしたの?」
「さっき凄いナキの悲鳴が聞こえてきたんだけど……」
ナキが自分の容姿が劇的に変わった事に動揺していると、ルオやアミ、獣人の子供達の声が聞こえて来た。
その中にクルークハイトの声もあったため、ナキはすぐさま背後を振り返った。
ナキの目の前には村中に響いた悲鳴を聞きつけて集まった獣人達の姿があり、その中にはクルークハイト達の姿もあった。
だが容姿が変わりすぎたせいで、他の村の住民同様、ナキが誰なのかを認識できないようだ。
「あら⁉ こんな美少年いたかしら⁉」
「俺知らないぜ?」
「僕も」
「私も」
「っていうか悲鳴を上げた本人は何処行った⁇」
(どうしよう、変わりすぎたせいで俺がダレか気付いてない!
でも説明しようにも原因がわからないし、どうやって証明したら良いんだ⁉)
なんとか自分がナキ本人だと証明したいが、想定外すぎる展開に解決策が思い浮かばないナキ。
そのせいで喋る余裕すらなく、うまく言葉が出てこない。
「ん〜、でも……」
「どうしたの、アミ?」
「この子、なんだか見覚えあるの」
「え、本当か?」
アネーロに聞かれながら、アミはナキの顔をじっと見つめる。
(うぅ、こんな時とはいえちょっと恥ずかしい……)
同年代の少女に間近で見つめられるという経験がなかったため、動揺しきっていたナキも少々恥ずかしがり、そのおかげもあってか少しだけ落ち着きを取り戻した。
その時、ローロの後ろに立っていたクルークハイトが言葉を発した。
「……もしかしてお前、ナキ⁉」
「「「……えぇっ⁉」」」
「そっか、だから見覚えがあったんだ~」
目の前にいる少年がナキだと判明した瞬間、その場にいた全員が驚きの声を上げた。
アミに至っては容姿が変わったナキの顔に見覚えがある理由がわかり、一人納得していた。
「え〜っと、本当にナキ君?」
「そう! そうだよ! 俺はナキだ!
間違いない!」
「物凄く必死だな〜」
クルークハイトが自分の名前を読んでくれたおかげで、ようやく喋る事ができたナキは必死にアミの質問に答えた。
あまりにも必死なナキの様子に、本人で間違いないと誰もが思い始めた。
「どうしちゃったんだよその格好、というよりも色!
昨日の夜まで黒色だったのに!」
「わからねぇよ! 朝起きて顔洗いに来た時にはもうこうなってたんだ!」
「だからって変わり過ぎにもほどがあるよ⁉
本当に心当たりとかはないのか⁉」
ナキ本人も全く心当たりがないため、どうしてこうなったのかと頭を抱えこむ。
現場が混乱している中、駆けつけたルオが場違いな言葉を口にした。
「とりあえず、イメチェンしようぜイメチェン!
髪型思い切って変えようぜ!」
「ルオさんはもう少し事態の深刻さを自覚しましょうね」
「でも確かに、髪型変えたらすっごい美少年感でてきそうね!」
「ローロちゃんもノリノリだねぇ」
「イヤイヤイヤイヤ自然に話題に変えるの止めてもらえる⁉」
ただでさえ混乱しているというのに、ルオの発言によって話の流れが何故ナキの容姿が劇的に変わったのかから、ナキの髪型をどう変えるかというものに変わり始めた。
ナキが必死に話の話題を変えるのを全力で阻止しようとしていると、その場にいなかったクライムが慌てた様子でやってきた。
「大変だ大変だ!」
「クライム、お前何処に行ってたんだ?」
「湖の方だよ! そしてお前は誰だ⁉」
「ナキだよ!
原因はわからないけど朝起きたらこんな事になってたんだ!」
慌てた様子で ナキ達の元にやって来たクライムに、対し自分がナキだと告げるナキ。
だがクライムが慌てていたため、何があったのかを尋ねた。
「それよりも何かあったのか?
物すごく慌ててたみたいだけど……」
「そう! そうなんだよ!
湖が大変な事になってるんだ!
早く来て!」
「湖で何が起きてるか気になるな、俺達も行ってみようぜ!」
「あ、こらっ! 待つんだルオ!」
「大変だ、あのままルオさんを行かせたら」
そこまで言うとクライムは人工湖に向かって走り出した。
人工湖に何が起きたのか気になったルオは、後先考えずそのままクライムの後を追い始めた。
先走ってしまったルオを追う形でフォディオとアネーロも人工湖に向かう。
自分の容姿が劇的に変わってしまった事も気になるが、人工湖が大変だというのでナキもクライムの後について走り出した。
それに続きクルークハイト、ティア達も人工湖に向かって走り出す。
人工湖に向かって走っている途中、先に向かったルオ達の声が聞こえて来た。
「うぉおーっ! なんじゃこりゃあーっ!」
「「本当になんじゃこりゃあーっ⁉」」
声の様子からして、何かに驚いているような様子だった。
ナキ達が人工湖に近づくに連れてミュアミュアと鳴き声のような物が聞こえて来る。
そして人工湖についた途端、驚きの光景が広がっていた。
「なんだコレ⁉」
「どうしたんだよナキ……うわっ!
湖岸がスライムだらけだ!」
「えぇ~⁈」
「わぁ、スライムが沢山いる……!」
ナキ達が目の当たりにしたのは、昨晩ナキとクルークハイトが話をしていた辺りの湖岸に大量のスライムが集まっているという信じられない光景だった。
そしてそこにはナキの悲鳴を聞いても姿を見なかったヴァンダルやクルークハイトの父親を含めた数人の獣人と、ナキが最初に接触した民族衣装を纏った人間達の姿があった。
「父さん、母さん! これどういう状況⁉」
「あら、クルークハイトも来たの?」
「俺達もつい先程知ったばかりだ、全く分からない」
「スライムが集まった原因も不明なのか。
こんな時に言うのもアレだけど、クルークハイトお前、やっぱり母親になんだな……」
「確かによく言われるけど、本当にこんな時に言われても困るよ……」
スライムが大量に集まっている光景に圧倒されながらも、ナキは始めてみるクルークハイトの母親を見て思わず感想を口にした。
父親とはピーコック色の瞳以外に親子要素がないのに対し、 母親とは顔とバーガンディー色の髪色が同じなのもあり、親子なのだとすぐに思ったのだ。
村での状況を知らないクルークハイトの父親、ランドはナキを不思議そうに見ていた。
「クルークハイト、隣にいるその子は誰だ?」
「ナキだよ父さん。どういう訳かナキの色が一晩で変わっちゃったんだ」
「……本当か?」
「クルークハイトの言った通り、俺はナキだよ。
色が変わった事に関しては俺が一番おどろいてるんだ……」
そう言いながらナキはクルークハイトが行った事を肯定した。
その途中、集まったスライム達の様子を確認していたヴァンダルがナキ達の元にやって来た。
「はぁ、やっと確認が終わった」
「ヴァンダルさん、このスライム達は結局なんなんです?」
「恐らく全部野生の、普通のスライム達だ。
目視しただけでもざっと五〇はいるぞ」
「なんでそんなに集まってるんだよ……」
五〇は集まっていると聞かされたナキ達は、何故そこまでの集まったんだと思いながらスライム達を見つめた。
特にナキは岩場に登り、スライム達をプルプル達が纏めているという光景に困惑していた。
そこでようやく、ヴァンダルが劇的な変化を遂げたナキに気付いた。
「ん? お前……まさか、坊主か⁉
どうしたその容姿は⁉」
「良かった、ヴァンダルさん気付いてくれた」
「朝起きたらカミとヒトミ、それから肌の色が変わってて、そしたら次にスライムの大量発生と来たもんだから」
「そ、そうか……。坊主、体調に変化はないか?
特に問題がないなら一先ずスライム達をどうするかを優先させてくれ、今はプルプルがスライム達を纏めているがずっとこのままって訳にもいかねぇ」
「まぁ、今はそっち優先するしかねぇよな……」
ナキの体調に変化がないという事はわかっているため、湖岸に集まったスライム達を優先する事になった。
流石のナキも放置する訳にはいかないという事はわかっていたため、反対する事はしなかった。
一方で、現在プルプルがまとめているスライム達は、その場で元気に跳ねたり鳴いたり、その光景を見ていた女性陣はなんやかんやで和んでいた。
「スライムって一応魔物だけど、凶暴じゃないし怖くわないわよね」
「むしろさわり心地が良くて、冷たくて気持ち良いし」
「この子達、どうするのかな?」
「なんやかんやで鳴き声も可愛いからお持ち帰りしたいわね。
プルプルみたいに従魔にできないかしら?」
「流石にこれだけの数は無理だよ、ローロちゃん」
そうやって女性陣が会話している間も、プルプルの先導のもと、スライム達が縦横一〇列に整列していき、最初よりもまとまりが出てきた。
「ミュウ! ミュミュウ、ミュウ!」
「ミュ〜ッ!」
「ミュアミュア」
「ノーン」
「今すっごい気の抜ける鳴き声しなかったか?」
「あれ?! 物すごく聞き覚えがある鳴き声が聞こえたような……」
スライム達の鳴き声の中にの気の抜ける鳴き声が聞こえたため、思わず反応するクルークハイト。
それはナキも同じだが、その鳴き声にとても聞き覚えがあったため驚きの声を上げる。
そんな時、スライム達を見ていたクライムが何かに気付いた。
「ちょっと待て、真ん中の辺り、一匹だけなんか持ってる奴がいる!」
「本当だ! あれってなんだろう?
なんか首飾りみたいに見えるな……」
「首かざり……もしかして!」
クライムとアネーロのやり取りを聞いたナキは、すぐさま中央にいるスライム達を確認する。
そしてクライムが言った通り、一匹だけ首飾りを持っているスライムが紛れていた。
だがそれは首飾りではなかったが、ナキにはとても見覚えのあるものだった。
スライムが持っているものの正体は、ブラッディ・ベアから逃げる際に失くしてしまった、ナキの懐中時計だった。
「あ、あぁーっ! 俺のカイチュウドケイ!」
「えぇーっ⁉」
「間違いないのか坊主⁉」
「あの
「なんでスライムがナキの懐中時計持ってるんだよ⁉」
「アイツ! あのカイチュウドケイを持ってるスライムだけこっちに連れてきてくれ!」
保護されてからずっと探し求めていた懐中時計が、突然集まったスライム達の内一体が持っていた事に困惑するナキ。
色々と疑問は残るものの、目の前に懐中時計があるため、それどころではなかった。
懐中時計を目の当たりにして興奮状態のナキを見たヴァンダルは、また勝手に動かれる訳にはいかないためプルプルの隣りにいるティアに指示を出した。
「ティア悪い! 今行ったスライムだけなんとか連れてこれないか⁉」
「プルプルにお願いしてみます!
プルプル、あの懐中時計を持ってるスライムだけヴァンダルさんの所に移動するよう指示を出してくれる?」
「ミュミュウ!
ミュミュミュ、ミューミュミュウ!」
「「「ミュミュウ!」」」
「ノーン」
「懐中時計を持ってるのはさっきの気の抜ける鳴き声のスライムだったのか!」
プルプルが指示を出すと同時に、整列していたスライム達が一部を除き左右に別れ、ナキの懐中時計を持つスライムが移動を開始した。
ただ懐中時計を持っていたのが、先程聞こえた間の抜けた鳴き声のスライムだったため、再度クルークハイトが反応してしまう。
ナキの懐中時計を持ったスライムがヴァンダルの近くまで来たところで、急に方向を変えナキの目の前に止まった。
「あれ? なんかわかんないけどこのスライム、ナキの前で止まったぞ?」
「ティア嬢ちゃん、ちゃんと指示は出したのか?」
「ちゃんとプルプルに伝えたので問題ないです!
プルプルもヴァンダルさんの所に行くよう指示を出したのにって言ってます!」
指定された指示を出したにも関わらず、何故かナキの懐中時計を持ったスライムがナキの方に行ってしまったため、全員困惑した。
だが、ナキは落ち着いた様子でスライムを見つめる。
するとスライムは持っていたナキの懐中時計を、ナキに差し出してきた。
「ノーン」
「その鳴き声、それに俺の前で止まったって事は、やっぱりお前、あの時のスライムか!」
「ノーン、ノーン」
目の前にいるスライムは、間の抜けた鳴き声を上げながら嬉しそうにナキの周りを飛び跳ねだした。
ナキのやり取りを見ていたクライムは、スライムについて尋ねた。
「なぁ、そのスライム知ってるのか?」
「知ってるも何も、俺が村にホゴされる前に会ったスライムなんだよ。
どういう訳かにげなかったし、こんな鳴き声のスライムを忘れる訳ねぇよ」
「顔見知りのスライムだっていうのわかったけど、なんでナキの懐中時計をこのスライムがもってたんだ?」
「時々時間を確かめててはいたから、その時に見たのかもしれないのはわかる。
でもなんで持ってるのかはさっぱりだな……」
何故気の抜ける鳴き声のスライムがナキの懐中時計を持っていたのか理由が分からず、ナキが頭を悩ませているとプルプルが近くまで来た気の抜ける鳴き声のスライムに声をかけた。
「ミュウミュウミュウ、ミュウミュ!」
「ノーン、ノンノーン?」
「やべぇ、何言ってるのかわかんねぇ」
「ティア、通訳頼めるか?」
「プルプル経由で聞いてみますね。
貴方はどうしてその懐中時計を持っていたの?
いつ拾ったかは覚えている?」
ティアは気の抜ける鳴き声のスライムに優しく語りかける。
すると気の抜ける鳴き声のスライムは、何かを訴えだした。
「ノーンノーン、ノンノンノーン、ノーンノーン」
「ミュミュウ、ミュウゥ、ミュウミュウ。
ミュミュミュ、ミューミュミュウ!」
「えーっと、
《お水が沢山お空から降っていた日だよ。
この子の所に遊びに行く時にこれを見つけたの。
うっかり落としちゃったんだと思って、届けに行ったの。
でもいつもいた場所にはこの子はいなくて、これを探しに行っちゃったんだって思ったんだ。
大事そうに持ってたの覚えてたから、返してあげようと思ってずっと探してたの》
……だって」
プルプル経由で確認した結果、気の抜ける鳴き声のスライムがナキの懐中時計を持っていた理由は、懐中時計をナキに返そうと探し回っていたからだという事がわかった。
それを聞いたヴァンダルや懐中時計をナキの代わりに探していた獣人達は、今まで懐中時計が見つからなかったのはこのスライムが持った状態で移乗し続けていたからだと納得した。
気の抜ける鳴き声のスライムは再度ナキの方に向き直り、懐中時計を差し出した。
「ノーン」
「ありがとう、このカイチュウドケイは俺の大事な宝物なんだ……」
「ノーンノーン♪」
ナキは気の抜ける鳴き声のスライムから懐中時計を受け取り、両手で覆う形で抱きしめた。
探し求めていた祖父との最後の思い出が詰まった懐中時計が、やっと自分の手元に戻ってきた安堵から笑みと涙がこぼれた。
ナキの笑顔を見た気の抜ける鳴き声のスライムは嬉しそうに跳ねる。
「とりあえず、一旦村の方に戻るぞ。
スライム達につられて他の魔物が集まってくるかもしれん」
「それはちょっと困りますね」
「じゃあスライム達連れて村に戻ろうぜ。
ティア、スライム達連れてこれるか?」
「このまま戻ったら普通に着いてきそうですもんね、この子達は私とプルプルで面倒見ますね。
皆ー、今から移動するから私の後に付いてきてねー」
「「「ミュミュー」」」
大量のスライム達が来た事により、他の魔物の出現を警戒したヴァンダルの提案で一度村に戻る事となった。
恐らくスライム達も着いてくるだろうと考え、ティアとプルプルが引率して連れ帰る事にもなった。
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