第30話 満たされた心

 ナキとクルークハイトは、探しに来たヴァンダルを含む村の大人達に保護され、大海たいかいの森から無事に帰還する事ができた。

 ナキは勢いのまま大海の森に飛び出し、クルークハイトは 精霊達が原因とはいえ大人達から離れてしまった事で大目玉を食らった。


 村に戻った後はフゥ族の薬師であるミンの手当を受け、クルークハイトは自宅で、ナキはフォディオの家で丸一刻ひとときを過ごす事になった。

 ナキは戻って来たという安心感からか、夜になるまでずっと眠っていた。


(ジゴウジトクとはいえ、生きて帰ってこれたのは本当に運が良かった。

 エンシェント・レビン古代の稲妻を成功させたにしろ、ブラッディ・ベアを倒すにしろ、セイレイ達が助けてくれなければ、あのリザードマンが現れなかった本当に死んでたかも

しれない)


 ナキはベッドで横になりながら、ブラッディ・ベアに襲われた時の事を思い出していた。

 実質、様々な運に恵まれていたからこそ助かったとも言えるため、ナキとしては反省が多い一刻ひとときだ。


 ベッドから起き上がり木の窓を開けて外を眺める。

 空に浮かぶあお色の満月が辺りを照らし、暗く感じる筈の周囲が明るく見えた。

 ナキはただ真っ直ぐに満月を見据えた。


(時々月をながめると落ち着く事はあったけど、こっち異世界に来てから余計に落ち着く。

 部屋で休んでろって言われたばっかりだけど、ちょっとだけ外に出よう)


 異世界ならではの特徴とも言える蒼色の満月をもう少し見たいという気持ちから、ナキは木の窓からこっそりと外に出た。

 そのままプラムの果樹が生えている広場に行こうかと考えたが、魔物が村に侵入してきても対応できるように見張りがいる事を思い出した。


(人がいたんじゃゆっくりながめられないや。

 それなら、湖の方に行こう。

 あそこなら村からそれほど離れてないし、きっと、月もきれいに見れる)


 そう考えたナキはフォディオの家の裏側からルオの願いによって精霊達に作られた人工湖に向かった。

 五刻ごきざみ程歩いてしばらくして、人工湖に着くと、蒼色の月明かりが水面に反射し、輝いていた。


 ここに来て正解だった、そう思ったナキは以前ルオに連れ出された時にバーベキューを行った場所にある岩場に座り、再度蒼色の満月を見上げた。


(やっぱり、月を見ると落ち着くな。

 昔、じいちゃんとお月見した時の事を思い出す……)


 蒼色の満月を見上げながら、亡き祖父との思い出に慕っていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「こんな所で何やってるんだ?」


「あれ? クルークハイト、なんでここに??」


 声を掛けてきたのは、自宅で寝ているはずのクルークハイトだった。

 クルークハイトはナキが座っている岩場によじ登ると、ナキの隣に座った。


「精霊達が俺のベッドを揺らして、俺の勉強道具を使ってナキがここにいるって教えてくれたんだ」


「勝手に家から出てきて良かったのか?」


「それはお互い様だろう?

 所で調子はどうだ、気分が悪くなってただろう?」


「ほぼ一日寝たおかげで、気分は良くなったよ。

 ……心配、かけたな」


 ナキは照れくさそうにクルークハイトに礼を告げた。

 元いた世界で周りから蔑ろにされてきたせいで、誰かに感謝の意を告げるという機会がなかった事もあり不慣れなのだ。


 ふとナキは、野営地跡でクルークハイトが、何故か自分がディオール王国に復讐しようとしている事を知っている事を思い出した。

 ブラッディ・ベアが現れた事でそれどころではなくなったが、再度尋ねる事にした。


「なぁ、ブラッディ・ベアが出てきて聞きそびれたけど、なんで俺がディオール王国にフクシュウしようとしてるのを知ってたんだ?」


 ナキにその事を尋ねられて、すっかり忘れていたという表情のクルークハイト。

 そこでクルークハイトは、意外な答えを言った。


「確かにそれどころじゃなくなって言えてなかったな。

 実は、今朝も言おうとしてたけど、結構前にナキが野営地で魔法の特訓をしているのを見つけたんだよ。

 それで何こくかの間観察してたんだ」


「そうだったのか⁉

 じゃああの時感じた視線は……」


「多分俺ので間違いないよ。

 あの時は雷の魔法、確かサンダー・ショット雷の小球だったかな?

 それを使われそうになった時は流石に肝を冷やしたよ」


 ナキはブラッディ・ベアに襲われる前に、クルークハイトが自分の事を見付けていた事に驚いた。


「村の連中には報告したのか?」


「しなかった。

 仮に報告しても無闇に近づくなって言われただろうし、捕まえる事ができたとしても暴れるだろうから報告しない方が良いかなと思って」


 そんな事を言いながら困った様子で笑うクルークハイトの反応に、ナキはなんと物好きなと呆れた様子だった。

 普通子供なら危険人物の事を大人に伝える所なのだ。

 クルークハイトは、話を続けた。


「ナキがブラッディ・ベアに襲われたっていう日に時間を置いてもう一度見に言った時に、ナキが倒れていたから流石に声をかけなきゃと思ったんだけど、急に『勝手に決めつけるなボケェエエエエエエッ!!』って叫びながら起き上がるから慌てて茂みに隠れたよ。

 それから凄い勢いで魔法を使い出したから、もう何が起きてるだって理解が追いつかなかったし」


 その証言から、クルークハイトが自分の事を見つけていたというのが本当だと確信したナキ。

 今の証言からして、恐らくエンシェント・レビンの練習中に一度気絶した後の事だというのもわかった。


 実際の所、ディオール王国にいる優達への復讐心から、自分が何を言っていたのか覚えていなかった。

 もしかすると覚えていないだけで、その時にディオール王国に関する事を口にしていたのかもしれない。


「もしかしてその時に、ディオール王国関連の言葉を聞いてたのか?」


「えーっと確か、

『何が毎回百点が取れないだ!

 何がウザいだナマイキだ!

 俺は何も壊してないし何をやってもダメダメじゃねぇよ!

 百点取れないできる事ができない目つきが悪い物壊したとかでウザい生意気才能無しって決めつけやがってぇっ!

 許さない許さない許さない許さないっ!


 俺に濡れ衣を着せたクラスの奴らも!

 それを鵜呑みにして大海の森に放り出したディオール王国の国王も皇太子も!

 勝手に呼び出しておいて適正がないとか言った挙げ句元の世界に帰れるって嘘着いた神官長も月の至高神しこうしんも!

 何より俺がだけ酷い目に合う原因になった優も絶対に許さない‼


 絶対絶対復讐してやるぅううううううっ!!』


 ……って鬼気迫る勢いで言ってた」


「そんな細かく覚えてなくても……」


 気絶した時に見た悪夢の影響で凄まじいストレスを受けた時に口走った内容を細かく覚えられていたため、思わず顔を引きつらせた。


 だがやはり、覚えていなかっただけでディオール王国という言葉を口にしていた事はわかった。

 それと同時に、元いた世界という重要な言葉も口にしていた事に今始めて気付いた。


(今は気を使ってくれてるのか聞いてこないけど、ごまかしは効かないかも……)


「兎に角、凄すぎて離れないとこれは危ないって思ったから、村に引き返したんだ。

 だけど引き返してる途中で体が勝手に動いて、元来た道をまた引き返し始めたんだよ」


「そうなのか?」


「今思うと、精霊達が俺の事に気付いてやった事だったんだな。

 そうじゃなきゃ目の前に血塗れになったナキを見つけるなんて展開にならないよ」


 今朝のように精霊達によって自分のもとに連れてこられた事があるというクルークハイトの言葉に、ナキは思わず反応した。

 クルークハイトが同じ事を二回も経験していた事にも驚きだったが、それを聞いてある事に気付いた。


「もしかして、急性マナ過多症で死にかけた時に俺を見つけてくれたのは……」


「うん、俺だよ」


 クルークハイトは困った様子でそう答えた。

 ナキは信じられないと言った様子だった。

 てっきり急性魔力マナ過多症で死にかけた自分を見つけたのはヴァンダルだと思っていたため、クルークハイトだとは思っても見なかったのだ。


 周囲に精霊がいたにしても、その力が何処まで万能なのかわからないし、人間に起こる病気を直せるのかもわからない。

 何よりその時のナキはかなり荒れていたため、クルークハイトがすんなりと助けるとは思えなかった。


「俺にマホウでコウゲキされるかもって思わなかったのか?」


「思ったよ、でもとてもじゃないけど魔法を使えるようには見えなかったし、むしろ死にかけてたからほっといたら死んじゃうって思った。

 だから必死に背負って、村まで運んだんだ」


「お人好しにも程があるだろ……」


 このままでは死んでしまうかもしれないと思ったため、自分を助ける事にしたと聞いたナキは、その理由に呆れ果てていた。


 もし急性魔力過多症を起こしておらず、魔法が使える状態であったなら、間違いなくクルークハイトを魔法で攻撃している自信があった。


 世の中が以下に理不尽であるかを身をもって知っていたため、なおさらそう思ったが、次のクルークハイトの発言で助けた理由を知る事になった。


「それに俺達も、ディオール王国に追われて逃げてきたから気になって……」


「ディオール王国に追われただって⁉

 しかも俺達って事は、村の連中全員がか⁉」


 クルークハイト達がディオール王国に追われて逃げて来たと聞いたナキは、自分と同じディオール王国の被害者だったとは思っても見なかった。

 クルークハイトは話を続けた。


「元々、大海の森のもう少し浅い所にある村で過ごしてたんだ。

 けど二年前にディオール王国の人間達がマオ族の村を襲撃したんだ。

 その時に逃げられたのはレーヴォチカを含めてたったの五人、レーヴォチカは両親がディオール王国に捕まってお祖母さんを失くしちゃったんだ」


「アイツ、ばあちゃんをなくしてたのか……」


「レーヴォチカだけじゃないんだ、これからどうするかって話し合ってる時に、村の周囲の見回りに行っていたイーサンのお父さんが亡くなったんだ。


 見回りの最中に近くまで来ていたディオール王国の兵士に捕まって、村の場所を聞き出そうといたぶられたみたいで、体はボロボロで、そのまま捨てられてるのを見つかったんだ。

 それがきっかけで、俺達は村を捨てて大海の森の奥に逃げたんだ。


 その途中でフェイリース付近の平原で暮らしてたけどディオール王国に襲撃されて逃げて来たアミ達の狐族と合流して、ここに新しい村を作ったんだ。


 でもそんな簡単に上手くは行かなくて、近くに俺達と同じように追われて来た人間達の村があって、食糧問題が起きたりルオさんが首突っ込んで命の危機に晒されたりで、もう本当に大変だった」


 クルークハイトは、暗い表情でディオール王国との関係と自分達がここで暮らす事となった経緯を話した。

 クルークハイトの話を聞いたナキは、想定外の事に動揺を隠しきれなかった。


(平おんに過ごしてたのに突然おそわれて、大切な人を殺されうばわれた挙げ句、こきょうをおわれた。

 やっと安住の地を見つけたと思ったら今度は他種族とのもめごとまで起きた。


 今やっと落ち着いて過ごせるようになったけど、こんな深い所まで逃げてこないといけないなんて、俺の時よりもひど過ぎる……)


 ナキは身動きがとれない状況で大海の森に追放され、その後スターリットに保護されたため、まだ幸運の方だった。

 けれどもクルークハイト達の場合は頼る宛もなく、自力で自分達が安心して暮らせる場所まで移動する必要があった。


 それだけでなく、同じ被害者だと言うのに種族の問題まで出てくるとなれば、より一層苦労はます。

 その事を考えると、ナキは自分がされた仕打ちが大したことがないように思えた。


「だからナキの口からディオール王国って言葉が出てきた時には驚いて、それに神様まで絡んでるみたいだし……。

 もしかしたらディオール王国が何を考えているのか知ってるんじゃないかって思ったんだ。

 差し支えなければ教えてほしい、なんで俺達があんな目に合わなきゃいけなかったのか知りたいんだ」


 クルークハイトは真剣な表情でナキに尋ねた。

 何故平穏に暮らしていた自分達が追われ、大切な人を失わなくてはいけなかったのか、その理由を知りたいという言葉に嘘偽りはないとわかった。


 そんなクルークハイトの思いを知ったナキは悩んだ。

 ディオール王国の内情を話すという事は、自分の出自を話さなければいけなくなる。

 しばらく悩んだ末、ナキは全てを話す事にした。


「俺の本当の名前は、才賀さいがナキ」


「サイガ? ナキの名前はナキだろう?

 それにルオさんが初めて連れ出した時に確かカムクラって……」


「正確に言うなら神座かむくらの部分がウソなんだ。

 ディオール王国にショウカンされた時から、じいちゃんの姓を名乗ってる」


「ショウカン?? 何言ってるんだ??」


「信じられないだろうけど、俺はこことは別の世界からディオール王国にショウカンされたんだ」


 そこからナキは、始まりの世界に来てからのことを話し始めた。

 優の隣りにいた事で召喚に巻き込まれた事。

 同級生達によって無実の罪を着せられ、ディオール王国の国王と王太子により大海の森に追放された事。


 一人必死に大海の森で生き抜いていた事。

 そして保護された後半ノ月はんのつき眠り続け、目覚めた後に元いた世界に帰れないとわかった事。

 そしてそこから優達に復讐するためだけに知識をつけ、保護者アリョーシャの元を脱走した事までの事全てを話した。


 ナキの話を聞いていたクルークハイトは、その内容に耳を疑ったが、どこか納得したような表情だった。


「あの時言った元いた世界っていう言葉はそういう意味だったのか。

 じゃあ、あの時ドクヤマドリに気付いたり、魚の串焼きを作る手際が良かったのも?」


「それはどちらかというと、死んだじいちゃんのおかげだ。

 じいちゃんが生前、色んな事を教えてくれたおかげで、大海の森に放り出されたばかりの頃でも冷静に判だんで来たんだ。

 じいちゃんだけが、俺の味方だった」


「おじいさんだけが味方?

 お父さんとお母さんは? 友達だっているだろう?」


「……友達なんて一人もいないし、親にはコロされかけた」


「ころ、待って、今かなり衝撃的な言葉が聞こえたけど⁉」


 さり気なくナキの人間関係を聞いたつもりが、親に殺されかけたという衝撃の言葉が出てきたためクルークハイトはかなり困惑していた。

 ナキは元いた世界での自分が置かれていた環境を事細かく話し始めた。


「物心ついた時から、親もふくめて周りは皆、優ばかりを優先してたんだ。

 大人にほめてもらったり、友達を作ろうにも興味を持たれるどころか、むしろケンオの対象として認識されて、とことん嫌われてた。


 周りに認めてもらおうと必死に勉強したし、運動だってがんばったし、指摘された悪いところも全部直した。

 それでも、誰も話を聞いてくれなかったし、認めてくれなくて……。

 着いたあだ名が才能なし。


 優に至ってはそりゃあ見かけは良いだろうけど、色々ぶつかって物こわしたり失くしたり、優がやらかした事全部が俺のせいにされてんだ。

 しかも俺が持ってたものを勝手に持ってさも当たり前のように自分の物みたいに言うし、俺が返せって言ったら周りが文句行ってくるから何度あきらめる羽目になった事か……。


 六才の頃にはじいちゃんから借りた単眼鏡の取り合いになった時に同級生に突き飛ばされて車に引かれそうになったりもした。

 きわめつけは、七才の誕生日だな。


 七才になる前にカゼを引いたんだ、でも親は病院に連れて行ってくれるどころか市販の薬も飲ませてくれなかったんだ。

 仕方なく悪化しないようにしながら学校に行ってたんだけど、そこでも誰も心配してくれなくてないがしろにされた。


 無理したせいでカゼをこじらせて、肺炎っていう病気になっちゃったんだ。

 それで七才の誕生日当日にもう一度母親に病院に連れて行ってくれって頼んだ、けど逆ギレされてそのまま自分の部屋に閉じ込められた。


 閉じ込められた挙げ句、そのまま当時の同級生を呼んで優だけを祝う誕生日パーティが始められたんだ。

 普通ならにぎやかで楽しんだろうけど、部屋に閉じ込められて死にかけの俺にとって、物すごく苦痛だった。


 テストで百点を取った時にほめてくれたのも、手伝いをがんばった時にお礼を言ってくれたのも、誕生日を祝ってくれたのも死にかけた俺を心配して助けてくれたのじいちゃんだけだった!」


 ナキは覚えている限りの仕打ちを洗いざらい話し、叫ぶようにしてクルークハイトに聞かせた。

 ナキの話を聞いていたクルークハイトは、表情を青くしながらこう言った。


「なんだよそれ、それって可笑しいよ!

 実の親が子供を見捨てるなんてありえないし、誰もナキの事、見てないじゃないか!

 そんなの周りが可笑しいよ!」


「……本当に?」


「本当だよ! むしろ頑張り過ぎだよ!

 それだけ頑張ったんだ、褒められたって可笑しくない!

 ナキはよく頑張ったよ!」


 これまで何度周りに訴えかけても、誰も耳を傾けてはくれず、自分を見てくれる存在はいなかった。

 けれども今、ナキの隣にはナキの言葉に耳を傾け、見てくれる存在がいる。


 そしてナキの言葉に耳を傾けた事で、いかにナキを取り巻く環境が歪だったかをクルークハイトは知った。

 それと同時に、いかにナキが頑張り過ぎて来たかを理解した。

 だからこそ、クルークハイトは言葉を紡いだ。


「ナキは誰よりも努力家で、誰よりも賢くて、時々先走る事はあるけどそれは誰よりも認めてほしいって現れなんだよ。

 これだけは言える、ナキは元いた世界の誰よりも頑張った‼」


 クルークハイトはいかにナキが努力してきたかを、素直に認めた。

 クルークハイトに自分の努力が認められたナキは、初めて自分の努力が認められた事に気付いた。

 それを自覚した瞬間、ナキの瞳から涙が溢れた。


「おっおい、どうしたんだ⁉」


「あっあれ? なんか涙が勝手に、あれ?

 あれ??」


 突然出てきた涙に困惑するナキ。

 何故涙が出て来たのか理解できず混乱するが、心に空いていた穴が満たされたような気がした。

 それからすぐに、心の奥底に押し込んでいた様々な思いが溢れ出した。


「うぅ、うわぁあああああああああっ!」


 ナキはそのまま声を上げて泣き出した。

 心の底から泣いたのは、唯一の味方だった祖父が亡くなった時だけ。

 それ以降、周りの仕打ちに負けぬよう耐え忍んできた。


 だがそれは子供のナキにとっての必死の抵抗、祖父に心配をかけまいという強がりだった。

 ここで初めて、何故自分があれほど優達に対して復讐したいと思ったのかを理解した。


(優達を許せなかった理由がやっとわかった、ダレも俺自身を見てくれなかったからだ)


 努力を続けていれば、いつか周りから認めてもらえるのではないかという、諦めた筈の淡い期待を抱いていた。

 しかし、最後まで認められる事なく、優のおじゃま虫、醜い子、才能なしとしか見られずナキ個人は見られなかった。


 始まりの世界に連れて駆られ、元の世界に帰れないとわかった瞬間、これまでの自分の努力を踏みにじられたようでならなかったのだ。

 けれども、クルークハイトに初めて認められた事で、心は満たされた。


 ナキの心情を察してか、クルークハイトは無言でナキの背中をさする。

 クルークハイトなりの気遣いだろう。

 不意に、ナキは祖父に言われた事を思い出した。


『ナキ、これだけは忘れるな。努力は必ず報われる。

 本当のナキをちゃんと見てくれる友がきっと現れる』


(じいちゃん、じいちゃんが言ってた通りになったよ。

 俺の事を見てくれる友達が見つかったよ)


 この夜、ナキは初めて友達ができた。

 思う存分泣いた後、ナキとクルークハイトは帰路につき、大人にバレる前にこっそりた家に帰って眠りについた。

 そしてその翌朝……。


「な、な、なんじゃこりゃああああああああああああああっ⁉」


 村にいた誰もが予想だにしない事が起こり、たまらず悲鳴を上げるナキの姿が、そこにあった。

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