第28話 解禁=リベンジマッチ

 ブラッディ・ベアに追い詰められ、クルークハイトがピンチに陥った時、ナキは無意識に魔法を発動させた。

 その事からナキは損傷した魔力回路マリョクカイロが完治した事に気付き、ブラッディ・ベアへの逃げる必要はないとわかると、ブラッディ・ベアと戦う意思を見出した。


「(マホウが使えるなら倒せなくても時間はかせげる、その間にセイレイ達がヴァンダルのおっさんを連れてきてくれればショウキはある!

 でもその前に!)

 〝アイス・ウォール氷の壁〟!」


 魔法が使えるとわかったナキは、すぐさま自分とは反対側にいるクルークハイトを囲うようにしてアイス・ウォールを発動させた。


(可能な限りマナは込めた、これで少しはクルークハイトの安全は確保できる。

 あとはおっさんが来てくれるまでブラッディ・ベアの注意を俺に引きつける。

 俺自身が倒す必要はない、俺が今するべき事は時間をかせぐ事!)


 最初にブラッディ・ベアと遭遇した時は優達への復讐で頭が一杯になっていた。

 だが保護された村で過ごす内に落ち着きを取り戻し、冷静に自分がどう動くべきかわかっていた。


「(弱点は間ちがいなく氷、マリョクが乱れていたとはいえちゃんと効いていた。

 氷以外に効くゾクセイはないか、試して見る価値はある!) 

フレイム・ショット炎の小球!〟」


 氷以外にも効果がある属性はないかを確かめるべく、ナキは発動させた魔球の中からフレイム・ショットを選び、ブラッディ・ベアに向けて飛ばす。


 フレイム・ショットはブラッディ・ベアに直撃こそしたものの、ほぼ効いていないように見えた。

 ブラッディ・ベアも怯んでいる気配は見られない。


「(やっぱり炎は効かないか、それなら次だ!)

 〝サンダー・ショット雷の小球〟!」


 炎が効かないとわかり、ナキはすぐに次の魔球を飛ばした。

 サンダー・ショットもあまり効いていないようだが、雷から発せられる光が眩しかったのか、ブラッディ・ベアは右前足で目元をこすった。


(雷は目くらまし程度には通じるか、次の〝ウィンド・ショット風の小球〟で確認は最後だ)


「ナキ、危ない!」


 サンダー・ショットの効き目を確認したナキは、最後の魔球を試そうとそちらに意識を向ける。

 その時、アイス・ウォールに守られているクルークハイトの声が聞こえてきた。


 その声を聞いたナキはすぐさま身体強化ブーストで身体能力を上げて後方に飛び退いた。

 直後、ナキが先程まで立っていた場所にブラッディ・ベアの右手が地面にめり込んだ。


「あっぶねぇ! やっぱり攻撃を一度でも喰らったら終わりじゃねぇか!

(クルークハイトが声を掛けてくれなかったら本当に終わってた、一瞬でも気が抜けねぇ!)」


 改めてブラッディ・ベアの攻撃を目の当たりにしたナキは、その攻撃が自分にとっていかに危険すぎるか改めて再認識した。


「グルォオオオオオオッ!」


「気を付けろ! また動き出すぞ!」


「そのままこっちを見ろ、お前の相手はこの俺だ!」


 ナキの魔球を立て続けに喰らった事で、クルークハイトから完全に意識をそらしたブラッディ・ベア。

 次なる標的は、勿論目の前にいるナキだ。


 だが、ナキだってそう簡単にやられるつもりはないし、倒すつもりもない。

 ナキの目的はあくまでクルークハイトを守りつつ、精霊達がヴァンダルを連れてくるまでの時間を稼ぐ事だ。


「さぁ、リベンジマッチを始めようぜ!

 〝ウィンド・ショット〟!」


 ブラッディ・ベアの注意が完全に自分に向いた事を確認したナキは、すぐさまウィンド・ショットを放つ。

 ウィンド・ショットによる風の魔球の一部はブラッディ・ベアの腹部に直撃し、そのままブラッディ・ベアは仰向けに倒れた。


(サンダー・ショット同様あまりダメージは入ってないけど、転倒させるくらいはできそうだ。

 氷マホウを主ジクに雷と風でフォローする形で戦えば、問題なさそうだ)


 これまで放った魔球を受けた直後のブラッディ・ベアの様子を確認したナキは、対ブラッディ・ベア用の戦い方を考えついた。


「(今の俺が使えるマホウで、今の俺ができるハンイでできる事を!)

 〝氷よ、弾丸となりて敵を貫け。アイス・バレット氷の弾丸!〟」


 ナキは瞬時にアイス・バレットを発動し、氷の魔弾を大量に作り出す。


「これがナキの魔法? 凄い量の氷だ……」


 ナキが魔法を使う所を目撃したクルークハイトは、ナキが作り出したアイス・バレットの量を見て驚いていた。

 その理由は、ナキが作り出したアイス・バレットの量が見ただけでも百は超えていたからだ。


「行くぞっ!」


「グルゥアッ!」


 ナキはブラッディ・ベアに向かって六〇程のアイス・バレットを放った。

 その速さは最初にブラッディ・ベアと遭遇した時よりも早く、威力も桁違いなものとなっていた。


 凄まじい勢いでアイス・バレットの雨が降り注ぎ、ブラッディ・ベアも思わず防御体制を取る。

 アイス・バレットの雨が一時的に止む頃には、ブラッディ・ベアの体に所々かすり傷が出来上がっていた。


「あれだけのイリョクでかすり傷だけかよ……」


「あんなに凄い魔法でも、あの程度の傷しかつけられないなんて……」


「ガルァアッ!」


「(コウゲキがやんだのを確認して突進してきたか、それなら……)

 〝風よ、我を囲う柵になりたまえ。ウィンド・フェンス風の柵!〟」


 ブラッディ・ベアが突撃してくる様子を見たナキは、瞬時に詠唱を唱えウィンド・フェンスを発動させる。

 ナキがウィンド・フェンスを発動する際、ちょっとした工夫をこらしていた。


 ナキが発動させたウィンド・フェンスは、突撃してきたブラッディ・ベアの周囲を囲い、ブラッディ・ベアを中心に範囲を狭めた。

 ウィンド・フェンスはそのままブラッディ・ベアを閉じ込める檻と化したのだ。


「ガゥアゥッ⁉ グルゥアウッ!」


「魔法でブラッディ・ベアを捕まえた⁉」


「(ウィンド・フェンスがコワれない内に少しでも大きなダメージを!)

 〝氷塊よ、敵を穿うがち薙ぎ払う槍となれ。アイシクル・ランス氷柱の騎槍〟!」


 ウィンド・フェンスを突破される前に、ナキはアイシクル・ランスの詠唱を唱え二〇本の氷の槍を呼び出した。

 ナキは右手を上げてアイシクル・ランスを操作し、穂先をブラッディ・ベアに向ける。

 そして全ての氷の槍で全体的にブラッディ・ベアを取り囲む。


「コイツで、動けなくなってろ!」


 ナキは上げていた右手を勢いよく振り下げる。

 それと同時に氷の槍全てがブラッディ・ベア目掛け放たれ、ブラッディ・ベアに突き刺さる。


「グゥアアアアアアアアッ!」


 二〇本もある氷の魔槍に穿たれたブラッディ・ベアは、その場で痙攣を起こし動きを止める。


「やった、ブラッディ・ベアが動きを止めた!」


(アイス・バレットとちがってまともな傷を付ける事は出来た。

 コイツブラッディ・ベアにとってはたいした傷にはならないだろうけど……)


 アイシクル・ランスがブラッディ・ベアに突き刺さり、動きを止めた様子を見たクルークハイトは喜びの表情をしたが、ナキは未だに警戒していた。

 十六こく前に襲われた時の恐怖が残っているのもあるが、災害級である以上警戒するに越した事はない。


「今の内に少しでも弱らせておかないと、〝氷塊よ、的を穿ち薙ぎ払う槍となれ、アイシクル・ランス!〟」


 いつヴァンダルが到着するか分からない今、少しでも長く時間を稼ぐためにもブラッディ・ベアを弱らせておく事にしたナキは、再びアイシクル・ランスを発動させ二〇本の氷の槍を呼び出す。


「コイツで、どうだ⁉」


 ナキは痙攣しながら動けないでいるブラッディ・ベアに全ての氷の槍を放つ。

 アイシクル・ランスは問題なくブラッディ・ベアに刺さり、ブラッディ・ベアはそのまま痙攣をやめ動きを止めた。


「動かなく、なった……?」


「ナキ、どうしたんだ?

 ここからじゃよく見えないから分からないんだ、ブラッディ・ベアは⁇」


「それが急に動かなくなったんだ。

 絶命したとは思えないから、多分気絶しただけなのかもしれないけど……」


 アイス・ウォールの中にいるクルークハイトにそう説明しながら、ウィンド・フェンスで封じされているブラッディ・ベアを見据えた。

 災害級である以上、絶命するとは思えなかったため確認しようとブラッディ・ベアに近付こうとした。


「ナキ、近付いたら危ないぞ⁉」


「分かってる! すぐに逃げれるように間近までには行かないようにするさ!」


 ナキはクルークハイトに宣言した通り、すぐ近くまでに行く事なくブラッディ・ベアの様子を確認した。

 ブラッディ・ベアの目は半開き状態であり、矢張り動く気配がない。


(やっぱり動き気配はない、というよりか息をしていない?ようにも見えるな。

 念のために〝アイス・フェンス氷の柵〟で拘束を強くしておいた方が良いな)


 万が一ブラッディ・ベアが動き出した時のために、ナキはアイス・フェンスでブラッディ・ベアの拘束力を強めておこうと考え、アイス・フェンスの詠唱を唱えようとした瞬間、突然誰かが喋る声が聞こえてきた。


「…ニ………タ……イ……」


「ん? なんだ? クルークハイト、何か言ったか?」


「え、何も言ってないけど?」


「ニ…ア……ク……ベル……」


「ちょっと待て、じゃあこのしゃべり声はどこから聞こえてくるんだ?」


 ナキは聞こえて喋り声が何処から聞こえてくるのかという疑問が芽生えた。

 周囲を見渡しながら声が聞こえてくる場所を突き止めようとするが、中途半端に聞こえるせいで特定できない。


(少なくとも、こんな声村では聞いた覚えがないから外部の奴なのは確か。

 どこだ、どこにいる?)


 声の主が何処にいるのか特定しようと体を少しずつ回転させる。

 ナキがブラッディ・ベアに背を向けた瞬間、半開きだったブラッディ・ベアの目が開き、背中を向けているナキに視線を向けた。


 その異変に気付いたクルークハイトは、ブラッディ・ベアの意識が回復したのだと思い、大声でナキに危険を知らせた。


「ナキ、後ろーっ!」


 クルークハイトの警告に反応したナキは、すぐさま後ろを振り向いてブラッディ・ベアを見る。

 そこには先程戦った時と明らかに雰囲気が違うブラッディ・ベアが、口元からよだれを垂らしながらナキを見ていた。


「コイツ、意識が戻ったのか?!」


「肉、肉、肉ゥウウウウウウウッ‼」


「〝ウィンド風よ!〟」


 ブラッディ・ベアはウィンド・フェンスによる拘束を破壊し、そのままナキ目掛けて突進した。

 ナキは咄嗟にウィンドで空中に避難し事なきを得たが、ブラッディ・ベアはアイシクル・ウォールにいるクルークハイトに突撃し、アイス・ウォールに激突した。


「うわぁーっ!」


「しまった、クルークハイトの方にブラッディ・ベアが!

 〝アイス・バレット!〟 コッチだデカ物!」


 ナキはすぐさま無詠唱でアイス・バレットを発動させ、一〇発の氷の弾丸をブラッディ・ベアの背中目掛けて撃ち、直撃させる。

 その甲斐もあってか、ブラッディ・ベアは空中にいるナキに視線を向ける。

 ナキも空中から地面に着地し、ブラッディ・ベアを見据える。


「(さっきのトツゲキでアイス・ウォールにヒビが入っている。

 マナを可能な限り込めたとはいえ下級ボウギョマホウじゃたかがしれてる)

 急いで修復して守りを固めないと……!」


 クルークハイトを守るアイス・ウォールに亀裂が入っているのを見たナキは、一刻いっこくも早くアイス・ウォールを修復し、クルークハイトの守りを固めなければと焦りそうなる。

 だがそこで、ナキにとってもクルークハイトにとっても予想だにしていなかった事が起きた。


「肉、肉……、肉ガ、二ツモアル……」


「へ? ……はぁーっ⁉」


「え? え⁉ ブラッディ・ベアが喋ったぁ⁉」


 なんと、二人の目の前にいるブラッディ・ベアが喋るという信じられない事が起きたのだ。

 これには流石のナキも驚かずにはいられず、思わず気が動転する。


「どういう事だよ、マモノがしゃべるなんて聞いてないぞ⁉」


「オ前、美味ソウナ匂イガスル……」


「美味そうって言われても、うれしかねぇよ!」


「オ前、美味ソウ。オデ、オ前、喰ベル。

 ソノ後デ、後シロノ奴モ変ナ岩カラ取リ出シテ、喰ベル」


「ナキ、コイツさっきよりもなんかヤバいぞ⁉」


 片言とはいえ突然喋り出したブラッディ・ベアに危機感を抱いたクルークハイトは、心配そうにナキに声を掛ける。

 それに関してはナキも自覚しており、先程までの余裕はなくなっていた。


(なんだコイツ、さっきまでとフンイキがちがい過ぎる。

 なんでか分からないけど、“コイツは今ここで倒さないと取り返しが付かない”気がする、おっさんの到着を待ってるだけの余ユウはない!)


 ブラッディ・ベアの様子が明らかに変わったのを見たナキは、ヴァンダルの到着を待ってはいられないと判断した。

 何故そう感じたのか分からないが、ブラッディ・ベアをこの場で倒さなければ取り返しが付かない事になる、そう考えずにはいられなかった。


「(コイツをこの場所百合畑からはなれさせたらアウトだ!)

 〝アイス・フェンス氷の柵〟、〝ウィンド・フェンス〟、〝サンダー・フェンス雷の柵〟!」


 ブラッディ・ベアを百合畑からはなれさせる訳にはいかない以上、ナキは外側から氷、風、雷の順にフェンス系統の防御魔法を詠唱なしで発動し、自分やクルークハイトを含めたブラッディ・ベアを百合畑に閉じ込めた。


 ナキからすれば気休めにもならないが、それでも何もしないよりかはマシだった。

 だが、絶対にこの魔物ブラッディ・ベアを解き放ってはいけないという使命感が、ナキの中にあった。


「(アイツをクルークハイトから引きはなしてアイス・ウォールを修復しないと!)

〝フレイム・ショット〟! それっ!」


 ナキはクルークハイトを守るアイス・ウォールを修復するべく、ブラッディ・ベアを引き離す事にした。

 無詠唱でフレイム・ショットを発動し三発の炎の魔球を呼び出し、ブラッディ・ベアに放ち挑発する。

 フレイム・ショットを受けたブラッディ・ベアだが、物ともしていなかった。


「今ノ、効カナイ。腹滅ッタ、オデ、オ前、喰ウ!」


 ナキの挑発に乗ったブラッディ・ベアは、ナキ目掛けて突進する。

 ブラッディ・ベアが挑発に乗り、ブラッディ・ベアがクルークハイトから充分はなれた事を確認したナキはすぐに行動に出た。


「〝雷よ、やじりとなりて敵を射貫け。サンダー・アロー雷の矢!〟」


 今度は早口口調でサンダー・ショットの詠唱を唱え、雷の魔矢を二つ呼び出し、それをブラッディ・ベア目掛けて放つ。

 雷属性の魔法が効きにくい事はナキも分かっている。


 だが目眩ましになる事は、最初に氷以外で効く属性があるのかという確認で分かってもいた。

 ナキが放ったサンダー・ショットには、可能な限り魔力マナが込められている。

 放たれたサンダー・ショットは、ブラッディ・ベアの左目に一直線に飛んでいき、直撃すると同時に強烈な閃光を放った。


「グゥアアアアアアアアッ⁉」


「〝アイス!〟」


 サンダー・ショットの強烈な閃光を零距離で目視した事で、左目が眩みブラッディ・ベアが怯んだ隙に、ナキは氷の単体魔法をブラッディ・ベアの足下目掛け発動させ、足を固定する。

 それを確認するとナキは、急いでクルークハイトの元に向かった。


「クルークハイト、ブジだな? 待ってろ、今アイス・ウォールを修復するからな!」


 クルークハイトの元に辿り着いたナキは、アイス・ウォールに手を当てると魔力を注ぎ込み始めた。

 ナキが魔力を注ぎ込み始めた影響により、アイス・ウォールに入った亀裂が修復し始めた。


「ナキ、大丈夫か⁉ っというか、あのブラッディ・ベアどうなってるんだ⁈」


「わからない、ただアイツを逃がすと色々取り返しが付かなくなる、そんな気がしてならないんだ」


 ナキはアイス・ウォールを修復しながら、クルークハイトにそう告げた。

 ブラッディ・ベアの中で何かしらの変化が起き、それがどういう物なのか分からない以上放置する訳にはいかない。


 そんな正体不明な物に手を出したくはないナキだが、放置した事で最悪の展開になる事の方が怖かった。

 もう少しでアイス・ウォールの修復が完了しそうになった時、背後から何かが割れる音が聞こえた気がした。


「パキ?」


「ナキ! 伏せろ‼」


 何かが割れる音に気を取られたナキだったが、クルークハイトが顔面蒼白になりながらナキに伏せるように告げると同時に身を伏せる。

 その様子からただ事ではないと悟ったナキは、すぐに体全体を地面に着ける形で伏せる。


 その直後、二人の頭上を何かが通り過ぎた。

 それと同時に修復していたアイス・ウォールが砕けてしまった。


「アイス・ウォールが⁉」


「起き上がっちゃダメだナキ‼」


 もう少しで修復できそうだったアイス・ウォールが砕けた事に驚いたナキは思わず上半身を起こしたが、それに反応したクルークハイトが起き上がって飛びかかる形で身を伏せさせる。


 ナキは押し倒される形で仰向けに倒れたが、その際に自分の頭上に赤い炎が通り過ぎる光景が見た。

 二人はすぐに起き上がってブラッディ・ベアの方を見ると、ブラッディ・ベアの右前足に炎が灯っていた。


「あれは、炎⁉

 まさかアイツ、マホウを使えるようになったのか⁉」


「ナキがアイス・ウォールを直してる最中に右手が燃えだしたんだ!

 そのまま足元の氷を壊して、こっちに殴りかかってきた、で、良いのかな?」


 クルークハイトは表現の仕方に少々困りながらも、ブラッディ・ベアに起きた事をナキに伝えた。

 一方でブラッディ・ベアは、自身の右前足に灯る炎がなんなのかを理解していないようだった。


「ナンダコレ? 良ク、ワカラナイ、ケド、ナンダカ、便利ソウダナ」


「え、今ブラッディ・ベアが笑った……⁉」


「いよいよ本格的にまずい状況になってきたな……」


 自身の魔法の炎を見ながら笑うブラッディ・ベアを目の当たりにしたナキは、早急に決着を付ける必要があると感じた。


(どうする? どう考えてもおっさんを待ってる時間はない。

 かといって俺のマホウの練度じゃコイツに十分なダメージを与える事は出来ない、倒すにしてももっと上位でイリョクがあるマホウを使わないといけない、あるとしたエンシェント・レビン古代の稲妻だ)


 前回ブラッディ・ベアと戦った時は外してしまったが、エンシェント・レビンであらばチャンスはある。

 しかし、動き回るブラッディ・ベアを相手に確実に当てるどころか、長い詠唱を唱えきれる自信がない。

 そんな時、ナキは一一歳の誕生日に見たある魔法の事を思い出した。

 

「コイツ、デ、肉、捕マエル。大人、シク、オデニ、喰ワレロ!」


「(もう考えてる時間はない‼)

 〝アイス・フェンス〟! クルークハイト、後方に下がれ‼」


「どうしたんだナキ⁉」


 ナキは可能な限りアイス・フェンスを発動させ、ブラッディ・ベアを足止めする。

 ブラッディ・ベアがアイス・フェンスを破壊する事に夢中になっている内にナキはクルークハイトを連れて距離を取る。

 ブラッディ・ベアから一定の距離を取ると、ナキはクルークハイトにある話をする。

 

「クルークハイト、落ち着いて聞いてくれ、今からかなり危険なマホウを発動する。

 念のためアイス・ウォールを可能な限り何重にも張るけど、持ちこたえられないかもしれない。

 俺が詠唱を唱え始めたらすぐに身を伏せてくれ」


「持ち堪えられないって、そんなに危険な魔法なのか?

 そんな魔法を使ってもナキは大丈夫なのか⁇」


「それぐらいのマホウを使うしかアイツは倒せないんだ。

  俺自身に関しては問題ない、それに今言ったマホウは習得するために何度も練習してる、今は俺を信じてくれ!」


「……わかった、今はナキを信じる! だけど無事でいろよ⁉」


 ナキの説得を受けたクルークハイトは、ナキの事を信じると断言した。

 クルークハイトから了承を得たナキは、魔力を込めたアイス・ウォールを何重にも発動させ、クルークハイトの安全を確保する。


 そしてブラッディ・ベアの方に急いで戻った直後、ブラッディ・ベアがアイス・フェンスを破壊し終えた。

 それを見たナキはすぐさまある二つの魔法を発動させた。


「〝アイス〟! 〝バインド束縛〟! 〝パラライズ麻痺〟!」


 ナキが発動したのは、アイスと以前目撃したバインドとパラライズだ。

 この二つの魔法の効果であれば、アイスに加え拘束力が上がりブラッディ・ベアを少しでも長く動きを止める事が出来ると考えたのだ。


「グギ? グギギギギッグギギッギギッ⁉」


「(動きが止まった! チャンスは今しかない‼)

 〝青き空を覆い、黒き帳で隠すその雲の姿は、古来より君臨せしイカズチの神の怒れる姿。

 青くほとばしる稲光はその怒りが地上へと落ちる前触れ、避ける事の出来ぬ神の神罰。

 イカズチの神の怒りを買いし愚かなる者共よ、その身をもって己が罪の重さを思い知れ。

 エンシェント・レビン!〟」


 ナキは早口口調でエンシェント・レビンの詠唱を唱え終える。

 それと同時に上空に黒い雲が発生し、青い稲光が迸る。

 エンシェント・レビンの発動に成功したナキは、ブラッディ・ベアに視線を向ける。


「いっけぇええええええええええええっ‼」


 その直後、ブラッディ・ベア目掛けて雷雲から青い稲妻が落ちる。

 青い稲妻が落ちると同時に、凄まじい轟音が鳴り響き、百合畑に激しい砂埃が発生した。


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